『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:14


季節は秋真っ盛り。何処の学校も行事に大わらわな頃合いに、例にも漏れず望嘉大付属高校も行事が目白押しだった。
「グミッちゃん、こっちこっち!! 」
「漣っ、よかったぁ。あれ、凛は? 」
「今までのお前と一緒でどっか行ってる」
「え、それ大丈夫なの!? 」
「いいよ放っときゃ。どうせいつもの迷子だろ」
「いやいやいや、駄目でしょソレ」
青々とした空の下、望嘉大付属高校3学科の校舎のちょうど中間の位置に作られた校庭には全校生が集結していた。今日は今学期入って最初の大イベント・望嘉大付属高校の大体育祭なのである。
本日はお日柄もよくから始まり、開催の空砲が5発ほど鳴らされ、会場は沸き立った。生徒数が多いことから学科別、部活別、学年別で様々なイベントが盛り込まれていて、最終トータル計は学科別。更にそこから絞り込んで選ばれた1クラスには特別最高点賞なるものが与えられる。学科別優勝はこの先の冬休みが3日おまけでプラスされ、特別最高点賞クラスには学食半年分が特典として付与される、部活別優勝部には部費の増額が約束されていることもあり、毎年異様な盛り上がり方を見せていた。盛り上がる反面、一部生徒達の表情からは必死さが滲み出ている。その原因は総合計最下位のの1クラスだけには最悪のペナルティが用意されているからである。過去の例から見てもその出される量の半端無さに、内心ヒヤヒヤしている生徒も少なくない。
そんな色んな胸中入り交じった望嘉大付属高校・大体育祭。ジャマ研1年生の漣と久美は人を掻き分けて凛を探すことが開催最初の演目となった。

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毎年演目は様々な趣向が催されている。定番のものからその年だけのものもあり、実行委員会側の本気が伺えた。出だしは毎年定番の学科別男子対抗騎馬戦で、三竦みの戦いが繰り広げられた。学年関係なく学科男子全部での対抗戦の為、結構壮観な光景になる。
「いけぇえぇーーー! って、もぅちょっと!? そこの何処ぞの馬鹿めっ、さっさと櫂人先輩の服剥いてよ!? 写真撮れないじゃない!! 」
「み、未来ちゃん・・・。それはさすがにヤバいって」
「何言ってんのよっ、何の為に弱み握って賄賂まで渡したと思ってんの!? 今日という今日はかきいれ時なんだから絶対妥協はしないからね!!! 」
そう例えようの無い恐ろしい必死な形相で捲し立てる未来のポーチバックには大量のバッテリーとSDカードが入っているのが見えた。2人のやりとりに周りが引き潮の様に距離を取ってそれを眺めている。しかし遠巻きに見ている女子達は密かにその写真の購入を狙っていたりしていた。
「あーっ、未来先輩、拍先輩~~~っ」
「え、あ、凛ちゃん。どうしたの、こんなところに」
「漣とグミッちゃんとはぐれた~」
「いつ? 」
「開会式ん時から」
「そ、そんな前から!? 」
すでにこの時点で開会式から30分は経過していた。その頃すでに漣は久美に掛け合って凛を探すのを諦めて騎馬戦に参加していたし、久美も闇雲に探すと再び自分が迷子になると知っていたのでクラスのブースで観戦していることを凛は後々知ることになる。
「っしゃぁーーーっ! いけっ、そのままっ!! 」
派手なドラムロールのロックナンバーが流れる中、制限時間終了を告げる銅鑼が大きく鳴り響いた。今年の学科別最初の勝ち点を得たのは国際交流科。交流を掲げているだけあって文武両道に秀でている面々の活躍が大きく現れた結果となった。

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それから順当に玉入れやリレーが滞り無く進み、それなりの盛り上がりを見せた。午後一の演目・学科女子別の大玉転がしの回にいたっては、外から玉を押して転がすのではなく玉の中に入ってハムスターの様に走って転がすレースの為、途中凛がコけてそのままゴロゴロと転がり二次被害を生み出して場を盛り上げた。終わった後、当たり前の様に漣が凛をクラスブースまで引きずっていく光景に周りは生暖かい視線を向ける。秋だけにまったりと癒しを誘う風の様な双子の行動はこんな時ですら周りには微笑ましく映る。最低点を叩き出した凛だったが、あまりの面白さに誰も咎めることは無かった。
「凛大丈夫かしら? 」
「漣が居るから大丈夫だろ。それより留佳は何処行ったんだ、さっきまでそこに居ただろ? 」
「それがワタシもさっきから探してるんだけど居なくって」
ブースは各学科クラス別で組まれてはいたが、誰も彼もが好き勝手にブースを渡り歩いていた為、櫂人と芽衣子も留佳の居るブースで一緒に観戦していたのである。しかしその肝心な留佳が何処かへ行ってしまい、2人は辺りを見渡していた。
「あれ、そういえばさっきまで本部の方に荒巻先生居たよな? 」
「そ? ワタシ見てないから解らないけど。あっ、もしかしたらこのプログラムのせいじゃない? 」
「あぁ、これか」
そういって開かれたプログラム表に2人して目を落とすと、午後から始まる演目を数えて4番目にあたるプログラムに『教員による応援演目』が組み込まれていた。この演目は毎年在校生のみならず卒業生から保護者達の間でも人気のプログラムとなっている。実際に保護者観覧席には午後に入ってから午前中よりも多くの人が押し寄せていた。
「また未来がよろこびそうな内容よね」
「拍の苦労が目に浮かぶな」
何気ない会話が続いていく。その間に午後2番目の演目が終わり、3番目の演目のアナウンスが流れた。

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『それでは続いての演目、教員による応援プログラム・一刀両断です』
アナウンスが流れ、教員達が躍り出た。周りからは盛大な拍手と歓声で迎えられる。凛を介抱している漣の横で、久美が何とはなしに会場の方へ目を向けると、群衆の最前列でデジカメを二つ構えで目を輝かせている未来の姿を見つけた。それを見てさすがの久美ももう慣れたのか、呆れた表情で笑って流した。
「「「キャァアァーーー!!! 」」」
更に巻き上がった歓声に久美が視線を戻すとそこには岳歩が現れたところだった。行事での写真撮影は基本写真部や学校広報以外は原則撮影禁止なのだが、唯一の規格外・未来がそれをおおっぴらに許されているのは単純に未来が暗躍しているせいである。教員の中でも何人か裏を握られているとの噂もあって、教員達も見て見ぬ振りである。
「おぉ、名物企画~」
「漣。凛はもういいの? 」
「この演目始まったって言ったらすぐ治って特等席探しにどっか行った」
「え・・・ちょっ、それまた大丈夫なの!? 」
「いいよもう、放っとけ」
そう言いつつ、この演目が終わったら漣は凛を探しに行くんだろうなぁと思わずにはいられない久美であった。
教員勢は全員濃紺の袴姿だった。いつもは下に髪をくくっている岳歩も今日は上に結びあげている。滅多にない姿に女生徒達の黄色い悲鳴が半端ない。その横で氷川先生が穏やかそうにその光景を見やっていた。
「いやぁ、荒巻先生大人気ですねぇ」
「あとが面倒ですよ」
「そう言わずに。古くからの先生達のことはこの行事を楽しんでから考えればいいだけのことです」
「・・・石川が氷川先生を褒めてましたよ」
「おぉ、それはまたぁ。光栄です」
未来の言う通り、一番掴みどころがないといった点では氷川先生はそれを体現した人間だと言えよう。岳歩も自分が大概とらえどころの無い性格であることは自覚しているが、それらは大抵わざとやっている部分もある。氷川の場合はそれが一切見受けられないだけに、言葉通り“掴みどころがない”である。
教員達の準備が終わり、勢いのある雅楽がスピーカーから大音量で流れ始める。年功序列ということもあり、年の若い教師達は後ろの方に位置している。曲に合わせて演武が始まる。合気道の型でその行動通り“気合いを入れる”に準えての演目である。恰好自体がすでに流行の過ぎた某大河ドラマをフィーチャー感じが否めないが、盛り上がっているだけにそれは成功といえよう。
「ガッポイ目立ってんねー」
「一応剣道有段者だしねぇ」
「え、まじで? 」
「うん、昔からだよ。今はもうやってないけどたまに運動不足に腕慣らしするくらいって言ってたし」
「はぁ~、まんまじゃん」
漣は岳歩を見た。漣の意見は多分会場の総意にあたる。それくらい岳歩は教員の中で目立っていた。

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教員達の演目も終わり、会場からは名残惜しむ声援が残る中、続いてのプログラムがアナウンスに流れる。
「よぅ、先生。お疲れさん」
「草薙。お前何で此処に居るんだ、次は部活対抗だろう」
「部活対抗は選抜4人だからな。去年一昨年と私が出たらもう出てくれるなと今年は実行委員に泣かれた」
「あぁ…、なるほどな」
2人は今の3年達が1年の時からの付き合いではあるが、留佳の破天荒ぶりはその当時から轟いていた。特に行事に関しては行事荒らしの異名を取りかねない程、常にぶっちぎりで特別最高点賞と部活優勝2年連続1位をかっさらい続けたのだ。さすがに実行委員会に苦情が殺到し、今年留佳にはどんなに多くても3~5つまでと制限を受けたのだ。
「で、誰が出るんだ」
「先に名簿を提出しただろう。先生、見てないのか? 」
「これの練習で見る暇がなかったんだよ。何かにつけて練習練習って駆り出されていじめられてなぁ」
「逆にいじめ返したの間違いだろう」
出場者入り口を見やると、そこには櫂人と芽衣子、それから漣と凛の姿を見つけた。2年生が出ていないのは消去法、未来を留めるのに拍だけでは足りないので久美が残されたのである。それなら未来を出場させればいいだけの話だったのだが、それを未来が物凄く理不尽な熱弁で他の意見を許さなかったのである。それ故の対処だ。
「しかし今年のは極悪だぞ~」
「どういうことだ? 」
「いや、今年は出場制限を受けたから割に合わんと思ってな。これが始まる前に実行委員にヨロシク言って内容を聴いたんだが…」
「脅したの間違いだろう。お前、石川があんな性格になったのはお前が原因なんじゃないか? 」
「失敬なっ、それは逆だ。私はそもそもそんな回りくどいことは苦手だったのだ」
確かにそうだと、納得せずにはいられない岳歩だった。
「その内容というのがだな」
留佳の口から語られた内容は例年稀に見るくらいの極悪さを誇っていると認めざる負えなかった。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:14

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

世の中変わりましたよねぇ~
すっかりおばあちゃんになった気分、何2学期に単位制の高校って
うちら3学期だったよ、更に遡れば土曜日は半ドンだった時代もあったさ
そして大体誕生日に運動会が被るか、天気で潰れるかという極悪の引きの強さを誇っていた記憶がある
なんで今回からしばらく行事回( ̄ω ̄)
ちなみに個人的には行事、部活関係以外は嫌いだったなぁ(そんなヤツが何を書いているんだと思うがw

今回は書いてる間に途中行き詰まって一旦置いた;
その後まぁどうにかなったと思いたい(笑
そして黒の長ランか濃紺の袴か、悩んで後者にする(ちなみに鉢巻はご想像にお任せします、悩んだんで書いてない
だっていいじゃないか、袴っ(完全に個人的趣向
曲は限定してないけど、今回は和楽要素を入れる
次回には正規企画の曲を探していれるつもり
音楽ってのはどれとも一緒で触発しつつされつつで生まれる様なもんだから、他要素もあっていいかなぁと思わなくもない感じ( ̄ω ̄)

はてさて、1回でまとめようと思ったけど案の定のびました
次は部活対抗ターーーン

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投稿日:2012/10/14 15:50:13

文字数:4,328文字

カテゴリ:小説

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