明るい昼下がり、リンはまたメイコの元を抜け出して城下町へ、颯爽と繰り出していた。
 香ばしいソーセージの香り、目に鮮やかな色とりどりの風船や、どこからともなく聞こえてくるキレイなオルゴールの音が、リンの心のウキウキやらドキドキやらワクワクやらの気持ちの高まりをさらに引き上げる。ちなみに、嬉しそうに飛び跳ねていくリンの横で無理やり連れ出されたレンがかったるそうに歩いていた。
「レン、見てみて!飴細工っ!キレー」
「…リン、戻ったほうがいいんじゃないか?メイコさんも心配してるだろうし…」
 まあ、自分もそうなのだが、と心の中で言いながら、レンはリンに忠告をしてから飴細工に目を落とした。黄色や赤、色鮮やかな飴が滑らかに曲線を描いてさまざまな形を作り出し、つややかな光を称えつつ、鈍く反射させていた。
 見渡す限り、賑わいを見せる商店街は、年中ずっとこれだけ騒がしくやっているのだろうか?だとしたら、随分非常識な奴らの集団だな、と思ってレンはリンのほうに視線を戻した。
 真夏の太陽の下でヴァンパイアが飴細工観賞というのはどうにもミスマッチな風景にもおもえたが、レンは特に辛そうな顔もせずに涼しい顔で飴細工を見つめて嬉しそうにはしゃぐリンを見ていた。自らと同じ金髪が、白いリボンとともに日光を浴びてひかり、彼女の無邪気な笑顔の可愛らしさと、美しい対比を見せた。
「――レン、次はどこ行く?遊園地と水族館と…」
「もう帰る」
「えぇ、何でぇ?」
「眠いから。日光浴びすぎると、皮膚ガンになる」
 いうなり、レンは今来た道を戻り始めた。何故ヴァンパイアがそんなことを知っているのか、リンは不思議に思いながらレンの後をついて渋々帰路についた。

「えっと…キカイトさん?」
 わざわざ敬称までつけて、カイトはキカイトを起こした。
「――…は、はい?スミマセン、どうしました?」
 頬杖ついたまま眠っていたキカイトは、カイトに揺さぶられてやっと目が覚め、少しあわてて顔を上げた。
「つかれてんなら、ねたほうがいい。俺らが留守番くらいしてやんよ」
「…いえ、結構です。それで、何か用があるのでは?」
「ああ、カイトは王子サマの意思を尊重したとか言っていたが――人間界はこちらとは違う。慣れていないしまだ幼い王子サマは早急に連れ戻さないと」
「連れ戻さないと、何です?」
「…死ぬぜ?」
 ピクッとキカイトの耳が動いた気がしたが、アカイトは何も言わずにただ見下ろしていた。長身のアカイトの、まるで戦火のような、まるで血のような真っ赤な瞳がひまわりのように鮮やかな黄色が写った。
「…分かっています。十分、それは承知しています。ころあいを見て、私が出向きましょう。王子一人を連れ戻すくらいならたいした重労働ではありませんよ」
「お前、困ったときは力任せじゃ王子サマはどんどん捻くれるぞ?」
「軍事指揮官の貴方に言われたかないですよ。…捻くれたってかまいません。私の仕事は、王子を守ることではない。王子が国民から批判を受けぬよう、隠すことです」

「リン、また抜け出して!」
 二人が帰ってくるなり、メイコは両手を腰に当てて怒りを表した。
「帰ってきたんだからいいじゃん!ねぇ、レン?」
「じゃ、俺は部屋に戻る」
「えぇ?もっと会話のキャッチボールを楽しもうよ」
 不満そうにリンがレンに抗議したが、レンはかったるそうに部屋に戻っていき、部屋に入るなりベッドに倒れこんだ。心臓が尋常じゃないくらいにドクンドクンと脈打ち、血管がはちきれてしまうのではないかと思うほどに体中が熱かった。
 帰路についた辺りから目まいがして、ここまで戻ってこられたのが奇跡ではないだろうかと思うほど、視界が揺らいで見えていた。やはり、カイトが言っていた通り、人間界は体があわない。日が差すことのないヴァンパイアの国で生きてきたレンに、日光は強すぎたのかもしれない。
 体中が異常を訴えている。それは、本人が一番よくわかっている。しかし、こんなところでカイトたちの元に戻ればレンのちっちゃいプライドはズタズタだ。それに、戻り方すらよくわからない。おそらく、魔術の中の簡単なものなのであろう。しかし、魔術をまともに習ったことがないレンとしては、そんなことは『クソ食らえ』といった状態で、戻り方を知っているはずもなかった。
「レン、大丈夫?」
 ドア越しにリンが声をかけた。
「リン、大丈夫って何が?」
「具合悪そうだったよ?」
 見透かされていたのか、と思いながら、レンはそっけなく答えた。
「別に?なんともないけど」
「そう?なら、別にいいんだけどね。お菓子食べる?用意してるよ?」
「ん、いらない。ちょっと寝る」
「寝すぎだよ」
「俺、ヴァンパイアだもん。夜行性なんだもーん」
 そう言って枕を抱いてベッドに倒れこむ。すぐに眠りの世界に引き込まれていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

遠い君 8

こんばんは、リオンです。
ちょっと面白いことがあったので報告。
今日、個人懇談がありまして、先生と私、一対一の話をしました。
話の流れで、VOCALOIDについて簡単に話すと、先生もちょっとだけ
知っていたみたいで、『初音ミク』というロゴをみたらしく、
『ハツネミク』を『ハツオトミク』と読んでいて、一応訂正して
懇談が終わった後に一人でくすくす笑ってました。今思うと、怪しいですね、
自分。
それでは、また明日!

閲覧数:355

投稿日:2009/12/09 22:47:55

文字数:2,011文字

カテゴリ:小説

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  • 癒那

    癒那

    ご意見・ご感想

    はじめまして~癒那といいます。
    私の友達は鏡音レンを「かがみおと レン」っていいましたよ~

    後でルカさんは?って聞いたら無言でした・・・

    2009/12/10 20:51:19

    • リオン

      リオン

      始めまして、悠那さん。
      やっぱり普通に読んだら音は「オト」なんですかね?

      ルカさんはまだ浸透していないのでしょうか。それとも、ちゃんと読めていただけなのでしょうか。

      2009/12/10 20:56:05

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