風の強い日は、なんだか少し不安になる。

家族と離れて一人暮らしだから、というのもあるだろう。
住んでいるアパートが安普請で、吹き付ける風の音がよく聞こえるのもきっと原因の一つだ。



『…だからって、そんな理由で呼び出さないでくれない?いい年した大人の男の癖に』

「いいだろ別に。ちゃんと歌も歌わせるぞ?」

パソコンのモニター越し、MEIKOにあきれたような声で文句を言われたが、おれは平然とした態度でそう返した。

『はいはい。風の音をごまかすために、ね』

「だけじゃないって。あれなんだよ、不安ってかちょっと人恋しいみたいなとこもあるからさ、お前の声が聞きたいんだよ」

俺がそう言うと、MEIKOは少しびっくりしたような表情をした後、少し視線をそらしてこう言った。

『…べ、別に、人の声で安心するなら、わざわざボーカロイドの私に歌わせるより、テレビでも何でもつければ人間の声が聞けるじゃない!』

「いや、俺はお前の声が聞きたいんだよ」

『え?』

そう、俺は別に人の声が聞きたいんじゃないんだ。

「だって、テレビから聞こえる人間の声は俺に対して何か言ってる訳じゃないだろ?でも、ボーカロイドであるMEIKOの声や言葉はこうやって俺に向けられてるし、歌だって俺の為に歌ってくれる」

『でも、それは…。私がボーカロイドで、マスターが私のマスターで、そういう風にプログラミングされてるからよ?』

珍しくどこか不安気は顔をするMEIKO。
なんとなく頭を撫でてやりたくなったがそれは無理なので、俺はその姿を移すモニターの上にポンと手を置いた。

「理由は別にプログラムでも何でもいいんだよ。俺にとって重要なのは、お前が他の誰でもなく俺の為にこうして喋ったり、歌ってくれるっていう事実だから」

『私が、他の誰でもなく、マスターの為に…』

MEIKOはそう呟くと、これまた珍しくしばらくはぼんやりとしていた。

「…で、だ。とりあえず、この曲を今からお前に歌ってもらいたいんだが」

『…マスターの為に?』

「そう、俺のために」

そう言って俺がニヤっと笑うと、MEIKOはクスッと笑って小さく頷いた。

『もう、しょうがないから歌ってあげる。マスターのために、ね』

「おう、歌ってくれ」



その日、MEIKOの歌声がいつもより伸びやかに聞こえたのは、果たして俺の気きのせいだったのか。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

あなたの為に歌う歌

気が早いにも程がありますが、MEIKOさん誕生日祝いということにして珍しく姉さん主役の話をひとつ。

パソコン内に住むあまり態度には出さないけどマスターのことが好きなMEIKOさんと、情けないんだか男らしいんだかわからないマスターのちょっぴりラブコメな話のつもりで書きましたが、結果よくわからないものになりました。

しかし長編が行き詰まれば詰まるほど何故か短編ははかどる不思議。

閲覧数:110

投稿日:2010/10/29 04:05:07

文字数:1,010文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    う~ん。長いこと連れ添った相方って感じが、イイカンジですね。これは良いメイコだ。
    多くのPの方々が、こんな風にのんびりと、末長くボーカロイドと付き合って行って頂けたらなぁと思います。
    かく言う僕も、いつかは自分のボカロを持ちたいなぁ……(夢)。

    それでは、長編の方も頑張って下さいねw

    2010/10/29 21:25:49

    • スコっち

      スコっち

      お返事遅くなってすみません!
      携帯のメモに下書きだけして返したつもりになってました(汗)

      私の中でめーちゃんは「マスター」の相方的存在になってくれそうなイメージなので、そういう路線で書いてみました。
      本当、ボーカロイドとの付き合いは一時のものでなくずっとであればいいですよね。

      自分のボカロを持ちたいっていうのは、やっぱりボカロファンの夢ですよね。
      自分も、うっかり体験版に手を出したばかりにミクをお迎えしたい欲求が日に日に積もる一方です(笑)

      では、感想ありがとうございました!
      長編の方も頑張ります!

      2010/11/03 02:08:58

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