「マスター」
鏡の前で、コンタクトを挿入する。
すると、カイトの姿が後ろの鏡に映る。

「…あんた何やってるの?」
その姿を見て、呆れ半分怒り半分で声を掛ける。

「え…、マスターのメガネを掛けてみました!」
何が誇らしいのか、カイトは嬉しそうに敬礼をする。カイトが嬉しそうにするたび、こちらの空気が下がっていく。

「わざと?」
こちらはこれから出かけるのだ。不用意にこちらのテンションを下げるような真似は控えてほしい。

「え…、いや、その…。」
さすがのバカイトでも、私の怒りを感じ取ったらしく、口篭る。

「だったらアホな事はしないの。よかれと思った事で叱られたら嫌でしょ?これ以上怒らないから、私が何で怒ったか考えてみなさい。」
じゃあ、行ってくるわね。

支度も終え、私はカイトを置いて出かける。今日は高校の時の友人に会いに行く。




「マスターが、怒った理由…。」
マスターがお出かけをして、俺は広い家に一人きり。ボーカロイドが俺しかいないのはマスターが独占できて良いけど、マスターがいない時は寂しいな。

「じゃなくて、俺はマスターを怒らせてしまった理由を究明するのだ!」
ガッツポーズをして、自分を励ます。



1分後。
「はぁ、なんで俺、いつもマスター怒らせちゃうんだろ…。」
1分後、原因究明が、何故か反省会にシフトしていた。


ルルル~♪
う~!と頭を抱えていると、パソコンがメールを受信した音がした。

「えっと…。あ、マスター!」


FROM:マスター
件名:(non title)
本文:どうせ今頃、原因究明とかしてたクセに反省会とかしちゃってるんでしょ。

そんなカイト君に一つヒントを差し上げましょう。

別に、やってる事自体がタブーって訳じゃないの。ただ、時と場合を考えなさい。
あんたはやれば出来る子なんだから。期待してる。

親愛なるカイトへ
貴方だけのマスターより

-- END --


「マスター…!!」
メールを読み終わった時には、俺の視界は涙でぼやけていた。

「俺、頑張ります。」
ひくひくと、まだ涙の余韻は引かないが、俺は一つ決意を新たにした。




(カイト、今回はちゃんと反省を生かせるかしら?)
同時刻、マスターは頭の片隅でそんな事を考えていた。




「マスターが、怒った理由…。」
今日俺がやっちゃったのは、マスターの眼鏡を掛けた事。
で、この前は、マスターのゲームを勝手にやった事?他には…。

今までやらかした事をどんどん挙げると、何だか共通点がある気がしてきた。
マスターの物を勝手にいじってそのまま放置した事だ。それは、怒るよなぁ、マスター…。はぁ。

口からは、深い溜め息しか出なくなってしまった。
時計を見ると、まだ12時42分。マスターが出掛けたのは9時くらいだから、マスターが帰ってくるのは当分先か。はぁ…。
二度目の深い溜め息をついたとき、迷いなく玄関の鍵が開く音がした。

(一体、誰!?)

警戒して玄関の方へ体を向けた時、意外な人物の声がした。

「ただいまー。カイト君、原因究明はできた?」
マスターが帰ってきた。

「ま、マスター。ご、ごめんなさい。俺、いつも考えなしの情けない行動ばっか取ってました。」
玄関まで歩くと、俺はマスターへ向かって深々と頭を下げた。

「わかればいいのよ、わかれば。」
頭をぽんぽんと叩く優しい手の温もりに心を温めながら、俺はそっとマスターを見上げた。

「もう、怒って、ないですか、マスター…?」

すると、言葉の代わりに抱擁が降ってきた。
マスターは俺より小さいけれど、俺の頭をひくく下げ、俺の頭をそのふくよかな胸元に包み込む。

「ま、マスター…!!」
離して下さい!と、俺は顔に熱を集めた状態で叫び、暴れた。
けれど、マスターの力は存外強く、俺を離さない。

「あんたはあんたのままでいいの。無茶はしないでいいの。」
その言葉には、何か深い意味がある気がした。

「あんたも、無闇に外に出たりして、ボロボロに故障した状態で帰ってくるなんて、止めてよね。」
それは、昼のニュースで見た事だった。
昨今のボーカロイドは進歩を遂げ、アプリケーションソフトから人型として歩けるようになったのだ。
昼のニュースとは、まさにこの進歩が仇となったと言えよう。
ボーカロイドが、車に牽かれたのだ。前方不注意だったという。まだまだ、ボーカロイドは一人で外を歩けるまでの進歩は遂げていないという訳だ。

「勿論です。親不孝みたいな事はしたくないです。大好きな、マスターの為にも。」

あれ、何かを忘れているような。ふと思い立ち、時計を見る。

「マスター。」
俺がマスターに声を掛けると、はっきりわかるほどに肩をびくつかせるマスター。これでは、隠し事してますって言ってるようなモノだ。

「な、何?」
マスターは視線を俺から外し、相づちを打ってくれる。

「マスター、早いですね。何かあったんですか?」
すると、顔を羞恥で赤く染めたマスターは何やら口籠ると、やがて俺に小声で伝えてくれた。

「あんたが、大切だからよ。察しなさいよね、それくらい。」
マスター、それはつまり――


――END――

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

眼鏡兄さん

東 晴夏さまの『眼鏡な兄さんはお好きですか?』にときめきを覚え書いてしまいました。

今更な感が否めないですが、読んでいただけると嬉しいです(^q^)

※7/21日にアップした小説ですが、説明文での誤字がありました。
大変失礼いたしました。現在は修正いたしましたが、他にも誤植等々、ございましたらご連絡いただけると嬉しく思います。
それでは失礼いたします。

閲覧数:387

投稿日:2009/07/23 22:43:50

文字数:2,215文字

カテゴリ:小説

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  • 冬馬

    冬馬

    ご意見・ご感想

    いえ、こちらこそ、あまりに時間が掛かってしまい、お待たせしてしまいましたです…(^^;)

    ありがとうございます、そういっていただけるとは、光栄です!

    わざわざ書いていただけるとは…、感謝の言葉ばかりです(^^*)

    こちらこそ、書かせていただいて、ありがとうございます。

    それでは失礼いたします。
    冬馬でした。

    2009/07/22 23:20:41

  • 東 晴夏

    東 晴夏

    ご意見・ご感想

    わぁぁ。。ありがとうございます~!! (*⌒∇⌒*)
    いえいえ、しっかり書き上げてもらえただけでも感謝です! m(_ _ )m

    一応、ココへのリンクをイラストのコメント欄の方に張っておきました。
    (↑ご迷惑でなければ…)

    カワイイ兄さん小説をありがとうございました~≧(´▽`)≦

    2009/07/22 22:57:16

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