日本に来て。
兄弟達と再会し。
マスターに出会い。
皆に愛され。
私、巡音ルカは遂に1周年を迎えた。
幾度と数え切れない困難や苦しみ、そして嬉しさ楽しさ。
幸も不幸も全てを与えてくれる自分を取り巻く環境。
いつだって感謝したってしきれない。
愛して止まない私の大切な人々。
本当に有り難う・・・
大好きよ。
「ルカ姉~~!」
夕暮れが近い屋上で物思いに耽っていたら背後から激しい衝撃を感じた。
「なぁに黄昏てんのよ」
白い大きなリボン付きのヘッドセットを付けた可愛らしい『お姉様』が私を見上げて笑っている。
「リ、リンちゃんっ・・・待って・・・」
屋上の入り口にはミクがぜいはぁと息を切らしながら扉の枠に凭れ掛かっていた。
「リン、ミク・・・どうした・・・」
「しゃら~っぷ!」
『の』という最後の一文字を言い切る事を許さず、リンはルカの口元を手で塞いだ。
「良い?黙って付いて来るの!」
ルカの手を引き、リンは走り出した。
ミクも携帯している刻み葱を一掴み口に放り入れると顔を引き締め二人の後を追うように走り出す。
屋上から一気に地上階までエレベーターを使わずに走り降りた。
その階数20階。
途中からルカもミクも引き摺り下ろされるかのようにリンに引っ張られ降りて行った。
一体リンは何処までパワフルなのか・・・
外へ出るとロードローラーの運転席に見慣れたバナナ頭を見つけた。
「おっせぇぞ!リン!ミク姉!」
「ゴメンごめん、エレベーターが待ち切れなくて階段使っちゃったの」
そう云いながらリンはふらふらになったルカとミクを後部座席へ押し込み、自身も助手席へ陣取った。
「おまっ・・・待ち切れなくてもエレベーターは待・・・!!」
言い掛けたレンに睨みを一筋飛ばしリンは顎をしゃくる。
「さぁ、さぁさぁさぁ、時間は待っちゃくれないわ!行くわよレン!」
「ちぇっ、仕方ねぇなぁ」
バックミラーから見たミクとルカは肩で息を切らせながらそれぞれぐったりとしていた。
「出発進行~~!!」
そんな二人などまるで構う余地も無いと言わんばかりにリンは号令をかける。
レンはハンドルを握り締め雄叫びを上げた。
「WRYYYYYYYYYYYYYYYN!!!」
「ちょっと3人とも、これは一体どういう事?」
少しばかり呼吸が落ち着いたルカは困ったような顔で3人を見回した。
ついさっきまでルカは1人屋上で今日までの生活に感謝を捧げていた筈だ。
それが今はまるで誘拐のように3人に連れ出され、レンが運転するロードローラーの振動に揺られている。
「ルカちゃんにどうしても見せたいものがあるんだ」
携帯刻み葱を貪り食いながらミクが答えた。
「見せたいもの?」
葱臭くなった車内に若干顔を顰める。
「お~っとミク姉、それ以上はダメよ」
ダッシュボードに足を乗せ腕を組み、踏ん反り返って座っているリンがミクへ視線を送る。
それがアイコンタクトなのか、ただミクを見ただけなのかルカには判断出来なかった。
取り敢えずここでどれだけ聞いたとしてもリンが答えをくれる事は無さそうだ。
なら別の話でもしながら気を紛らわす、それしかない。
「ミク、貴女いつも刻み葱を持ち歩いてるの?」
小さなタッパーに詰め込まれていたのであろう細かな葱たちは既に大半がミクの体内へ吸収されてしまっている。
「ホントはね、切らずに持ち歩きたいんだけどね」
「ミク姉に長葱持たせるとハリセンみたいに使うんだもん」
他愛のない会話に華を咲かせて10分ほど揺られ続けただろうか、ハンドルを握ってから前しか見ていなかったレンが口を開いた。
「2人とも舌噛むんじゃねぇぞ!!」
その言葉と共に急に車体が『ガタガタ』と揺れ始めた。
否、今までもルカやミクのように乗り慣れていない者からしたら充分過ぎる揺れだったが、それを遥かに凌ぐ。
「いっけ~~~!!!」
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYN!!!!!!」
リンとレンは慣れたもので、その揺れを楽しむかのようにはしゃいでいた。
不慣れなミクとルカは揺られるがままにドア、天井に頭を打ち付けた。
急な坂道を上っているからだろうか、座席シートに身体が押し付けられる。
「もう少しだから頑張ってね、ルカ姉、ミク姉」
リンの言葉が何故か遠く感じた。
揺れが収まり、身体の自由が許されたのはほんの2,3分ほど後だった筈だ。
だがルカとミクには数時間経過しているようにも感じた。
「到着、お疲れさん」
ハンドルから手を離したレンは颯爽と飛び出した。
ルカは逃げるように車外へ出る。
足元が覚束ず、地面との距離が一気に近くなった。
「危ないよ、ルカ」
「えっ?」
身体を支えてくれたのは兄のKAITOだった。
「ちょっとレン、またアンタ危ない運転したんじゃないでしょうね?」
MEIKOの声も聞こえる。
「ちっげぇよ!俺はいつだって安全運転っ」
「じゃあ何で後ろの二人がこんな事になってるのよっ!!」
MEIKOは怒り半分、呆れ半分といった様子だ。
「はいはい、めーちゃん時間が無くなっちゃうよ」
ルカが1人で立てる事を確認したKAITOは身体から手を離し、MEIKOを宥める。
ミクはリンに支えられながら顔面蒼白だ。
「めー姉、準備は?」
「勿論、万端よ」
「さっすが、めー姉」
「いきなりすぎんのよ、アンタ達は」
「準備?」
ルカはリンとMEIKOの会話についていけない。
「今日はルカ姉の誕生日でしょ?」
「別にマグロをプレゼントとかでも良いかな~って思ったんだけどさ」
「どうせならいつもと違うものを贈って思い出になれば良いなって」
「それで今回のこの企画!」
「皆で過ごせる誕生日!」
リンとレンが交互に説明をくれる。
なるほど、そういえばさっきまでこの1年の感謝を捧げていたのは良いが誕生日である事を忘れていた。
「最近は仕事が忙しくなってきて皆で揃って過ごせる時間も殆ど無くなっちゃったけどさ、それぞれの誕生日くらい皆で祝えたら良いと思わないか?」
KAITOが優しげな微笑を満面に湛えルカを誘う。
到着してから全く周りを見ていなかったが丘のような場所だったのだ。
転落防止の為の柵の先には綺麗な夕日が見える。
「綺麗な風景でも見ながら皆で騒ぎましょってミクの発案なんだけどね」
そう付け足すMEIKOは既にワンカップを半分ほど空けている。
「めーちゃん呑むの早いよ」
「うっさいわね、アンタのアイス溶かすわよ」
「・・・・綺麗」
夕日に照らされた全員の顔は紅く染まる。
風景だけじゃない、皆綺麗だ。
嗚呼、ホントに・・・
「ルカ姉、はい」
ミクから渡された皿には綺麗に盛り付けられたマグロの刺身が乗っていた。
「来年もこうやって皆で過ごせると良いね」
気付けば兄弟皆が柵へ並ぶように立っていた。
「有り難う、皆。ホントに嬉しいわ」
束の間の夕暮れという時間。
ルカは、巡音ルカは感謝を捧げる。
日本に来て。
兄弟達と再会し。
マスターに出会い。
皆に愛され。
私、巡音ルカは遂に1周年を迎えた。
幾度と数え切れない困難や苦しみ、そして嬉しさ楽しさ。
幸も不幸も全てを与えてくれる自分を取り巻く環境。
そしてこうやって祝われる事の喜び。
言葉に表せないほどに嬉しい。
皆に愛されてる。
私も大好きだ。
この世界が。
KAITOが。
MEIKOが。
ミクが。
リンが。
レンが。
嗚呼、ホントに有り難う。
これからも皆と共に歩んでいけますように。
巡音ルカ 誕生祝い☆
お久し振りです、倉人です。
最近は仕事に追われる毎日で何も書く事が出来ずに終わる毎日です。
本当は今日もただ心の中でルカを祝って終わらせようかと思っていたのですが、何も参加せずに1日を終わらすなどルカ大好きの名が廃ると思い、急遽書き上げました。
ホントに勢いだけで何も考えず書いたので読み辛い部分が多々あると思います。
でもそれもルカへの愛故に・・・という事で無理矢理納得して頂けると幸いです(笑)
誕生日って「おめでとう」と云われたら「ありがとう」と返すのが当たり前のようになってますが、皆さんはその「ありがとう」を返す時、どんな思いを乗せますか?
さて、読んで頂き、本当に有り難う御座います。
ご意見、ご感想など頂けると嬉しい限りです。
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