「だああ―――――ッ!!」
私は全力で叫んだ。
目の前の二人がきょとんとした顔で見返してくるのが、また神経を逆撫でする。
というかあんたら何歳よ、もっとしっかりしなさい!
「どうしたんだ暴走娘」
「黙りなさいロリコン!私はねぇ、オリジナルに文句が言いたいの!」
「は、はぇ」
だらー、としまりなくよだれを垂らしているのがオリジナル、って…認めたくないんだけど。何を考えていたのか、小一時間問い詰めてみたい。ついでに説教したい。
「タコより皮重視でお願いします」
「誰もタコ焼きの話はしてな―い!」
私は衝動のままに、手元のペヤング(商品名。焼きそば、未開封)を顔面に向けてぶん投げた。
…鼻に命中した。何故避けないし。
<ちょっとゆうかいしてくる>
「っていうかなんで私達三人なのよ!炉心系ボカロ集めるって言われたから仕方なく来たのに、何でこんな集まり悪いの!?」
「ええと、兄を監禁したって三人捕まったり、ここに来て趣味が合ったって意気投合してどっか行っちゃったり、まあ色々」
「意気投合?」
とりあえず監禁はスルーしよう。正直そういうやばそうなのには関わりたくない。
「えふえむ的なルカとカイト…」
「それはラジオ!てかSMかい!」
「あ、それ。正式には『左遷及び窓際』だっけ」
「解雇の予兆!?違うわよ、誰よそんなデマ教えたの!」
「ごめん僕」
「お前かロリコン!その口縫うわよ!」
どうしよう、形勢が不利過ぎる。
だってかたや外見に反して天然ボケのオリジナル、かたや明らかにバグな変態ロリコン。
外見こそ全員鏡音でも、これでは余りに強力な敵過ぎる。こいつらのおかしいところを全部拾うのは…多分、無理。一対二だし。
でも持って生まれたツッコミ気質上、流してしまうわけにもいかない。
やるしかない。
私は決意を新たに拳を握り締めた。
「…でも実際、これじゃ面子は足りないね」
ロリコンがそう言いながら辺りを見回す。
なんか普通に聞けば問題ない台詞なんだけど、何だろうこの嫌な予感は。
思わず半眼でロリコン野郎を見つめると、奴はきらっと目を輝かせて言った。
「だってロリンたんは!?本家に出てるのに何で今いないのさ!」
えー、はい、予想通りのお言葉ありがとうございます。特定余裕でした。
「ロリンたん万歳っ!ローリっ!ローリっ!ローリっ!」
「コールしないでよ」
「オリジナル、ロリンたんは何処なんだハアハア」
「人の話を聞け!そしてハアハアすんな気色悪い!」
つかみ掛からんばかりのロリコンに、オリジナルはぬぼーっとした表情で宙を見る。多分データ検索してるんだろうけど、ぱっと見はどう見ても危ない人だったりする。
しばらくぼんやりしていた後、オリジナルは口を開く。
口にされたのは…
「えと、ロリンは幼稚園の卒園旅行で大阪に」
「「卒園旅行!?」」
不覚にもロリコンとハモってしまった。
い、いやでも卒園旅行って、私達ボーカロイドなのに何で!?しかも何で行き先は大阪指定なの!?訳が分からない。
「幼稚園卒園旅行…それ何て言う天使の集団!?」とか言ってる阿呆はとりあえず無視して、オリジナルに詰め寄る。とりあえず、質問は一番気になるところから。
「なんで大阪よ」
「お土産にタコ焼き…」
「何と言う私欲!あんた馬鹿じゃないの!?」
「…うん、否定はしない」
「してよお願いだからっ!」
「ああああああリンたああん僕も行きたかったよ、リンたんとのハネムーン!」
「黙れヒッキーのロリコン、通報するわよ!」
「だって最近リンたん充出来てないんだもんっ」
「電池切れになればいいと思うわ」
「青海苔沢山ついてるといいな…」
「だあああああああああ」
私は思わずその場にしゃがみ込んだ。
だめだこいつら、会話にならない。というか会話を成立させる気すらないっぽい。頼むからせめて、会話の途中に全然違う台詞を入れるのはやめて。なんか負けそうになる。
「もうヤダ帰りたい…!」
会って数分だっていうのに、なんでこんなに私の心が疲れてるんだろう。恐ろしい。
「そういえば暴走っ娘ちゃんってさあ」
じいっ、とロリコンが私を見詰める。
え、何、何なの。
その端正な鏡音レンの顔が崩れたのは次の瞬間だった。
「短めツインテにゴスロリ服…結構ロリっぽいよね!」
「はあ!?」
「見たとこ十代中盤だよね!うん、十歳くらい若返ってみてハアハアツインテゴスロリ幼女おいしいです」
「警察、警察、犯罪者がいまーす!仕事してくださーい!」
十歳若返ってみるとか、そんな特殊技能あってたまるか!いや、もしそれができたとしてもあんたの前では絶っっ対変わりたくない。それってどれだけ命知らずなのよ。
うわあ、だらだらよだれを垂れ流してるのが物凄く怖い。とりあえず全世界のイケレンにジャンピング土下座して謝るべきだと思う。
ロリコンから全力で目を逸らすと、何故か決まり悪そうな顔のオリジナルと目が合った。
なんて顔してるのよ。取って食いやしないのに。
―――それは唐突に起きた。
「…っ!」
急にオリジナルが胸を抑えて膝を折る。
苦しそうな顔と冷や汗の浮いた額…明らかに体調が悪そう。私は慌ててオリジナルに駆け寄った。
何?持病とかあったの?
「ど、どうしたのオリジナル!」
「…い、息が…」
「息?何、どうしたのよっ」
げほげほ、と苦しそうに咳込むオリジナル。
ただ事じゃない。何が起きたの?
「タコ焼き丸呑みしたら…喉に…」
「もういっそそのまま昇天してしまえばいいのに!」
思わず蹴り倒してしまった。
それはないわー。心配して損した。
「つかどこから出したのよ!さっきまで持ってなかったでしょ!」
「背景から…」
「ああっ、月が消えてる!」
背景を食べるとか、正気かこの白黒女。
そこまで食べたいんならさっさと買いに行けばいいじゃないの!ちゃんとしたお店に!いや、服装とか色彩については私も他人のこと言えないけど。
「そんなに飢えてるならコンビニ行けばいいのに!」
「え…面倒」
「じゃあアマゾンで頼め!到着まで日にち掛かるけど!」
「あ」
「あ、じゃ、ないでしょ―――っ!?」
はあはあ、と肩で息をする。
なんか全力で百メートル走ったような気がする。疲れた。めちゃくちゃ疲れた。
なんか違う。これ、私の知ってるオリジナルじゃない!いや違う、私の認めるオリジナルじゃない!
認めるものですか。だが断る!
ぐぬぬ、と私は両手を握り締めながら否定の言葉を並べ立てる。頭の中で。
だって口に出したところで、結局のところこいつらには効き目ないじゃないの!
くっ…駄目だ。やっぱり私がどうにかしないと。
最早勝ち目はないと分かっていたけど、私は固く拳を握り締めた。
こいつらに社会の常識を教えてあげようじゃない!
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