『グスッ…こわかったよぉ…ヒック…』

『だいじょうぶ、ぼくがずっとまもってあげるからね』




～メイコside～





ジリリリリリリ!!!

「むにゃぁ、あと5分…って駄目だ、私！起きるんだぁぁぁ!!!」
そう言って自分で自分を起こす。
だって、今日から私は高校生！
昨日からは念願の一人暮らし!!
というわけで、私は昨日から新しい環境に置かれている。
だからかもしれない。
あんな夢を見たのは。



昔住んでいた町にには、有名な悪ガキがいた。
ある日、私が一人で遊んでいると、そいつがいきなり殴りかかってきた。
私は避けきれなくて、パンチをボディーに喰らった。
今思うと、顔よりはマシだったかもしれないけど。
そんなとき私を助けてくれたのが、近所に住んでいた青井カイト…カイト兄だった。
カイトお兄ちゃんは、私を背負ってさっさと逃げた。
そして逃げ切ったとき、私は安心して、安心したら涙が溢れてきて…
そんな私を元気づけるためだったのだろう。
「ずっとまもってあげるからね」などという恥ずかしい台詞を真顔で言ったのだ。


なのに。
私が小３、カイト兄が小4のとき、カイト兄が急に引っ越すことになった。
なんで。どうして。ずっとまもってくれるって言ったのに。引っ越す場所も教えてくれないの？
そんな私にカイト兄がくれたのは、一枚の写真。

私とカイト兄の２ショット…というと恥ずかしいので、思い出の写真、とでも言っておこう。


私は今もこの写真をケースにしまって大切に持っている。
お守り代わりというやつだ。
決して初恋の相手が忘れられないとかじゃないぞ、って誰だ今ツンデレって言った奴は!!
っていうか私は誰に説明しているんだぁぁぁぁ!!!


まあいいや、とりあえず準備ができたからもう行こう。
あ、そういえばまだお隣さんに挨拶してないや。
今時間無いから帰って来たらにしよう。

そんなことを考えつつドアを開けると、ドアの前になんかうちの高校の制服を着た男子がいた。
多分隣の人だ。うちのアパート１階は２部屋しか無いし。
あ、挨拶しておこう。


「隣に引っ越してきた咲音メイコという者です。よろしくお願いします。」
「僕は始音カイト。うちの高校だよね。スカーフの色からして新入生かな？僕は２年生。よろしくね！」
「はい！ってやばいっ入学式!!遅れるので失礼します!!」



全力ダッシュで学校に行ったので、なんとか間に合った。
あのあと、なんか始音先輩が呼んでた気がしたな。
そういえば、カイト兄と名前と学年、同じだったな。
髪の色も同じ、吸い込まれそうなくらい透き通った青。
偶然ってあるもんだな、としか考えなかった。




～カイトside～


昨日、隣に女の子が引っ越してきた。
まだ、挨拶されてないけど。


そんなことを思いつつ、玄関を出る。
隣の部屋の前を通り過ぎようとしたとき、急にドアが開いた。
あと５ｃｍで僕の頭にごっつんこだったよ、君。
あ、挨拶しておこう。
そうつぶやいた人の顔に、声に、心当たりがあった。

咲音メイコ

僕の両親が離婚するときに、引っ越す場所も教えずに置いていってしまった、僕の可愛いお姫様。
絵本が好きだったせいか、当時は本気でそんな恥ずかしいことを思っていた。
まあ、今もそう思っているけど。

隣に引っ越してきた、咲音メイコと…

だから名前を聞いたとき、思考回路が完全にフリーズした。
同姓同名なんてあるわけない。
だって、彼女の名字は珍しいものだったから。
でも、聞くのが怖かったから、けっきょく聞けずに適当に受け流した。

入学式に遅れると言って走っていったとき、何かを落としていった。
何かケースのようなもの。
失礼して中を覘いてみると、そこにあったのは…


引っ越すときにメイコにあげたあの写真が入っていた


間違いない。あれはメイコだ。
僕がずっと守ってあげるって約束したメイコだ。
やっと会えた。
その気持ちでいっぱいだった。