6-5.

「ちぇー。未来ちゃんにカイの情けない話を教えてあげようと思ったのに」
「お前……な」
 息を整えて、私を見る海斗さんの瞳は、不安で揺れていた。
 怖かったのは、私だけじゃ――ないんだ。でも、私は独りじゃない。私には、海斗さんがいる。私を連れ出してくれる、ロミオがいる。
「未来ちゃん――」
「海斗、さん――」
 海斗さんは、優しく私の頭をなでてくれた。それだけで、私は涙をこらえられなくなってしまった。
「海斗さん、海斗さん、海斗さん……ッ!」
 私は立ったままの海斗さんに抱き付いて、嗚咽を漏らしながら、声を上げて泣いた。嬉しかったのと、つらかったのとでぐちゃぐちゃになって、私はもう海斗さんの名前を呼ぶだけで精一杯だった。
「……あー、あの。悪いけど、二人ともストップ」
 その、煉さんのものすごく気まずそうな声にハッとする。
「二人とも、感動の再会を邪魔して悪いんだけど、俺がここにいることを忘れないでね。あと、未来ちゃんはこのままじゃ風邪引いちゃうから、カイは家のシャワーと着替えを貸してやれ。そして、続きはできればカイの家でしてくれ。そうすれば二人は誰にも邪魔されないし、いい雰囲気をぶち壊して俺が気まずい気分になることもないから。二人とも、OK?」
「……OK」
「……ご、ごめんなさい」
「ほらほら、ここは若い二人がイチャつく場所じゃないよ。俺は今晩中にカタをつけなきゃ単位が危ないんだから」
 煉さんはそう言って半ば無理矢理私と海斗さんを研究室から追い出した。
「あ、未来ちゃん?」
 扉を出たところで煉さんに呼び止められて、私は研究室を振り返った。
 煉さんは声を出さずに、口の動きだけで何ごとか喋って、片目を閉じてウィンクしてみせた。
 私はほほ笑んでうなずくと、研究室の扉を閉めて、海斗さんと並んで歩き出す。
「何言われたの?」
「あ、いえ。その……」
 なんと言えばいいかわからず、言葉を濁す。
「……?」
 私は、ごまかすように海斗さんの腕に抱き付く。
 煉さんの言葉は、簡潔だった。
 カイを、頼む。
 彼は確かに、そう言っていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ロミオとシンデレラ 32 ※2次創作

第三十二話。


ただいま最終話に取りかかっております。
ちなみに四十三話です。
しかも、悩みに悩んだあげく、3パターン書いてます。
どれを載せることになるのかは、まだ決まってません。いったいどうなることやら。

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投稿日:2013/12/07 13:09:55

文字数:888文字

カテゴリ:小説

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