「いっそヴェールも準備してもらえば良かったかな」

 私の部屋まで迎えに来て、ドレスを着た私を見たマスターの第一声が、それ。思わず顔が赤くなって…抱き締められたままだったからついついカイトのコートに隠れようとする。カイトが小さく笑ってコートで私を包んでくれた。

「淡い水色ですからね。ウェディングドレスみたいですよね」
「カイトまで…っ」
「いや、綺麗なのに可愛くって、誰にも見せないようにこのまま閉じ込めてたいくらいなんだけど」
「と、閉じ込められたら困るわよっ!」
「うん、分かってるよ。皆に祝ってもらいに行こうね」

 ちょっとだけだけど寂しそうに言われる。う、コートに隠れようとした時点で、カイトに強く出られない…。

「良く似合っているけれど。サイズは大丈夫だったのかな?」

 マスターの言葉にはっとする。

「そういえばマスター。…妹さん、私のサイズ、何処で知ったんでしょう…?」
「そう言うということは、サイズはちょうど良かったようだね」
「はい。…怖いくらいぴったりです。妹さんって見るだけでサイズ言い当てられるんですか?」
「それは流石に無理だよ。でなければもう少しメイコにきちんとした服を贈っているだろうしね」
「じゃ、これは…」
「ああ、それはカイトのサイズに合わせたものだよ」
「…はいぃ?」

 しれっと言われたマスターの言葉の意味が分からない。まばたきながらカイトを見上げる。
 妹さんの名前を挙げて、マスターが答えをくれた。

「メイコに作りたいドレスのイメージが出来たらしくて、わたしにメイコのサイズを教えて欲しいと言ってきたのだけれど。わたしはメイコのサイズを知らないからね」
「…それは、まあ」
「だから、どうしたものかと考えていたら、カイトが『分かりますよ』と言うものだから」
「そりゃ、数字では知らないですよ? でもほら抱き締めた時の感触とか感覚とか…」
「あ、あんたねえっ!」

 抱き締められている今言うのもなんだけど、そんなに分かるもんなの?!
 恥ずかしくなってきて離れようとした瞬間カイトの腕に力が篭る。かすかな震えを感じて逃げるのを諦めた。…ああ、もう。言葉はいつも通りなのに。こんな風に自分の弱ってるところ使うなんて卑怯よ。
 マスターがくすくす笑い始める。

「先月末にカイトを連れて行って、布を巻いたトルソーに抱きついてもらって、カイトが違和感を感じるところを調整して。カイトが満足したところで採寸していたね」
「妹さん徹底してましたよね」
「…わたしからするとお前のほうが徹底していたよ。ミリ単位で違和感を感じる辺り、お前はやっぱり機械なのだね」
「だって分かるんですから仕方ないじゃないですか。違ってたら気になりますよ」
「ああ、はいはい」

 …しんっじらんない。何この才能の無駄遣いのオンパレード。ハロウィンの日にそんなことしてたのね…。

「さて。そろそろ行こうか。カイト、独占の時間は終わりだよ」
「う…、はぁい」

 マスターに言われてしぶしぶ私を解放するカイト。見上げると笑いかけてはくれるけど…、やっぱり何処か作り笑顔に見える。その頬に手を伸ばした。

「…大丈夫?」
「ん、平気だよ。ごめんね気にさせちゃって」

 へらっと笑って私の手を取って自分の頬に押し当てて。カイトがその手を更に引いて、私はカイトに近付いた。

「な、何?」
「捕まって」
「っひゃあっ!」

 ふわっと両腕で抱き上げられて咄嗟にカイトの首に手を回す。膝裏と背中…所謂お姫様抱っこ、って奴よねこれっ。

「先に言ってよ?!」
「あ、ごめんごめん」

 マスターの笑いが大きくなる。お腹を抱えて目尻に涙を浮かべて笑ってる。

「マスター笑いすぎです!」
「いやいや、だけれどもね、お前たちが可愛過ぎて…っ」
「マスター!」
「メイコ。これで良く分かっただろう?」
「っ!」

 非難の声を上げていた私に諭すようなマスターの言葉。痛感せざるを得ない。

「マスター。先に行きますね」
「そこまでして独占している時間を増やしたいのかな? カイト」

 笑い含みのマスターの指摘に、カイトが強く私を抱き寄せる。
 愚問だったね、という呟きが聴こえてきた。

「すみませんけどね」
「わたしは一向に構わないよ。そのぐらいの気概がちょうど良い。…ああ、わたしはちょっと荷物を取ってくるよ。皆は居間に居るからね」
「分かりました」

 マスターと一緒に私の部屋を出て、マスターは自室へと向かう。
 私を抱えたまま居間へ向かうカイト。ちょっとだけ躊躇ってから、…その首に、ぎゅっと、しがみついた。

「…メイコさん?」
「…あのね」

 私を特別に思ってくれるあなたが、やっぱり、私にとっても特別だから。
 私が誕生日に感じる幸せを、あなたにも伝えてあげたいの。どうしたって消せない重荷なら何処までだって軽くしてあげたい。

「どうしたの?」

 …不安に揺れる私の小さな青が潰れてしまわないように。

「このドレス。とっても着心地が良いの」
「え?」

 小声で、囁くようにしか、言えないけど。

「ほっとするの。…抱き締められてるみたいで」
「…メイコさん」
「だから、今日は一日、…これを着てるから」

 悪いことばかり考えないで居て欲しい。
 そんな思いが伝わったのか。カイトが震える小さな声で、ありがとう、と言ってくれた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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トクベツ・後編の後【MEIKO誕生日・カイメイ】

…後編の後ってなんだよ!w
とりあえずいちゃつかせたかっただけか、と言われたら否定出来ません…。

閲覧数:632

投稿日:2009/11/08 23:01:52

文字数:2,236文字

カテゴリ:小説

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