タッタータター、タッタータター、タッタータタータ、タタタタター…
ぼくはピアノに向かいリズムを奏でる。両手がピアノの上を滑るように走る。低い音を重ねたレクイエム…
桜の散る街。今日でぼくの母が死んでから丁度一年になる。ぼくは涙を堪えながらピアノを弾く。開けた窓から響く音は外へと広がってゆく。ぼくは目を閉じて流れるようにピアノを弾いていった。
「綺麗な音ね。」
ぼくはふと目を開ける。そしてその声が外から聞こえてきたことに気づく。ぼくは一度手を休めて窓から身を乗り出す。するとそこにはぼくの方を見てはにかんでいる女の子がいた。彼女はぼくに手を振ると往ってしまった。
ッドク、ッドク、ッドク…
ぼくは右手を左胸に当てる。いつもより激しい鼓動の音…ぼくは直ぐに窓を閉めて、ダッシュでピアノの前に戻った。
タタタタタタタタタタタン、タタタタタタタタンタンタタタン、タタタタタ、タン、タン、タン、タタタタタタタタータタン…
ぼくは今の気持ちを早めのリズムで刻む。先ほどとは比べ物にならない程の速さで指が鍵盤を叩く。さっきの子…可愛かったな…完全に一目惚れだ!ぼくは自然と頬が熱くなるのを感じる。それに…
「綺麗な音ね。」
そう言われた。ぼくのピアノを褒めてくれたのは二人目だった。一人は死んじゃったぼくの母さん…さっきの彼女にぼくは母の面影を見たのかも知れない。
あ~なんだか上手く言えないや。これが恋って物なのかな?
________________________________________
「みんな、入学おめでとう!桜崎中学は1年2組のみんなを歓迎するぞ!」
あれから一週間がたった。今日はぼくが中学に入学する日だ。担任の先生が始めてのHRを始める。あまり外に出るのが好きでないぼくは結局春休みのほとんどを部屋でピアノを弾いて過ごした。でもぼくは、一週間前にあの少女と出会ってからはそのことしか考えられず、しょっちゅう音を外していた。
「と、いうことだ。みんな仲良くするように!」
かなりテンションがハイな担任の先生は、残りの時間は自由に歩き回って友達を作れと言って職員室へと戻っていってしまった。ぼくはこういう時間が嫌いでたまらない。ぼくは自分から話しかけたり、仲間を作ることはとことん苦手なのだ。話しかけられても、あわあわしてしまって上手く返すことが出来ない。そんなぼくは小学校でも友達がおらず、常に一人で本を読んだり、自分で詩を書いたりして過ごしていた。今回もそうなるのだろうなと思って、前もって用意していた本を取り出して読み出そうとしたとき、ぼくは見てしまった。同じクラス、教室の窓側の隅にあの子がいるのを…そう、ぼくのピアノを褒めてくれたあの子だ。ぼくは一気に頬が赤くなるの感じた。今ぼくがいるのは丁度教室の反対側、彼女との間には机が6列もあったのにぼくの頭からは湯気が出ていた。話しかけよう、いや上手く話せるか?でも、せっかくおんなじクラスなんだし、そういう時間なんだし…
ぼくはその場で挙動不審に陥った。もうパニックってレベルではない。でもでもでも…ぼくは彼女のことが好きだった、仲良くなりたいと思った。勇気を出せ!ぼく!
僕は立ち上がり、机を掻き分ける様に彼女に向かっていった。…でも、
「こんにちは、リンちゃん。元気そうだね。」
「もしかして、レオン君?久しぶり!」
ぼくと君の間にはまだ机が2列あった…。そこで彼女に話しかけたのは別のクラスメイト。話を聞いていると彼:レオン君は、君:リンちゃんの幼馴染で、同じ幼稚園に通っていたらしい。小学校は別々でも、この桜崎中学に来て再会したらしいのだ。親しげに話す彼らの前にぼくの弱っちい勇気は粉々に砕かれてしまった。
犯人の物語―episode1 ぼくにピアノを弾かせて①―
ひなた春花さん(http://piapro.jp/haruhana)のぼくにピアノを弾かせて(http://piapro.jp/t/Trb-)を小説にさせて頂きました。単体でも全体でも楽しめるものになればと思っています。
episode1はぼくにピアノを弾かせて。ちょっとピアノの音がビミョーとか言わないでください。自覚はありますがピアノの知識と文才の無さで残念な感じになってしまいました(;_;)
一応解説を入れると、一回目のピアノがナゾカケの節で、二回目がぼくにピアノを弾かせての節のつもりです。
見捨てず読んでいただけると嬉しいです。
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