3-6.
「や、ごめん。待たせちゃったね」
「ひゃっ」
突然、後ろからポンと肩を叩かれた。びっくりしてふりかえると、そこにはいつの間にか海斗さんがいた。
ぜ、全然気付かなかった……。
「すごい真剣な顔して読んでたから、声かけるのためらっちゃったよ」
そう言って笑う海斗さんは、今までと違ってメガネをかけていた。金属製のフレームの、シンプルなメガネ。
海斗さんのメガネ姿なんて、たぶん、言われたって想像できなかっただろうけど、でも、こうして見てみると、不思議と似合ってる。海斗さんとはまだ二回しか会ったことがないのに、なんだか新鮮な感じ。
「今日はなに読んでるのかな?」
そう言って、海斗さんは私の背後から身を乗り出すようにして、本をのぞき込んでくる。
海斗さん! ち、ちかい! ちかすぎる!
本当に、目と鼻の先にある海斗さんの横顔に、すごくドキドキする。たぶん、まわりから見たら湯気がでてるんじゃないかと思う。
私のそんな気持ちを知ってか知らずか、海斗さんは本をペラペラとめくる。
「えーと、灰かぶり姫? 何だか難しい小説読んでるね」
「えと、そ、そんなこと無いですよ! グリム童話ですし、たぶん、海斗さんも知ってる話だと思いますけど」
そう言うと、海斗さんはちょっと驚いたみたいだった。
「え? そうかなぁ。灰かぶり姫なんて、初めて聞いたけれど」
「灰かぶり姫って和訳なんですよ。でも、元のタイトルの方が有名なんです。ディズニーのアニメにもありますし」
「へぇ、そうなんだ。……姫ってつくから……白雪姫とか?」
私は、ふふ、と笑う。
「白雪姫だったら、もう日本語になってますよ」
海斗さんも苦笑して「そうなんだけどさ」と言った。
「それには気付いたんだけど、他に思い浮かばなくて」
「正解は、シンデレラです」
ちょっとだけかわいく――できたのかどうかはわからないけど――そう言うと、海斗さんはなるほど、といった感じで目を丸くした。
「そうなんだ。確かに、シンデレラは知ってるな」
「でしょう? でも、このグリム童話の灰かぶり姫は、ディズニーのシンデレラよりも残酷なんですけど」
「そうなの? 童話なのに?」
そう言いながら海斗さんは私の隣りの席に座る。
「ええ。それより……海斗さんって、メガネ、かけるんですね」
私の言葉に、海斗さんは「ああ、これ?」と言ってメガネを持ち上げてみせた。
「講義とか、実験のときしかしないんだけどね。……似合ってない?」
私は慌てて両手をふる。
「そそ、そんなことないですよ! すごく……似合ってます」
「そう? ならよかった。未来ちゃんも、私服かわいいよ」
「あ、ありがとう、ございます」
海斗さんが褒めてくれた。悩んだ甲斐が、あったみたい。
嬉しい。すっごく嬉しい。でも、その分恥ずかしい。
海斗さんのそのほほ笑みは、ちょっと反則だと思う。これじゃあ、私は冷静でなんていられなくなっちゃう。
「……? どうしたの?」
「な……なんでも、ないです……」
「……?」
「本当に、なんでもないですから、気にしないでください」
両手で火照った顔をおおってる私に、海斗さんが首をかしげるけれど、そんなこと、答えられるわけがない。だって、だってだって「海斗さんの笑顔がステキだったから」なんて、恥ずかし過ぎて言えない。無理。
「あの……お昼は、何時まで大丈夫なんですか?」
海斗さんは、腕時計をみて「うーん」とうなる。
「あと三十分……いや、四十分くらいかな。そしたらまた研究室に戻らないと」
「そうなんですか……大変なんですね」
「ま、学会まで、あと何日かの辛抱だしね。少しくらいは無理もしないと」
海斗さんは肩をすくめる。
「こっちが一生懸命データの整理をしてる隣りで、気持ち良さそうに寝られると、さすがに投げ出したくなっちゃうけど」
「えと、もしかして、昨日の話ですか?」
「そう。ほら、学園祭のとき、あと二人いたでしょ? あいつらだよ。とりあえず、三時くらいに叩き起こして、一番めんどくさい数値の計算をやらせたんだけどね」
「三時くらいっていうと……」
海斗さんが私にメールの返信をしてきた頃だ。
「うん。残りを二人に任せて、俺だけ休憩したの。メール、あんな時間にしちゃってごめんね」
私は顔を横に振って、少しだけ笑う。
「本当にお疲れ様です。私は気にしなくて大丈夫ですよ。海斗さんなら……いつメールしてきても」
「そう? ありがと。そう言ってくれると、嬉しいよ」
そう言うと、海斗さんはまたほほ笑んでくれた。その、反則だって思っちゃうくらいに素敵な笑顔を前に、私は顔が赤くなるのを感じる。それをごまかすように、私は脇に置いていた包みを海斗さんに差し出した。
「いえ、そんなこと……。あ、約束したお弁当、作ってきたので、よければ……いかがですか?」
「本当に作ってきてくれたの? 休みなのに、ごめんね。大変だったでしょ?」
「メールでも言ったじゃないですか。親の分も作ってるので、そんなに大変じゃないですよ。……海斗さんのお口に合うかどうかは、わからないですけど」
「未来ちゃんは謙遜が得意だね。でも本当、嬉しいよ。ありがとう」
「いえ、あの……そんな」
お弁当の包みを受け取って、想像以上に喜んでくれる海斗さんに、私はなんだか面映ゆくなる。
「図書館じゃマズいから……外に出てもいい? その本、読んでる途中なんでしょ?」
「大丈夫です。……これ、前読んだことある本だから、気にしないで下さい。暇つぶしでしたから」
お弁当を大事そうに抱えて立ち上がる海斗さんに、私も慌てて本を閉じて立ち上がる。
「外のベンチとかでもいい? 学食だとすごく混むんだ」
「私はどこでも……大丈夫です」
ただし……海斗さんがいれば、だけど。
でも、やっぱり……そんな恥ずかしいセリフは、海斗さんの前じゃ言えなかった。
ロミオとシンデレラ 16 ※2次創作
第十六話。
シェイクスピアの話ばっかりしてたので、いい加減シンデレラの話を、という回です。
海斗さんに関しては、自分でも「あり得ないだろ」って思うくらいにいい男にしてやろう、と画策してました。
ですが・・・・・・この十六話を読み返してると、なんだかエロい男なのかもしれません。(笑)
なぜそう思うのかわからない方は・・・・・・十四話を読むと、わかるでしょう。わからなくても全然問題ない、というかわからない方がいいんですけどね。
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