季節はめぐり、シンもルカも少しずつ大人になっていった。離れ離れになった友人がいて、新たに知り合った友人が増えて。ルカの髪が伸び、それでも2人は隣にお互いの存在があることが当たり前であることのように、ずっと一緒に過ごしていた。
ずっと伸ばして手の先にお互いが繋がっていると信じていた。
こうして、ルカの世界が少しずつ広がっていった頃、2人は大学へと進学し、そしてシンはこの頃から、興味が音楽ではなく文章の世界に向き始めていた。
音楽が嫌いになったわけではなく、むしろピアノを弾くのは大好きなままなのだが、それよりも思い描いた世界を文字で紡ぐ、という行為のほうが楽しくなってきてしまったのだ。
「え、シンって小説書いているの?」
驚いたようにルカが声を上げた。ルカとシンとカイトと、それに音楽仲間であるメイコとで食事をしているときのことだった。
ふと、カイトが漏らした一言に、ルカが反応したのだ。その声に、カイトが知らなかった?ときょとんとした顔でシンに視線を送った。
「真っ先にルカさんに読ませたんだと思ってた。」
その言葉とルカの非難めいた眼差しに、シンは少しばつの悪い思いをしながら頷いた。
大学に入って間もない頃からシンはぽつぽつと文章を書き溜めていた。その文章がひとつにまとまったのを、なんとなくカイトに見せたのだ。
ルカにはまだ、読ませていなかった。ルカがいる音楽ではなく、違う世界に視線を向けている。ということが、シンを、ルカに対して手ひどい裏切りをしているような気持ちにしたのだ。
「うん、、、まぁ、短編だけど。」
「読みたい。なんで読ませてくれないの?」
そう、責めるような口調のルカにシンは、だって。と口ごもった。
「なんか、まぁ、、、うん。今度、持ってくるよ。」
「絶対よ。、、、でも酷いわ。あのマフラー野朗には読ませて私には内緒にしてたなんて。」
そう憤慨した様子のルカの言葉に横にいたメイコが爆笑して、カイトが情けない顔になった。
「マフラー野朗、って酷いよルカさん。」
「あら、アイス野朗でも良いのよ。」
そう憮然とした表情のままルカが言い放ち、更にメイコが声を上げて笑った。
「でも、シンがルカちゃんに読ませなかったの、私、なんとなく分かる気がするなぁ。」
笑いすぎて涙目になりながら、メイコが言う。
「なんとなく浮気しているような感じがして後ろめたかったんでしょ?」
そう茶化すように言うメイコに、カイトがなるほどと頷き、ルカが早とちりをしてなにそれ、と怒った。
「何、シン、浮気してるの?」
「誤解だ。」
そうシンはルカの言葉は慌てて否定して、メイコに向かって頷いた。
「まぁ、後ろめたいのは、あったかな。」
そう困ったように首をすくめるシンにルカは心底分からない。というような表情で首をかしげた。
「何で後ろめたいの?だってシンはやりたいことをしているのでしょう?」
「ルカちゃん以外の事に熱心になってるのよ。いいの?」
そうメイコが尋ねた言葉に、ルカは一瞬はっとした表情になり、ううん、と唸った。
「それは、、、確かに複雑な気持ちだわ、、、でも、何をしていようがシンが好きなのは変わらないし。なんていうか、シンと私はちゃんと繋がってる。って思うもの。」
そう考え考え、ルカは言った。
ルカのその返事にメイコはにやにやと笑い、カイトは愛されてるね、シンちゃん。と無邪気に言い、そしてシンは手を伸ばしてルカの頭を軽く小突いた。
何よ、と唇を尖らせたルカが、耳まで赤いシンを見て、嬉しそうに笑って小突き返してきた。
今でも思う。もしも自分がずっとルカと同じ世界を見つめていたら違っただろうか。
否、と首を横に振る。
ピアノを弾くのは楽しいし音楽を聴けば血が騒ぐ。けれど、ルカのようにあんなに眩しい表情で、音と、向き合えない。
どう足掻いても向いた世界が違うのだ。
ひかりのなか、君が笑う・5~Just Be Friends~
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