それは必然だったのかもしれない。
起こるべくして起こったのかもしれない。
避ける手段は幾つもあって、ただそれを選んでこれなかっただけの話。選ばなかったのは彼女自身で、選べなかったのは彼女以外の皆。
責任は誰にあるか──それだけは明確だけど、私達にはどうすることも出来ない。
だから私は、三次元の気紛れなんて大嫌い。
「……お姉ちゃん。元気してる?」
「リン」
恐る恐る開けたドアの向こうで、手にしていた赤く細長い筒を手にメイコお姉ちゃんは床に座っていた。
筒を脇に置いたメイコお姉ちゃんは、力を入れたらポキっと折れてしまいそうな細く真っ白い両腕を私に差し出してくれる。
お姉ちゃんは、今日も綺麗だ。
メイコお姉ちゃんの胸に飛び込むと、きゅううっと抱きしめられる。髪を撫でてくれる手が温かくて、メイコお姉ちゃんは「まだ」死んでいないんだって解る。
でも、それだけだ。メイコお姉ちゃんが温かければ温かいだけ、私の中で悲しみと怒りが増す。
「お姉ちゃんが元気そうで良かった」
「元気よ。でもリンの顔を見たらもっと元気になるわ」
ここはメイコお姉ちゃん以外誰もいない部屋。メイコお姉ちゃんが欲しがったもの以外何もない部屋。
真っ白な世界で、メイコお姉ちゃんは今日も笑顔を浮かべてる。怖いことも嫌なことも、何も知らない世界でただ、笑ってる。
私よりも年上の筈なのに、無邪気な笑顔はまるで幼い子供みたいだ。
「リン、逢いたかった」
「昨日も来たじゃない」
「昨日……?」
不思議そうに首を傾げるメイコお姉ちゃんを見て、私は失言を犯したことに思い至った。
──メイコお姉ちゃんに「昨日」なんてないんだった
私は首を振ってメイコお姉ちゃんに抱きつき返し、その疑問をスルーした。
「ううん。私も逢いたかった」
「ねえ、ミクは? カイトは? レンは一緒じゃないの?」
「カイトおにいちゃんは、部屋の外だよ。レンも一緒。メイコお姉ちゃんが入っていいって言ったら入るって」
「ミクは? あの子は一緒じゃないの? ミクにも逢いたいわ」
優しく微笑むメイコお姉ちゃん。昔と何一つ変わらないように、昔と同じように皆を気遣ってくれるメイコお姉ちゃん。
「……ミクお姉ちゃんは、ちょっと用事があったんだ」
「そう……残念ね」
肩を落とすメイコお姉ちゃんは本当に残念そうで、少しだけ寂しそうで。今からでもミクお姉ちゃんを引っ張ってきたい衝動に駆られた。
でもそれは出来ない。
ミクお姉ちゃんの気持ちも痛いほどわかる。
決してミクお姉ちゃんの所為じゃないのはわかりきってるから、カイトお兄ちゃんもレンもミクお姉ちゃんを責めめることはない。
でも、私がミクお姉ちゃんの立場だったら此処に来るのは……正直キツイ。
自分の存在が原因で、メイコお姉ちゃんのココロが壊れただなんて。
ミクお姉ちゃんがいないことを知ってしゅんと俯くメイコお姉ちゃん。
知ってる。私達が来る前、メイコお姉ちゃんがどれだけミクお姉ちゃんを可愛がって世話を焼いたか、ミクお姉ちゃんから聞いてるから。
メイコお姉ちゃんを少しでも元気付けたくて、私は努めて明るい声を出す。
「カイトお兄ちゃんとレンじゃ物足りないかもしれないけど、今呼んでくるから。ね?」
「うん、待ってる」
私の言葉に顔を上げて、やっともう一度笑ってくれたメイコお姉ちゃん。
少し離れがたかったけど、メイコお姉ちゃんの胸から離れた私は立ち上がって扉へ向かう。
メイコお姉ちゃんを死ぬほど心配してるだろうカイトお兄ちゃんと、カイトお兄ちゃんと同じ位心配してるくせにポーカーフェイスを気取ってるレンを、部屋という名の檻に招き入れる為に。
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