カシャンッ・・・
金属が落ちる音がする。
此れでリンは幾百年ぶりに自由になった。
軽くなった手足を動かし飛びついてくる。
それをしっかり抱きしめて笑うと彼女も笑った。
でも、何故か笑顔なのに泣いていて・・・
「なに泣いてるの・・・?」
「わかんない・・・嬉しいのに、涙・・・止まらない」
あぁ、もうなんて可愛いんだろうか。
このまま時間が止まってしまえばいいのに・・・
それからの日々は楽しかった。
まず、最低限使う部屋を掃除したり、本を読んだり、お茶を飲んだり・・・
とにかくリンにはいろんなことを楽しんでもらいたかった。
これが僕がして上げられる精一杯のことだった。
この、限られた時間の中で・・・
「ごほっ・・・ごほっ・・・」
「レン・・・最近咳酷いけど、大丈夫?」
「あぁ・・・平気だよ」
リンにいつもと同じ笑顔を向ける。
果たして本当にいつもと同じでいれているのだろうか・・・
実際、平気な訳ではない。
彼女の暴走が迫っているのを感じる。
最初はリンが僕のエネルギーを奪うのと僕が奪い相殺するのは少ない量だった。
それから徐々に彼女が僕から奪う量は増えて、半年たった今では僕が相殺できる許容量を超えてしまった。
今まで国を滅ぼしてきて奪ってきたエネルギーもそろそろなくなってしまう。
その影響なのか最近、喀血の回数が多い。
リンにはまだバレていないみたいだがそろそろまずい。
もう、限界・・・か
ならば今、直ぐに君を
「ついに賽は」
呪縛から
「投げられた」
解放する!!
「レン・・・?レ、っ・・・血・・・レン!!!!」
もう、自力で立つことも出来ない。
リンに支えてもらってやっと座ることが出来るくらいだ。
喀血もさっきから止まらない。
「なんで、こんな状態なのに何も言わないのよ!!!私の、私のせいなんでしょ!!
この能力が・・・彼方を苦しめているんでしょ・・・」
違う・・・悪いのはリンじゃない!!
だって、その能力は僕のものだ・・・
そういいたいのに・・・声が出ない。
それに・・・僕は、君にもっと酷い辛いことをしてしまう。
でも、暴走はさせない。これでリンは救われる。
マントを止めていた緑のブローチを外す。
「これを、あげる。初めてだろ?僕のマントの・・・ブローチ」
今のリンにとっての初めてのプレゼント。
いや、昔のリンにもこんな豪華なプレゼントしたことなかった。
彼女の頭にあるリボンを解いてスカーフのように巻いてブローチで止めてあげる。
体は上手く動かなかったけどそれでも出来た。
「こうして、ほら・・・お姫様さ。でも、僕は王子じゃ・・・ない・・・ごめん、ね」
僕の中では昔々に逢ったときから・・・
小さい小さいリンという女の子を見たときから
ずっとずっと・・・彼女はお姫様だった。
もっともっといろんなことをしてあげればよかった。
カラオケに行こうとせがまれてもリンより下手だったのが癪でいかなかったりデートって言っても僕の家で遊ぶだけだった。
酷いときはリンをほったらかして僕はずっと雑誌を読んでた。
それに今だって・・・こんなに悲しませてしまって。泣かせてしまって・・・
こんな僕でも・・・リンを愛しているのは本当だよ・・・?
でも、本当に僕の能力は強すぎる。
だけど、笑顔でいなきゃ・・・リンをこれ以上不安にさせたくない。
「レンの生命なんて欲しくない!!だから、やめて・・・そんなことしないで!!お願い・・・」
ごめん・・・僕の勝手な想いなんだ。
リンはもう解放されるべきなんだ。
だって、最初にやったのはリンだろ?
って・・・そんなこと・・・だって?
リンは僕が何をするか知って・・・る?
まさか・・・ね
最初からずっと泣きっぱなしのリン。
でも、此れが本当に最期だから・・・リンの嫌いな不意打ちだけど、許してね。
リンの頭に手を回し、唇にそっと自分のものを重ねる。
その瞬間、全ての能力をリンに返す。
今まで、ありがとう・・・
目を閉じて薄れて行く意識の中で微かな声が聞こえる。
「こんな・・・勝手じゃない!!!なんのために・・・私が何のためにレンを助けたと思ってるのよ!!!!」
あぁ、やっぱり記憶が戻って・・・
ごめんね・・・リン
でも悲しまないでよ。
僕の生命はリンとずっと一緒にいるんだから。
いつかきっとわかるよ。
そうだ・・・今度また二人で過ごせる日が来たらさ。
カラオケ行った事なかったしさ、歌を歌おうか・・・もちろん僕は下手だけど。
きっとリンと一緒なら何でも出来る気がするんだ。
忘れるなよ?約束だからな・・・
******
「ねぇ、レン」
「何?」
「レンは・・・ずっとずっとずーっとリンと一緒にいてくれる?」
さっきまで一緒に読んでいた黒い本を閉じて彼女は言った。
寂しいのか哀しいのかよくわからない顔をしていた。
でも、さっきの話に僕等を重ねてしまったようだ。
「当たり前だろ」
そう言えば、ありがとう。なんて言って笑顔になる。
そして、そのまま僕等は眠りに落ちた。
そうだ、次にマスターにあったときには言ってやろう。
歌も物語も幸せなものにしてくれと・・・
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