『私達一族の能力(チカラ)…消すための唯一の方法。それはね、本当に大切だって思える人、思ってくれる人との出逢いなの。その人との引力のような引き合う心が私達を『時渡り』の呪いから解き放ってくれる。覚えていて?大丈夫よ。絶望しないで。きっとあなたも逢えるわ。私もそうだったもの』
そんな遠い記憶の中の彼女の言葉。
あの時の私にはさっぱり理解出来なかった。
だって物心ついた頃にはもう一人ぼっちだったから。
時の旅を繰り返すうちにその言葉すらいつの間にか忘れてしまっていたのだけど…。
時の旅、一夜の邂逅(であい)1
今までうるさいくらいに響いてた周りの喧騒。
それが一瞬にして消え去った。
ああ、また始まるんだ。
自分でも制御できない『時渡り』が。
もう何度繰り返したのだろう?
何百?
数千?
確かなのはもう数え切れないくらいの時空(トキ)を旅しているという事だけ。
独特の浮遊間が襲い、目を閉じる。
この誘いはいくら経験しても慣れることはない。
次はどこへ行くのかしら?
期待なんかもうしない。
小さく息を吐いて誘いへ身を任せた。
屋外ではない絨毯のような柔らかな感触。
降り立った新しい世界で一番に感じたのはそれだった。
暗くて何も見えなかったから。
どこかの部屋の中らしいそこの唯一の窓から見えた景色は一面の雪景色。
それが街灯の灯りに映えて目を奪われる。
「綺麗…」
小さくつぶやいたとき不意に背後に人の気配を感じて振り返る。
「…っ!」
そこに居たのはこの部屋の主らしい儚げな印象の少年。
僅かな光でもはっきり分かるほど鮮やかな黄色の髪を持つ彼は休んでいたんだろうベッドに身を起こしたまま驚いたような顔で私を見ている。
「あ…ごめんなさい…。すぐに出て…」
今までにもこんな事何度かあった。
その度に酷い言葉投げつけられたりもした。
それも仕方ない。
勝手に相手のテリトリーに入り込んだのは私だから。
今回もそうかもしれない。
だからすぐに出て行きますから…言おうとしたけど
「君は…誰?」
か細いその声からは嫌悪は感じない、ただ純粋な問い掛け。
考える前に言葉がこぼれ落ちる。
「…ミク」
「ミクちゃん?そっか…かわいい名前だね。僕はレンって言うんだ」
そう言った彼は何かを諦めきったような顔で儚く、微笑った。
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