「ねえ」
初音さんがなぜか頬を不満そうにふくらませながら僕に言った。
「……何かな?」
今のところ、彼女を怒らせるようなことはしてない……と思う。
誕生日には新しく描いたイラストを贈ったし、夏コミにも一緒に行ったし、好きなアニメの映画も見に行ったし、発売された新しいゲームも一緒に買いに行ったし……。
「いつになったらタメになってくれるの?」
さあ、どうなんだろう。
僕は初音さんが好き。
初音さんは……たぶん僕を友達としてでしか意識していないと思う。
好いてくれてるんだとは思う。
ただ、好き、の次元が違う。
僕の初音さんに対する好きは、初音さんの僕に対する好きとはまったく別物なんだろう。
初音さんはすぐにタメ口になった。
いつからか急に『ミクオ君』が『クオ君』になった。まあ僕もそっちの方が呼ばれ慣れしてるし、ミクオでいるより90でいるほうが楽なんだけど。
「人が一生に言える文字数って決まってると思うのよね」
と、初音さんは言う。
「もともと、『あ』はいくつ、『い』はいくつって決まってると思うの」
まあ、それは僕も考えた事はある。
「そうするとさ、私が『ミクオ君』って呼んだら、五文字分損するけど、『クオ君』だったら四文字で済むでしょ?」
それをしゃべっている間にも、初音さんは百文字近くの発言数を失った。
それなら『君』をつけずに名前で呼んだらいいのに、と思ったのは秘密だ。
そうしたほうが二文字も得するだろう?
初音さんは、僕を仲良くなったからといって友達に避けられたりはしてないようで、ホッとした。
「ミクにそんな趣味あったなんて知らなかったって言われたよ」
「言ってなかったの?」
放課後。僕はまだ絵を描きあげれていなくて、教室に残っていた。帰宅部の彼女は、向かいの机の上に座って僕の作業を見ていた。
「隠してたわけじゃないんだけどなぁ」
「そうなんだ」
「うん」
初音さんが窓の外を見る。なぜか頬が不満そうにふくらんでいる。
そこから、さっきの発言にいたる。
「Hatsuの時は、すぐにタメになってくれたのに」
Hatsuにタメでいいかって聞いたのは、僕が最初だ。
「うん、まあ、だって」
「何よ、私はHatsuだよ? ミク、って呼んでくれてもいいじゃん」
「み、みく!?」
あ、あの、せめて苗字がいい……。
「そう、ミク」
じゃあ初音さんもクオ君じゃなくてクオでいいのに。
「そしたら90さんと一緒になっちゃう」
区別がつかなくなる、とかなんとか。
いや、区別つけてもつけなくてもどっちも僕なんだけど。
「ん、とまあ……じきに、ね」
「えー何それ」
ぷう、とまた頬をふくらませる。本当に可愛い。可愛過ぎる。
「結構初音さんってモテるし……」
「お世辞はやめて」
真顔で言わなくても。本当なんだから。
「それで僕が初音さんの事名前で、しかも呼び捨てにしたらなんて言われるのか」
今までは、そんな事気にしたこともなかった。
なんと言われようが、好きな事だけに没頭してた。
でも、その好きなものの中に初音さんが入ってしまったから。
初音さんだけは、傷つけたくない。
「いいじゃん、別に」
「いや、あの、そうじゃなくて」
僕はよくないんだけど。
「ねーえー、まだぁー?」
「……じきに、ね」
「いつー?」
黙ったまま、答えない事にした。
僕が初音さんに好きって言えるまで、とか思ったけど、それを口にして様になるほど僕はかっこよくない。
それに、初音さんに告白できるのかすら分からない。そもそも、僕と彼女じゃ釣り合わない。
初音さんだって、好きな人くらいいるんじゃないだろうか。その相手は僕じゃない。きっと僕よりもっとかっこよくて、頭がよくて、運動ができる人だろう。
僕といえば、頭は悪いし運動なんてこれっぽっちもできないし、できる事といったら絵とゲームと妄想、薄っぺらい本を描くことくらいだ。
将来同人誌を売るような僕と、可愛くて優しい初音さん。
ほら、どう見てもお似合いとはいえない。
ただ、初音さんのそばにいれれば、それでいい。
……わけがない。
でも僕の私情で動いてたら、初音さんにも迷惑かけちゃうし。
生まれて初めて恋なんてしたけど、なかなか難しい。難易度の高いRPG並みだ。DIVAのEX難易度9のパーフェクトを初見プレイで出すのと同じくらい難しい。RPGだと、一つのアイテムを手に入れるのに何日もかかるのに、そのアイテムが使えないものだったりするものを昔やったことがある。そのまま放置してたけど、久しぶりにやってみようかな。
「……あのさ、」
初音さんはあきらめたのか、他の話題を振ってきた。
「私も絵とか描こうかなって思ってるんだけど」
「あ、そうなの? できたら見せてね。初音さんとHatsuの絵、見てみたい」
「よかったら、コツとか教えてもらいたいなって」
コツ……。
「コツは……」
「コツは?」
「ない」
「……ない?」
「そう、ない」
「なんで?」
「ないものはない。ゲームキャラが現実にいないのと同じ」
自分で言いながらちょっと違うかなとか思ったけど、初音さんはスルーしてくれた。ありがたい。
「そっかぁ」
「うん」
「じゃあ上手く描く方法とかない?」
「特にない」
「クオ君って、なんでもないない言うんだね」
また先ほどのように頬をふくらませる。
「ないものはないんだよ。ゲームキャラみたいな子が現実にいないのと同じ」
「さっきも言ったよ」
「あ、そうだったっけ」
どうも初音さんといると調子が狂う。
マラソンをしているわけでもないのに心臓がばくばくしてるし、思ったように話せないし、沈黙がとても苦しいのに、まだ初音さんといたいとか思ってたり。
それでも手はいつもと同じように動く。
同じように、っていうのはやっぱり少し違っていて、なんだろう、楽しい。いつも絵を描くのはすごく楽しいけど、それにまた違った楽しさがプラスされてるというか。
そのわけを、僕は知っている。
隣に初音さんがいるから。
初音さんといる時一秒一秒が、とても愛おしい。大切にしていたい。ずっと、この時間が続けばいい。そう思う。
「……最近、90さんの絵、ちょっと変わってきたよね」
「え?」
「切ない感じの絵が多くなってきたような気がする」
ほらこれも、と今僕が描いている絵を指差す。
あとは女の子に色を塗るだけの段階まできている。
傘を持って立っている少女。右上の方を見上げていて、その目にはうっすら涙がにじんでいる。
ただ、こういうような絵が描きたかったから描いた。それだけだ。
最近は、萌え絵を描く回数が減った。もとから多かったから、普通くらいにはなったんだろうけど、というより萌え絵を描く回数が普通って何回なんだろう? 普通の萌え絵を描く人なみに減った。
というのも水彩色鉛筆にハマってしまい、ほとんどアナログで描くようになった。色を付けてスキャナで取り込んで、ちょっと修正してからブログなどにアップしている。
「私には、この子が失恋して泣いてるように見える」
泣きたいけどこらえてるみたいに見える、と初音さんは言った。
「泣いてるのは欲しいゲームが買えないからかもしれない」
僕も欲しいゲームがあって買えなくて、悔しくて泣いた事が幾度かあった。小さい時だけど。
「そうかもしれないけど、やっぱり失恋の絵に見えるな。欲しいゲームが買えないだけで、こんな切なそうな顔しないもん」
そうかもしれない。けど違うかもしれない。僕にも、よく分からない。
この絵は、失恋の絵かもしれないけど、ゲームが買えない絵かもしれないし、テストで悪い点数をとって怒られることを恐れてる顔かもしれない。
「好きな人が幸せそうにしてるのは嬉しいけど、やっぱり隣には自分がいたかった……みたいな」
初音さんがこんなに真剣に、僕の絵について語っているのは初めて見た。
「……ッ」
鼻をすする音。
また泣かせちゃった?
「それに、失恋の絵じゃなかったら……ッ、私、泣かないもん」
思い出した。
Hatsuが最初に褒めてくれた絵。
恋人同士の二人が、楽しそうに笑う絵だった。
意地っ張りで、でも本当は泣き虫で。
「えと、その、ごめん」
「……別に、クオ君は悪くないけど……あ、悪い。クオ君のせい」
「うん、ごめん」
「謝ってばかりで、ごめんばっかりいって、絵がうまくて、優しくて、ズルいっ」
「優しくはないけど……」
「そうやって謙虚で認めないところもズルい」
ズルいって、何もズルくないと思うんだけど……。
「ずるいずるいずるいずるいー!」
なんだかもう拗ねた子供のようになってしまっている。
「なんでクオ君はそんな優しいのさぁ~」
「なんでって…ちょ、初音さん、大丈夫?」
「クオ君が大丈夫じゃなくさせるんでしょ!?」
「いや、ごめん、何言ってるのか分からな」
「いーもん、どーせ私は優しくないし~。可愛くもないし~。絵も上手くないし~。頭悪いし~」
「初音さんは可愛いし、頭いいし、絵は見た事ないけど……優しいよ」
「お世辞は嫌いよ」
「お世辞じゃない」
「嫌って言ってるでしょ? 聞こえない?」
声が震えている。
「嫌、だよぉ」
「初音さん?」
「なんでっ、クオ君っはっ、そんなにぃ、優しいんだよぉ、ば、ひっく、かぁ」
泣いている時特有の舌足らずな声だった。
ずび、と鼻をすする音。
「ティッシュ、あるよ」
「あり、がと」
僕から奪い取るようにしてティッシュを受け取り、聞いてるこっちが気持ち良くなるくらいの豪快な音で鼻をかんだ。
「どうも、ありがとう、ござい、ま、した」
「うん」
「……鼻赤いよね」
「うん」
「……ちゃんと鼻かめてる?」
「うん」
「……不細工でごめんね」
「ううん」
「……私ね」
「うん」
「……あのね」
「うん」
「……アニメとか好きだし、90の絵とかすんごい好きなの」
「うん」
今、90って呼ばれたことが少し嬉しかった。
90、ではなく、クオ、で呼ばれた気がして。
「……だからね、クオ君が90だって分かった時ね、」
「うん」
「……あのね、」
「うん」
「……好きになるかもって思った」
「……うん」
「……それでね」
「うん」
「……それ、本当になったかもしれないんだ」
「……そっか」
「どう、思う?」
また泣きそうな目で見つめてくる初音さん。
「……初音さんは、可愛いなって思った」
「可愛いだけ、なんだね」
初音さんは、無理やり笑おうとする。
初音さんは、平気だって思おうとしてる。
初音さんは、僕が好きかもって言ってる。
「……私ね、」
僕は、初音さんが大好きで、
「クオ君のそばにずっといたい」
初音さんの隣にずっといたいって思ってる。
「……僕も」
「嘘つかなくていいよ」
自分が後になって傷ついてしまうようなことは、決して信じなくて。
「Me,too.」
「英語でも一緒だよ」
「僕も、ずっと、初音さんと、いたい」
「…………」
「…………」
初音さんが黙ったから、僕も何となく黙る。
「……私に、こう言われて、どう思った?」
「…………」
「気持ち悪いとか思ったよね」
「ううん」
その時は笑って誤魔化したけど、
実はかなり、
嬉しかった。
【クオミク注意】ヒーローになる方法の後の妄想
http://piapro.jp/t/hpMG
↑これの続きを妄想してみました。。
たぶん続くと思います。
書いてる途中から何やってるのか分からなくなってきてうわーって書いたらわけわからん駄文になりました。すんません。
Projectmiraiに悪ノが入るって聞いてどうしても欲しくなってしまった…
コメント2
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ご意見・ご感想
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ご意見・ご感想
今更コメントとかごめんね!!
まさかの続編!!
なんかミクさん可愛いな…クオももちろんかっこいいけどww
ブクマ貰うね!!
2011/12/20 21:44:14
絢那@受験ですのであんまいない
なんか続いちゃいましたww
ミクが可愛いのは当然d(((
ブクマ!? あ、ありがとうございますううう!
2011/12/21 20:59:06
瓶底眼鏡
ご意見・ご感想
お邪魔です!読ませていただきました!
元ネタの曲はしりませんが、とても詠みやすかったです!!二人の感情が伝わってきます!!
しかしクオ……相手を思いやるのはいいんですがが、行き過ぎたそれは相手の事を考えていないのと同じですからねぇ。ミクは苦労しそうです。
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2011/12/07 10:50:44
絢那@受験ですのであんまいない
よ、読みやすいですと?あ、ありがとうございます!そういうお世辞をたくさん言ってくださるとチミーはとっても喜びます←
結局自分の都合で動くことと同じですからねwwその分ミクで押していきたいと思いますw
いや、私の画力とトレードするんd((
3DSお持ちなんですか!?店頭のお試しでやったら情けなくも酔いました…ww
他のはどうでしょうか…うーん、でも召使は入ってほしいです。。娘と召使をうまいことつなげてってのはできないですかね…やってほしいです。
七つの大罪ですか!置き去り月抄夜もDIVAでやりたいです!
でもちびだと逆に可愛いですww
2011/12/07 17:51:34