「……大丈夫だといいがなぁ」
ゆるりーさんのがっくんとルカさんを見送った後、俺はぽつりとつぶやいた。
「まだ言ってるんですか? 本人たちも言ってたし、たぶん大丈夫だと思いますよ?」
「……だといいがなぁ」
もう一度言葉を繰り返す。
確かにヴォカロ町は平和な町だ。だが平和と言っても、『あの世界』基準での平和と言っても過言じゃない。こちらの世界の基準で考えると時たま痛い目を見る。
例えば時々町で起きる事件だ。町の外の喧騒と比べると圧倒的に平和なヴォカロ町では、時々その平和に飽きた贅沢なバカが面倒な事件を起こす。
大抵は『ヴォカロ町最強の刑事』と、『兵力的な意味で最強のドジっ子刑事』の二人組が突撃してきて解決ないしは粉砕爆破してしまうのだが、そこは広いヴォカロ町、手が回らないことも多い。
もしもそんな事件に出くわしてしまったら? 常人パワーアップ補正があの二人に働いていればいいが、働いていなかった場合のことを考えると大変だ。
加えてその『ヴォカロ町最強の刑事』はそんなお客様二人を迎えるためにロシアンと共にスタンバっている。動けるかどうかわからない。
もう一つの不安がそのロシアンだ。ここのところロシアンは戦闘不足でイライラしている。
こっちはこっちでパワーアップ補正が働いていた場合の方が厄介である。それを知ったロシアンが喧嘩を吹っ掛けようものならひとたまりもないだろう。何せヴォカロ町の世界では1,2を争う最強キャラである。まぎれもない化け物なのだから。
「……まぁ、どっぐちゃんとルカさんに任せてみるか……」
『事件の天敵』と『猫又の天敵』が面倒を解決してくれることを信じて。
俺とゆるりーさんはまた世間話を始めた。
~~~一方その頃、ヴォカロ町にて、巡音ルカ視点~~~
「……………遅いわね」
袖のパネルに表示された時間を見ながら、思わずぽつりとつぶやいた。
Turndogから『ゆるりーさんとこのがくルカが遊びに来るからルカさんとロシアンで出迎えて案内したげてちょ☆』とフザケタ連絡をもらってからかれこれ1時間。
そんなに時間もないし、このままだとヴォカロ町一泊ツアーな時間になっちゃうんじゃないだろうか。
『……まったく、だから面倒くさいと言ったのだ……』
私の足元で大あくびをして、不機嫌そうに歩き回っているのは『猫又』のロシアンだ。
ちょっとした大事件が去年の暮れに起き、それ以来成り行きでヴォカロ町に住み込んでいる。
「でもロシアン、最初はなんだかんだで乗り気だったじゃない」
『最初はな。外の世界からわざわざヴォカロ町までやってくるなどという蓼食い蟲に興味を持っただけだ。だが約束の相手を待たせるような奴等には興味がない』
「たまたま遠いところに出ちゃっただけかもよ? それで迷子になってるとか……」
『だとしたらどっぐの奴に文句を言う権利ぐらいはあるな。出入り口の座標設定に関しては奴の管轄だ。加えてそんな彼らを捕まえに行かんお前の責任だな』
「えええ!?」
無茶を言う。
だがそうは言っても、あながち間違ってないから反論ができない。もしも迷子になっているなら、責任をもって預かるとTurndogに約束した私が捕まえに行かなければならないのだから。
そうでないと私たちを信じて二人をこちらに送ったTurndogの顔に泥を塗ることになる。あいつ自身の評価が下がるのはまぁいいとしても、それでお客様が大変な目に合ったらゆるりーさんに詫びなければならないしね。
そんなこんなでもう10分経った頃。
突然携帯が鳴り響いた。しかもこの着信音は……
『署からの電話か?』
「ええ……はい、はい。……わかりました」
電話を切ると同時に、ロシアンがふわりとその体を浮かせた。
『出動要請か?』
「うん、どうもこの近くで刃物を持った男が暴れてるって。しょうがない、一分で片付けに行くわよ!」
『やれやれ、ますますもって面倒だ……』
そう言いながらも、なんだかんだで私より先に飛びだそうとするこの猫又が、どれだけこの町を愛しているか、ほんの少しわかる気がした。
元々私たちは町の少しはずれで客人を待っていた。
事件が起きたのはそこから少し西に移動したところ。
刃物を持った男が、男女のカップル相手に暴れているという。
金目当てか、唯の嫉妬か。どっちにしろ頭蓋骨が陥没するまでお仕置きの必要がありそうだ。
『おいルカ』
「何よロシアン?」
『今お前『頭蓋骨が陥没するまでしばかなければならない』などと考えていただろう?』
「そんなこと考えてないよー?(棒)」
うわぁ凄い、『心透視』を持っている訳でもないのにこの素晴らしい読心術。300年の年季は伊達じゃないようだ。
そんなことを言っている間に、どうやら現場についたらしい。
私たちの目線の先では、両手に二本の包丁を持った男がカップルに襲い掛かっていた。刃物を使い慣れた感じではないが、両手をめちゃくちゃに振り回していてちょっとばかし近寄りがたい。
「ここは一発、鞭で眠らせますか……」
ぐ、と鞭を引き出しかけて―――――そのカップルの容姿が見慣れないことに気付いた。
明らかに髪の色がおかしい。まるで私たちの様―――――というか女性の方はどう見ても私と同じ色だ。
そして男の方。白衣を羽織った化学の先生っぽい出で立ちだが、あの髪の色はどう見ても『1年前私たちを襲ったあいつ』そっくりだ。
……ということは……あの二人が!
そこまで考えた瞬間。
《ばきゃっ!!》
何かが砕けるような音がして、男が突然仰向けに倒れた。―――――というか頭から地面に叩き付けられた。まるでラリアットでも喰らったかのように。
それとほぼ同時に―――――
『ギャンッ!?』
ロシアンが後方に吹っ飛ばされた。
何? 何が起きてるの?
思わず駆け寄ってみると、ロシアンの額には白い円柱状の物が突き刺さっていた。
これって……チョーク?
振り返ると、男性が『やっべ―』と言った感じの顔で茫然としている。
ということは……
「い……今のこれ、あなたが――――――――――」
言い終わる前に。
完全にぶっちぎれたロシアンが男性に向かって飛びかかった!!
「うおっ!?」
『てめえ……人間の分際でいーい度胸じゃねえか……オオ!?』
「いや、ちょっと待ってくr」
『焔槍で全身爆破されるのと焔拳で首を720°回されるのとどっちがいいか選べやゴルァ!?』
「どっちも嫌だな! というか俺殺される前提なんですか!?」
『つべこべ言ってねーでさっさと選びやがれええええ!! この俺にチョーク叩き込んでおいて生きて帰れると思うんじゃねーぞアア!?』
「あああもうやっぱりゆっくりできないじゃねえか!! マスター帰ったらチョークだくそっ!!」
「か、神威さん……っ」
……あーあ。
仕方ない、軽くきつめにやっておくか……。
『……サイコ・サウンド!!』
『ぎにゃーおぅっ!!?』
潜在音波『サイコ・サウンド』―――簡単にいえば念力である――――を使って、軽くロシアンの脳を揺さぶる。
いくら不死身のロシアンと言えども、脳を揺らされると動きが止まる。
即座に近寄って、ふらついたロシアンを捕まえた。
『な……何すんだルカっ……今この無礼者に天誅をだなぁっ……!!』
「落ち着きなさいよ。ほらよく見て、お客人よ例の」
『……あ?』
そう言われたロシアンの動きが止まる。どうも気づいたようだ。この二人が、『Turndogやどっぐちゃんと同じ匂い』即ち『外の匂い』を漂わせていることを。
「……あ」
私によく似た女性の方が声をあげた。
「私にそっくり……ということは、あなたが?」
「ええ。ゆるりーさんのうちの方ですね?」
『私がこの町の『巡音ルカ』です。ようこそヴォカロ町へ、ルカちゃんに先生』
ヴォカロ町へ遊びに行こう 2【コラボ・d】
『T』か『た』で来ると思った?残念!『d』でした!
こんにちはTurndogです。
「ゆるりー’sボカロinヴォカロ町」!偶数話はTurndogのターンですよ!
リレー式のコラボは今までやったことがないから口調とかに矛盾が出るかもしれないけど、それはまぁお互いの耳にはそう聞こえてるんだってことで!(おいおい
因みに私は主にコメディチックバトル担当。ゆるりーさんはギャグとイチャラブ担当です。
ところで皆さん気づいたかな?
ルカさんがロシアンの事呼び捨てしてるんですよ。
実はこのヴォカロ町、本編からちょっと進んだ時間軸でございます。いろいろあってルカさんはロシアンを呼び捨てするようになったのですが、それはまた後日。本編の方で話しましょうw
第1話:http://piapro.jp/t/hp9Y
第3話:(http://piapro.jp/t/kNje)
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ご意見・ご感想
しるる
その他
あ、やっぱり戦うんだね
ゆるりーさんと一緒だから、戦わないと思ったのにw
チョークはツッコミ要員だと思ってたw
まぁ、これがターンドッグさんらしいということなんだよね
2014/03/25 01:07:44
Turndog~ターンドッグ~
私からバトルを取ったらいったい何が残るのかと←
でもあくまでコメディの範疇に収まるバトルですねw
結局パワーアップ補正働いたのでチョークは破壊兵器になります。
まあねぇ、バトルやってこそかな、俺はw
2014/03/25 12:38:54