《ててーんててーんててーんててーてててん♪》
ミクとロシアンと3人でルカちゃんと先生をからかっていると、いきなり私の携帯が鳴った。
このメロディは…………………。
「ダブルラリアットですか?」
「自分の曲を着メロにしてるのか……」
「い、いいじゃない別に……」
だがそんな悠長なことも言っていられないかもしれない。
「はい、もしもし?」
先生とルカちゃんの顔が若干驚愕に包まれるのが見えた。
今の私の顔はきっと―――――『巡音流歌警部補』になっちゃってるんだろうなぁ。そう思いながら相手の言葉を待つ。
『もしもしルカー!? やっとつながったわぁ……課長さんが『連絡がつかない』って泣きついてきたのよ!?』
「ごめん、めーちゃん。今客人接待中だったから……」
電話の相手は―――――町長・メイコ。めーちゃんだ。
『知ってるわよ。Turndogから聞いてる。ゆるりーさんとこのがくルカが遊びに来てんでしょ? それを承知で申し訳ないんだけど……事件よ』
「グミちゃんは?」
『他の事件に出張ってるわ。犯人取り逃してすぐには急行できないってさ』
「あああああもうまたか!! ……どんな事件なの!?」
『銀行強盗よ。それも計100人という大所帯で各地域の銀行を集団襲撃。数千万円の現金の入った金庫を丸ごと強奪したらしいわ。風貌からして恐らく町の外で有名な犯罪グループよ。大方田舎町のヴォカロ町なら簡単にうまく行くとでも思ってたんでしょうね』
「今日以外なら絶対その場でお縄だったってのに……ちっ、あとでTurndogに文句言ったげようかしらね!?」
『そんなことよりも捕縛が先よ。幸か不幸か、一味が今あんたがいるところ方面に向かってるらしいわ。死なない程度に粉砕してやんなさい!!』
「OK!!」
『あ、ちょっとお客人二人に代わってくれる?』
「あ、うん」
そう言ってケータイのスピーカーホンをオンにする。ヴォカロ町警察署刑事のケータイにのみ搭載された機能だ。
『はぁ~いお客さん方、私がこの町の町長、ヴォカロ町のメイコよ。よろしく』
「あ、これはどうもご丁寧に、ゆるりー家の神威がくぽです」
「巡音ルカです……」
気圧されている雰囲気はないものの何故か先生がですます調に。ただ単に初対面(対面?)だからということなのか、それともめーちゃんにカリスマ的な何かがあったのか。
『悪いんだけどちょっと困った事件が起きちゃってねー、その犯人がそっち方向向かってんのよ。ちょっと危ない目に合うかもだけど、そん時はそこのねこ助とお巡りさんが守ってくれるから安心してちょうだい。じゃ、楽しんでいってねー♪』
言いたいだけ言って電話は切れてしまった。ねこ助と言われたせいでロシアンの眉間に皺が寄っているが、気にしないことにしよう……。
「……とまあ聞いた通りよ」
「噂通り、町の外の人間は危ないのが多いみたいだな……」
「まぁ気が立ってるからね……」
『おいルカ、そんなこと言ってる間に……来たようだぞ』
遠くからバイクの音が聞こえてくる。センターステージはその名の通りまさに町の中央に位置している。そして『電車以外の交通手段でまともに通れる町の出入り口』はたった一つ。場所によっては必ずここを通ることになる。
「ミク! 出入り口の方に飛んで!! 奴等の逃げ道をふさぐよ!!」
「ラジャ☆……『EXTEND』!!」
叫ぶと同時にミクの体が光に包まれ、ステージ衣装が瞬く間に『Miku Append』の衣装へと変わる。
そのままふわりと浮き上がり、町のはずれに向かって飛んでいった。
「……神威さん、私たちはいったい何回驚けばいいんですか?」
「……俺に聞くな。少なくとも俺はもう気にすることを諦めている」
後ろでなんか言ってるけど私たちも割と先生に驚かされてるから気にしない。というか気にしてる場合じゃない。
目の前にはすでに―――――20人ほどのバイク集団。その中に一人大型のサイドカーに乗っている奴がいる。本来人が座るはずの側車には巨大な黒い箱が座っていた。
「先生、ルカちゃん」
「? なんだ?」
「チョークアタックに演技力。あなたたちの素晴らしい技術、見させてもらったわ」
『だから今度は、私たちの“日常”を見せてあげる』
向かってくるバイク集団に向けて手を掲げ、小さく一言。
『adagissimo[非常に遅く]!!』
声は音波となり、そしてバイク集団に降り注ぐ。
途端に―――――バイクの動きが遅くなる。まるで見えない何かに引き止められているかのように。
突然の変化に戸惑う強盗犯たち。だが戸惑っている暇などない―――――いや、本当に逃げようと思うなら、そこで戸惑い立ち止まることは許されなかったのだ。
『――――――――――返してもらうぞ、この町の民の汗と涙の結晶を』
ゴゴン、と重い音がして金庫が持ち上げられる。―――――上空からロシアンによって金庫が持ち上げられたのだ。
慌ててそれを引きずり落とそうと、強盗犯の一部が飛びつくが―――――それもまた、相手が相手だけにやってはいけない行為だ。
『……触るな、下衆が』
鋭く重い声と共に、碧い焔が彼らの体を包む。ロシアンの『碧命焔』―――――身体的外傷を与えず、精神的外傷《トラウマ》を与えるほどの幻覚を見せることのできる優れもの。
苦悶の表情を浮かべながらばらばらと落ちていく。これがあるから、なんだかんだでロシアンは敵を殺してしまうことも少ないのだ。
さぁ、大切なものはとりもどした。
もう遠慮はいらないな――――――――――――――――――――
『pesante[重々しく]!!』
ひゅん、と叩き付けるように手を振る。
ズン、と音がして、強盗犯一味が地面にめり込んでいく。それこそ、潰された蛙の様に。
そうだ。叩き潰してやる。
這いつくばるがいい。
私とロシアンとお客人との楽しい時間を邪魔しやがって。
跪くがいい。平伏すがいい。
コのワタシに逆らウナど百年はヤ――――――――――――――――
『やめろ、ルカ』
「!」
はっと我に返ると同時に、強盗犯にかかっていく圧力が消えた。
私の方に飛び乗ったロシアンの尾が―――――私の手を掴み上げていた。
『それ以上やると死ぬぞ。そんな下衆どもの血でこの町を汚したいのか』
「あ……う……」
『それに』
くい、ともう一本の尾で指示した方向では、先生とルカちゃんがこわばった表情で立ち尽くしていた。
『奴等に余計な恐怖を与えてどうする』
「うう……」
ロシアンの言うことはもっともだ。彼女たちを守らなきゃいけないのに、そんな私が怖がらせてどうする。
「……ごめんなさい、ちょっと怖い思いさせちゃったわね」
「ああ、いや、別に怖いって程じゃないが……さすがにちょっと驚いたな。その不思議な『音』もそうだが、まるで人が変わったような顔をしていた」
「え、そんなすごい顔してた?」
思わず聞き返すと、先生の白衣の裾をぎゅっとつかんで震えていたルカちゃんが頷いた。
「なんというか……神威さんに飛びかかった時のロシアンさんみたいな顔をしていました……」
『やはりそう思ったか?』
「え?」
え?
『……このバカはな。最近吾輩の『気』に中てられてか、時々こうして理性を失うことがあるのだ。早い話が吾輩の好戦的な気質に蝕まれているのだな』
「えええええええええええええええ!!?」
この悲鳴はるかちゃんではない。私である。いやどっちにしろ『ルカ』ではあるんだけどさ。
「ちょっとロシアン!? どういうことよそれ!?」
『どういうことも何もそうなるとは思わんかったのか? 吾輩のような莫大なエネルギーの塊と一緒に3か月も過ごせば気に中てられて狂うに決まっているだろうが』
「先に言いなさいよそーいうことはぁ!! この3か月程いっつもいっつも出動する度被疑者殺しかけてグミちゃん化するところだったのよ!?」
『知るか』
「こんの猫又ぁ……!!」
『む? 殺るか?』
「やんないわよ!?」
『なんだ詰まらん』
「なんだか……ロシアンさんとルカさんの方が夫婦みたいですね」
『……へ?』
ふとした声に思わず振り向くと、ルカちゃんが『しまった』という顔をしていた。
「あ、いやその……ごめんなさい、つい……」
「おいルカ……」
そうは言いつつも、先生もそっぽを向いて震えている。……笑いこらえてるわねこの白衣。
と、隣を見てみると……ロシアンも様子がおかしい。
「……笑いこらえてんじゃないわよ」
『くくく……いや、なかなか度胸があるな。出会い頭であんな目に合っておいて、その吾輩らの目の前でそんなことを口にできるとは』
「つ、つい口を突いて出ちゃったと言いますか……」
『その度胸に免じて今回は許してやろう。次はないぞ?』
軽く脅しをかけながらも、その表情はいたずらっ子の様だった。
ホント……誰よりも長く生きてるくせに、子供みたいなやつだ。
その後、ミクからの連絡で『残党捕縛セリ』と通達が入ったことで、私たちはまた町の案内へと戻っていった。
「それにしても、さっきの能力は面白いな。傍から見た限りでは念力の様だったが?」
「まさしくそんな感じよ。音波を浴びせた相手を想うがままに操る事ができるの」
「さっきの様子だと大方……音楽用語のイメージを音波に乗せてる感じか?」
「そこまで見抜いたの!? やるわねぇ……」
先生の見立て通り、今の私のお気に入りは『サイコ・サウンドに音楽用語のイメージを乗せて放つ』技だ。『adagissimo(アダージッシモ)』も『pesante(ペザンテ)』も音楽用語の一つである。
考えてみれば、一応VOCALOIDなのだから音楽用語には詳しいはずだし、なんだかんだでそれなりに切れ者ではあるようだから気づいても不思議ではないが、それにしたってあれだけの情報で見抜くとは。
「ふふ、あなたこの町で生きていけるんじゃない?」
「冗談でもよしてくれ、身体が持っても精神が持たない気がする……」
まぁそれは否定しないかな……。
「……………」
『……またか?』
「……ルカちゃん?」
……しかし彼女にとっては私の能力よりも、碧い焔を噴き出す猫又の方が不思議なようだ。同じ『ルカ』なのにそりゃないわよセニョリータ。
「あの、さっきの炎、どうなってるんですか?」
『どうなっていると言われてもだな……そうそうこれの秘密を他に漏らすわけにはいかんのだがな』
「あ……そうですよね、すみません」
しゅんとうなだれるルカちゃん。
それを見ていたたまれなくなったのか、少しめんどくさそうな顔をしながら、ロシアンが口を開いた。
『……………向こうに戻った時に誰にも言わぬと約束するならば、特別に教えてやる。だが仮に喋った時は……例えTurndogやルカが止めようとも……わかるな?』
「は、はい!」
『……いいか。吾輩の身を包むこの焔は『碧命焔』と言ってだな……』
軽く爪をチラつかせながら、ルカちゃんに自身の力の説明を始めるロシアン。しかもどことなく誇らしげに。
「……最初はとんでもない荒くれ者かと思ったが、意外ととっつきやすいところもあるんだな」
「単純なのよ、あいつ。ふふ」
思わず笑いがこぼれる、私と先生だった。
その頃。
ヴォカロ町の入り口では。
「あ、あのどっぐちゃん、それっくらいにしといた方が……」
『何よ仲良くしちゃってさー!! ロシアンの奴と仲良くしちゃってさー!! かなりあ荘出発するとき後ろからついてったあたしには目もくれなかったのにぃ―!! あたしにも話しかけてくれたっていいじゃないのあのがくルカぁ―!!』
「ごぶっ……た、たしゅけ……」
「い……命ばかりはぁ……ごべっ!!」
『うるさいわ盗人のくせに―――――!! 死ぬまで付き合え馬鹿野郎!!!』
「……さいなーん……」
仲良さげなロシアンと訪問者たちに嫉妬したどっぐちゃんの手によって、銀行強盗たちがぼっこぼこにされておりましたとさ。
ヴォカロ町に遊びに行こう 6 【コラボ・d】
教訓:バトルは敵と味方の実力が拮抗してこそ上手く書ける
こんにちはTurndogです。
演技とチョークアタックの描写をゆるりーさんにしてもらったので、続いてこちらが得意のバトルを書こうとしたら、敵が弱すぎたせいで全然うまく書けませんでした。
ゆるりーさんに許可取ってでも本気モード先生VSロシアンとかやった方がよかったかなぁ(やめれ
因みに前にも言いましたがこのヴォカロ町、本編よりも少し進んだ話ですので、ルカさんはサイコ・サウンドをほぼ完璧に使いこなしております。こんな盛大なネタバレして本編だいじょぶか俺。
そしてロシアン、結構優しい。
割とぶっきらぼうなくせして割とおせっかい焼きな猫又。
第5話:http://piapro.jp/t/0aw-
第7話http://piapro.jp/t/lg9c
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