!警告!
こちらはwowaka氏による初音ミク楽曲「ローリンガール」の二次創作小説です。
そういう類のものが苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
はじめての方は「はじまりと、」からご覧下さい。
ローリン@ガール 5
結局、堤防付近をうろついてみたが、今日の収穫もないまま、真人は水平線に沈む夕日を見つめていた。オレンジ色の空の向こうから、闇色がにじみ始める。夜だ。真人は冷えはじめた海風にひとつ身震いをして、振り返る。その視線の先には、高くそびえる高層アパート群。闇にのまれ始めたこの島は、これから、まるで夜の海に立ちすくむ軍艦へと姿を変える。そして、自分は。その軍艦にとらわれて、逃げ出すこともできない、哀れな囚人か、兵士か。
「……くそっ!」
毒づいて石ころを蹴飛ばし、真人は憮然と歩き出した。妙に、むしゃくしゃする。静かすぎる空気も、沈黙して広がる廃墟も。荒っぽい海風も。真人の気も知らずに、平然と同じように回り続けるこの世界のすべてに、腹が立った。今日はさっさと帰って、寝よう。頭の中で、すっかり把握しきれてしまったこの軍艦島内の、最短ルートでの帰路を探す。
その場所を見つけたのは、本当に偶然だった。とくに、意図したわけではない。ただ、頭の中に描いたルートをたどっていた時、ドアが不自然に半開きになった蔵を発見しただけだ。他の鉄筋コンクリートの高層アパートとは違い、分厚い壁質の、立派な蔵だったので、目についたのだ。そして、そのドアが、まるで小さな子供ひとりが丁度通れるくらいに、半開きになっている。他の建物は、ドアというドア、窓という窓が吹き飛んでいるのに対し、この蔵だけはがれきに埋もれているだけで、外傷らしい外傷がほとんど見当たらないのが、不自然だったのだ。
だが、それがなんのために頑丈なつくりになっているのか、真人にはすぐに理解できた。それと同時に、頭の中に、どっと希望がわき出た。そう確信すると同時、真人は走り出す。何度もがれきにつんのめりながらも、はやる気持ちをそのままに、蔵の戸に突進する。
そして両開きの戸を惜しげもなく全開にすれば、薄暗いなか、黒い影が壁のようにそびえているのが見える。暗闇に目が慣れてくれば、蔵じゅうにぎっしりと詰められたそれらが何なのか、そして、それが真人の期待を裏切らなかったのだと、確認できた。
「……こんなに……!」
喜びに、声がかすれた。
目の前に立ち並んだ塔のような影は、すべて缶詰などの、非常食だった。浄水器まで設置されている。非常事態に、五千人以上の住民が、最低二週間は、食に困らないようにと、備蓄されていたのだ。確認はしていないが、きっと奥を探れば、寝袋くらいは出てくる気がする。
「食べ物が……こんなにたくさん……!」
恍惚と呟いてから、夢中で周囲の缶詰の山をあさった。魚だけでなく、肉や、フルーツ、乾パンなど、さまざまな種類の缶詰が揃えられていた。真人はその中から次々と缶詰を手に取り、胸元に抱えた。
「はっ、ははっ……!」
知れずと、笑いがこみあげてくる。
「なんだよ……あのチビ、……ここから持ってきてたんだな……」
毎日、朝晩、差し出される一つの缶詰を思い出す。ぼろぼろになった小さな手には、少し大きいくらいの缶詰は、それでも、真人の手に収まれば、本当に小さな缶詰。正直、一日にその二つしか摂取できないのは、真人にとっては今や、ストレスのひとつとなっていた。腹が減って、仕方がなかった。以前は、腹いっぱい食べられた。自炊は無理だが、誰かの家に転がり込んで鍋パーティをしたり、表山たちに引っ張られて、居酒屋で飲み明かしたり。今ほど食べ物に困ったことなんて、これまでになかったのだ。
「ケチりやがって……こんなにあるんなら……もっと運んでこいよ……! お前と俺じゃ、胃袋のでかさが違うんだよ!」
衝動にまかせて、ジーパンのポケットにも、両腕にも、いっぱいに、真人は非常食を抱え込んだ。今日はたらふく食べられる……そう思いながら、真人はゆっくりと、バランスをとりながら、食糧庫兼シェルターとなっている蔵を後にした。
後は、目の前に長く続く階段を、登り切るだけ。登り切って、カーテンにくるまって、缶詰を心おきなく食べて、それから寝よう。明日も同じくらい運んできて、食べよう。これから毎日、食に困ることはない。そうしたら、一気に周囲が明るくなった気がした。四日間、ずっと探しても合流できなかった表山たちとも、合流できるような気がした。
自分は間違っていたと、もっと早く気付くべきだったと、真人が後悔するのは、少し後になる。
階段の一段は、彼が登り慣れている現代社会のものに比べると、倍ほどに高い。それが何十段、下手をしたら何百段と続いているような長い道のり。両手に缶詰をいっぱいに抱えながら、おぼつかない足取りで、真人は一段一段、慎重に登っていく。
(そうだ、あいつをうらやましがらせてやろう)
思いついたのは、この数日間、顔を合わせていた、あのやせ細った少女だった。今は、あの無表情な顔を思い出すだけで、虫唾が走った。
(泣きわめくだろうなァ……目の前で、俺が腹いっぱい食べてんだから。……ひとつだって、分けてやるもんか。今まで出し惜しみしてきた罰だ。……そうだ、自分のあやまちに気付いたら、明日からはせっせと食糧運びをするかもしれないな……、なんせあいつ、一日じゅう階段を上り下りしてるんだ。ついでにその日の分、俺と自分が満足できる量の食糧を、せいぜい一生懸命、運ぶがいいさ……!)
今の自分は、どうかしている。どこか遠くで、冷静な自分が語りかけてきたが、それさえも、今の真人には「まあいいか」と片づけられた。なんたって、今までの幸せな日常が、一気に奪われたんだから。これくらいのわがまま、許してもらえるに決まってる。誰も俺を責めやしない。お前らみたいな幸せな奴らには、俺を責める権利なんてないんだ!
そう考えた、その時だった。無理に足を持ち上げて進んでいたせいで、ついに、ジーパンのポケットに突っ込んであった缶詰の一つが、ポケットの外に転がり出た。その感触を認識した、次の瞬間。カン、カン、と、缶詰が音を立てて、階段の下へと落ちてゆく。
「あっ、」
思わず、振りかえった先には、もう、後の祭りだった。今まで、両手いっぱいに抱えていた缶詰の山が一気にバランスを崩し、次々と階段を落ちてゆく。缶詰はけたたましくアスファルトの上をたたき、階段の隙間や、その先へと、身勝手に落ちてゆく。まるで、お前になど食べられたくはない、と言うかのように、次々と。自分から離れてゆく缶詰の缶が、まるで、今まで当たり前に約束されていた、日常の一コマ一コマのように思えて、真人は反射的に叫んだ。
「い、いやだ!」
あわてて落とした缶詰を拾おうとするも、しゃがんだ拍子に、もう片方のポケットからも、缶詰は転げ。それを追いかけようとすれば、両手からまたこぼれる。あれほどあった缶詰の山が、もう、片手で数えられるくらいに減っていって……
「いやだ、いやだ、いやだ! 俺を置いてかないでくれ!」
狂ったように叫んで、真人は缶詰を必死に追いかけたが、落ちた缶は一つ残らず階段の下へとこぼれおちていった。かろうじて、たった一つだけ、ころころと、真人にも拾えそうなスピードで、ゆっくりと階段を転がってゆくのが見えた。
「――いやだ、おいてかないで……!」
その缶が落ちるスピードは、真人ならば、容易に拾い上げられるスピードだった。――普段の彼ならば。今のように、気が動転することもなく、あさましくも、両手にしっかりと缶詰を抱えていなければ、容易に階段を降りて缶に追いついて、それを拾い上げることはできたのだ。
だけど彼は、そのどれにも失敗した。階段を降りることさえできずに、その一歩目、駆け降りようとした一段目を踏み外し、勢いよく、コンクリートの階段を転げ落ちた。
全身を、何度も、何度も、打ち付ける。鈍い音とともに衝撃が走る。鈍い衝撃がじわりと患部から響き、それをやり過ごす前に、また同じような衝撃が、違う場所からぶつかってくる。まるでフラストレーションのように行き場の失くした痛みが全身を駆けまわり、どうにかなってしまいそうだった。なんとか足場を確保しなければと、ぼんやりとした意識で考えて――それを実行しようと、足をつきだしたとき。べきん、と、嫌な音が響いた。次いで、今までの比にならない激痛。
声にならない悲鳴を上げたまま、真人は階段を転がり落ちた。
痛い、痛い、痛い――。激痛の連続で思考はすでにめちゃくちゃになった頃、ようやく、どこかへ投げ出された。冷たい感触は、コンクリート。どうやら、あの踊り場に放り出される形で、真人は転がったようだった。最後にひときわ強い打撃を受けて、息を詰める。右足が、想像を絶する痛みに襲われている。一体どうなってしまったのか。確認しようにも、全身、あちこちが痛くて起き上がることもままならない。どうにか首を動かそうとしたが、頭もじんと熱くなってうまく働いてくれない。ただ、少し動かしたところ、髪の下にどろりと嫌な感触がした。熱い、液体のような感触――。
階段を無様に転げ落ちて、この踊り場に投げ出されて。
意識が落ちてゆく最後の瞬間。真人が思いだしたのは、あの少女だった。
(俺……あいつと同じことしてらあ……)
ぼんやりとそれだけ呟いたのを最後に、目の前が真っ暗になった。
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6.
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