だから、泣いてしまって……。
――シッズシッズシッ!
 (っ!?)
足音がする!
 『……どうだ?』
 『いや、居ないようだ』
 『おかしい……基地には12体のVCOが配備されているとあった』
探してる……!
 『4体は南に陽動できている、残り7体は拿捕済みだ』
 『あと1体……もっと念入りに探せ。もし逃げられでもしたらここも危ないぞ』
 『ライ(了解)』 
探してる探してる探してる!!
怖い怖い怖い!!
思わずレバーに手を伸ばしてしまう。
 「――っ!」
ガチッ! ガチガチガチ!
動かない……!
 「どうし……こんな! 動いて!」
 『静かに。今ここから動いてしまうと発見されてしまいます』
 「貴方は口を挟まないで!」
 『そういう訳にはいきません。私、0ニオン型(ゼロニオン型)ミンクス CODE=18659MINC VOCALION は――』
 『――貴方様、マスターのご搭乗されるこの機体にインストールされました。この機体の使用用途は戦闘行為』
 『マスターがこの機体をご使用になられる限り、私はマスターが行われる戦闘行為の中から生じる危険性の全てからマスターをお守りしなければなりません』
 「だったら何だって言うのよ!」
どれからどれまでも都合のいいような言葉の羅列……気に入らない!
何かの本で読んだ事がある――ロボットやAIは人間に気に入られるようにとにかくおべっかを使うということ。
気に入られなければ自分の存在を簡単に消されてしまうからだ。
 「あなたには……私の事なんて関係ない!」
 『そんな事はありません』
 「関係ない! 関係ない! 関係ない!」
 『そんな事はありません。マスター、血圧と体温の上昇が見られます、落ち着いてください。どうか興奮しないで』
 「関係ないんだってばっ! だから……もう……私に話しかけないで、うっ、うううう……!」
 『……………』
何やってるんだろう……私。
また……涙がでてきちゃったよ。
 「こんな……こんなはずじゃ……うっく、ぐすっ」
……敵のヴォーカリオンはどこかに行ってしまったらしい。駆動音がいつのまにか聞こえなくなってる。
ザァーー……
雨の音。
ザザァーー……
繋がらない通信。
 「うっうっ……ああ、すんっ……ひっくひっく」
私の泣き声……。
ザァー、Pi、ザザァー……
 「……………」
ザザッザッ――のっ――ザァー
 「…………?」
何……?
Pi、ザー、だ、じょ……う……
ピィィー、ザッ!
 『アル姉(アルねえ)! 応答してっ!』
 「!」
うそ。
何で!?
驚いた。
 「え……? え? え? シャイナ!?」
 『アル姉!? よかったぁ大丈夫なんだねっ!?』
メインフレームのワイプに新しい物が追加されて、そこに見慣れた幼い顔が現れる。
彼女はシャイナ・テリオン。まだ幼いけど私達と同じヴォーカリオンパイロット
 「え? え、ええ……そう、そうね……」
 『ああーーっ! アル姉泣いちゃってる! あいつら! もうっ酷い!』
 『――っと、もう……鬼の居ぬ間になんちゃらちゅ~わけかいな。たくっもう……』
 「え!? リアーシェまで居るの!?」
さらにワイプが追加される、ここにも見慣れた顔。
柴田・リアーシェ。なんだか特徴的な話し方で怖そうに見える女性だけど、私は嫌いじゃない。
 『おうよ、ここに居るよ?』
 「な、なんで? 貴方たちたしか……南の方で所属不明機を見かけたっていうから」
 『せや。もちろん探してきたで? んでもな、情報の出所もなんか怪しいって話やったし天気も悪ぅなってきたんで帰ってきたんよ』
 「天気が悪いからって……そんな」
 『適当な事を言うな貴様ら。元々は柴田が偵察訓練をしっかりとせんからその尻拭いを我々の小隊全員がするハメになるんだ。柴田、後で司令室に来るように。いいな?』
 『うくっ……りょ、了解ですわ』
 「小隊長までいるんですか!?」
カーター・ブライアン小隊長。私達の直接の上司に当たる男性。
髪の毛と髭はすっかり白くなってしまっているけど、いつもピシッと整えられていて清潔感溢れる紳士のようで好感が持てた。
 『うむ。最近この当たりで所属不明機を見かけるという話はよく聞いていた、そこで柴田に偵察訓練の補講という事で任せたのだが……まったくこの体たらくという訳だ』
 『うくっ……だって、しゃあないやん……ちょっと途中でお腹がゴロゴロと……』
 『言い訳は司令室で聞こう。カラー司令の鉄拳も2,3発は覚悟しておけ』
 『ぐっ……りょ、了解ですわ』
グォーーーン!
 「今度はなに!?」
突然の爆音。
それと一瞬だったけど視界に影が差した。
 『こちら特10伊航空機隊所属クレオ・ラインズ准尉であります! トライゴート基地、何が起こってる。応答してくれ!』
 『こちらトライゴート基地所属09VOC師団は第3小隊長カーターだ。本日付で配属されるクレオ准尉だな? 見ての通りだ。基地は襲撃された』
 『ちいっ、やっぱりそういう事か……カーター小隊長。詳しい話は後にするとして上空から把握した敵機の配置を送るからさっさと片付けてしまおうぜ。こちとら雛鳥(カイトギアス)が腹を空かせてぴぃぴぃうるせえんだ』
 『それは助かる。クレオ准尉、そちらの行動は任せたぞ。上空支援を頼む』
 『了解であります!』
 『全員聞け。これより直ちにトライゴート基地を奪還する、戦法はいつも通りの2トップで行くぞ。いいな!』
 『了解や』
 『了解だよっ』
 『……了解』
リアーシェとシャイナの軽快な返事の少し後から遠慮がちな声。
 『はあーっ、たくっもう陰気な奴やなぁ。マリス! もうちっと声張れへんのんか?』
 『関係ないでしょ』
ワイプが追加される。ああ、やっぱり。
マリス・ニコ。年はシャイナと同じくらい幼いのだけれど、その年頃には珍しいぐらいに落ち着いているというか……暗いというか……そんな少年なのだけど。
 『ただでさえしみったれた戦い方しかできへんのやけん、気分盛り上げていこーや! 見てみいよ! 今日もウチのリンレンはノリノリやでぇ!』
といって、リアーシェがワイプの画面から少しだけズレてメインフレームを写しだす。
その左下の専用のワイプに金髪姉弟のモジュールが見事なシンクロでダンスしている。
 『うわ……モンキーダンスとかダッサ。柴姉(しばねえ)いつの流行追ってるの?』
 『はあああ!? モンキーダンスをダサいとか言うかね!! おまんこそ流行遅れすぎやんか!?』
 『い・い・か・ら・! さっさと行けぇぇっ!』
ドカンッ!!
 『うぎゃあああぁぁぁ!!』
 『また小隊長に蹴られてやんの。柴姉いっつも一言多いんだよな』
 『マリス! 貴様も早くいけ!』
 『ライ(了解)』
 『くすくす……あたしはどっちもどっちだと思うけどね』
 「……………」
 『アル』
 「あ……! はい!」
 『お前はまだVOCとのリンクがうまくいってないようだな。今回は私たちがやる、お前は隠れていろ』
 「え……でも」
 『気にするな。これぐらいの数ならすぐに終わる』
Pi。小隊長のワイプが消える。
 「え? 小隊長? ちょっと……」
 『ダイジョーブダイジョーブ。小隊長なら余裕でしょ』
 「いや、そういう事じゃなくて」
 『いたたた……おおい、シャイナ~?』
 『柴姉だ。どしたの?』
 『今ウチがおるとこあるやん? そっから3時方向に敵さんが固まってんねんけど、ちょい数が多いけん砲撃してくれへん?』
 『了解だよ~。チャージング開始……3、2、1。発射! いっくよ~』
ドガガガン! ドガガガン! ドガガガン!
 『ナイス砲撃や、よっしゃ! こ~のぉ~……』
ガシャン!
リアーシェがアサルトタイプのライフルをリロードする音。
 『人ん家の庭でぇ~~……なーにをやっとるかぁぁぁぁぁ!!!』
ズガガガガガガガ!!
 『柴姉~? あんまり無理しないでね~』
 『了解や!』
 「みんな……」
みんなが。
 『ちい…山の後ろにメイトルシャ砲兵か……マリス。頼む』
 『ライ(了解)』
ザンッ!
返事と同時に密林から紫の機影。
高く高く空に跳ぶ!
 『邪魔だよ!』
ニオン収束性のランスを振りかざして……山の後ろへ飛び降りながら――
ドンッ!
――突きたてる!
バキーーーン!
 『敵機沈黙!』
ヴォージック構成式の球体拡散。様々な記号が青白い光と共に弾ける。
敵のVOCをコードブレイクしたのだ。
ザンッ!
再びの跳躍。
 『よくやった、お前はそのまま島の後方に回れ』
 『ライ』
 「……………」
みんなが……頑張っている。
 『小隊長~? そっちに2体回るみたいだけど、砲撃しとこうか?』
 『大丈夫だ。それよりお前は柴田のバックアップをしてやってくれ』
 『オラララララァ! って! 痛っ! なっ……どっからや!?』
ドガガガン!
 『柴姉気をつけなよ~? 海の方からどんどん上がってくるみたいだよ』
 『はっはぁ~ん。ちゅうことはどっかに輸送艇でもおるねんな、こいつら意外と本気でここ陥としにきてるかも
しれへんな』
 『とりあえずそこら一帯を砲撃しとくから、一旦退いてシールド回復させといて』
 『あいよ~』
 『小隊長、海中には特に敵影はないみたい。多分、上にいる奴らで全部じゃないかな』
 『ライだ。後続がどれくらいかはわからんが上陸部隊を全て駆逐すれば決着はつくだろう。全員、もう少し踏ん張れ!』
 『了解や!』
 『了解っ』
 『ライ』
 『……こちらクレオ! 水を差すようで悪いんだが、どうやらその後続さんが現れたようだぜ。ここから5体確認できる』
 『方角は?』
 『島の中心から3時方――――』
クレオ准尉がおかしな所で言葉を切った。
 「?」
 『マジかよ……おい、待てよ、あいつらは――』
 『正確に報告しろ! どうしたんだ!』
 『くそっ! 最悪だ! ちきしょう!』
どうしたのだろう。突然、怒り出したように悪態をつきだす。
 『なんやねん? 5体位ならどうにかなるやろ、なんかあったんかい』
 『最悪だ! 最悪だよ! ……右肩に7角星のエンブレムだ!』
 『……な、んだと……?』
 (7角星?)
 『…………ええっと、それってなんだっけ? あたし覚えてないんだけど……』
 『ああっ!? なんやって!? ちょい敵さんがうるさぁて聞こえんかったわ! もっかい言うて!』
 『……アスターだ……』
 『だから声が小さいんやって! マリス! なんやって!?』
 『アスターだよ! アスター小隊! 独立の英雄だよ!』
 『はいぃ!?』
アスター小隊。
77フレズ程の頃にヴォーカリオンが軍事転用を開始された初期に試験的にバランスィアで編設された、一番最初のVOC部隊。
伝統的にニオン型VOCのみで構成される部隊。
 『うっそ!? 何でアスター小隊がここにいるのっ!? 北部戦線でアプロウズ軍と睨み合ってたんじゃなかったの!?』
 『わからん……! わからんが、くっ! 柴田っ下がれ!』
 『えっ! ちょ……りょ、了解っ』
その後、デリトアがアプロウズに宣戦布告をした北部VOC戦役で、バランスィアがアプロウズに絶対中立を宣言した時にアスター小隊はデリトアに亡命してしまった。
北部VOC戦役勃発当初はデリトアは確かな国土をもっておらず、南東大陸上の数えるほどの都市しかその戦役を支持しなかったのだけれど。でも――
 『くそっ、燃料が……。カーター小隊長、念のために聞くが基地は放棄するよな?』
 『しかたがない……』
 『ははっ、だよな……雛鳥(カイトギアス)は捨てるしかないか……』
 『ちょ!? 小隊長!! 本気かいなっ!!』
 『我々では彼らには勝てんのだ! ここは退くしかない』
――アスター小隊はそのごく少数の支持都市を足がかりに、南東大陸を3フレズ余りでデリトアの支配下に平伏させたのだ。
 『そんな! クリス兄ちゃんとか整備長はどうするの!?』
 『殺されはせん! それよりも我々が捕まってしまったほうが源ノ元(みなのもと)達を助け出す機会を失う!』
 『……どうしようもないなんて』
 「小隊長! あのっ」
 『アルは何とかしてそこから脱出しろ! 這ってでもいい、最悪は機体を放棄しても構わん!』
 「で、ですけど」
 『柴田っ! 何をやっている! 早く下がれ!』
 『わかっとりますがな! だああ! 誰か、7時方向の敵さん片付けて! シャイナどうしたんや!』
 『ごめん、チャージ中! 15秒待って――』
 『ダメだ間に合わん! 私が時間を稼ぐ、早く下がれ!』
 『小隊長! 僕なら海から攻撃できるよ! 慌ててるところを柴姉と一緒にやれば――!』
 『ダメだ!! お前はそのまま海底を伝って島の西側に逃げろ!』
 『で、でも……』
 『お前では切り刻まれるだけだ! 逃げろ! これは命令だ!』
 『……ラ、ライッ!』
 「っ……早く、姿勢を、よし! 立ちあがった」
 『あんたら気をつけろ! 来たぞ!』
木に引っかかっていたミンクスの背中に付いている飛行用フォトンライドを外すのに手間取ってしまったけど、私はなんとか立ち上がる。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

高次情報電詩戦記VOCALION #2

ピアプロコラボV-styleへと参加するに当たって、主催のびぃとマン☆さんの楽曲「Eternity」からのインスピレーションで書き上げたストーリーです。
シリーズ化の予定は本当はなかったのですが……自分への課題提起の為に書き上げてみようと決意しました。

閲覧数:199

投稿日:2010/08/03 23:52:24

文字数:5,451文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました