全然つかめない、つーか良く分かんない
全然しらないうちに、て事あんの?
ココロ奪われるなんてこと、・・・はぁ?
あるはずないでしょ、当然!
出会いはほんの些細な事だった。中学も二年に上がり、学校生活もそこそこ楽しくなってきた時、リンはレンと出会った。
何となく噂で聞いた事はある。自分と苗字が一緒でしかも姿までそっくり、と言う男子がいる事を。それが、鏡音レンだ。因みにリンは鏡音リン。
けれど、不思議と出会う事は無かった。本当に不思議な位。だからリンはそんな自分と苗字が一緒で姿も双子の様にそっくりな男子の事など、すっかり忘れていた。
始業式の日、新しいクラスが発表され、そのレンと同じクラスになるまでは。
「鏡音さん」
『あ、ハイ』
名前を呼ばれるとリンとレン、同時に返事をする。それにクラスメートはまたか、と言う表情を浮かべる。
「あ、ごめんなさいね。鏡音さん、鏡音リンさんの方」
「・・・ハイ」
少しブスリ、と表情をしかめ、リンは先生の応答に応える。新しいクラスになって数ヶ月が経つけど、先生は未だに二人の名前が合致していないらしい。
まぁでも教師成り立て、とか言ってたからそこら辺はまぁ、許してやろうかな、そう思ってリンはフゥ、と息を付いた。と、後ろの方から小声で
「いっつも大変だね、リン」
と、声を掛けられた。相手など見なくても分かる。小学校の時から仲良しの亞北ネルだ。
「まぁね、でも慣れたかも。やだけど」
ス、と後ろを振り向いてしかめっ面をしてみせるとネルはクスクスと笑った。と、
「また間違えてんだな、レン」
「これでも慣れてはきたんだけどね。でも難しいかな」
「そうだな・・・。確かに同じ苗字の人がクラスで一緒だったら頭こんがらがりそうだもんな」
「まぁね」
そう応えてレンとその男子はクスクスと小さく笑い出した。からかい目的とかでは無い、純粋に可笑しくて笑っている笑顔。
その表情をムスッとした顔で見た後、リンは前を向いた。その様子をネルは何か思案顔で見つめていた。
給食時――
「リンってレンには無愛想だよね」
「・・・・・・行き成り何言ってんですか貴女は」
手に食べ易いように千切ったパンをその手に持ったままリンは真正面にいるネルにそう言った。
「だってそうじゃん? レンが話しかけても『別に』とか『私がそんなのに付き合うわけないじゃん』とか言うじゃない」
ゴクリ、と牛乳を飲み、プハァ、と息を吐く。
「それは私がそんな事に興味無いからで・・・」
「でもリンが好きなイベントとかのチケットいるか、て聞かれてもいらない、て応えてたじゃん」
「う」
口に運んでいたパンを持つ手が一時停止する。良く見ている。流石親友、と言った所だろうか。こういう時には厄介なものである。
「別にレンはリンにだけ、特別、て訳でもないんだけどね・・・」
他のおかずにも手を付けながらネルは言う。レンはクラスの、いや、学年の人気者だと言っても過言ではないだろう。近付く人は拒まず受け入れる。譬えその人がどんなに嫌われていようと、レンはそんな事を気にしない。誰とでも仲良くする。そう、誰とでも。
「それが気に食わないのよ・・・」
「ん? リン、何か言った?」
「べっつにー」
素っ気無く応えてリンは一時停止していた手を動かした。
「あ、ねぇ、鏡音さん。今度新しい映画が公開されるんだって。一緒に行く?」
「断る」
つっけんどんな返事を返すとレンは少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、「そっか、ごめんな」と言って直ぐにリンの元を離れる。そして他の人に話しかける。今度は上手くいったらしく、嬉しそうな笑顔を浮べた。
「やーっぱりレンには素っ気無いんだね、リンは」
「余計なお世話です」
プイ、とそっぽを向いたリンの様子を見てネルはクスリと笑う。そしてリンの隣に座った。
「なんかね・・・すっごくモヤモヤする・・・」
「それってレンに対して?」
「いや、何か違う気がする」
「フーン・・・。リン、もしかして、メランコリー?」
「め・・・めら・・・? なにそれ」
「メランコリー。気がふさぐ事、とか悲哀感、て意味があるの。それと、もう一つは、」
憂鬱
「憂鬱、ねぇ・・・」
「まぁ、リンはそんな風になるとは思わないけどね。ま、一応無駄知識、だと思って時々思い出すと良いよ」
「なにそれ」
ネルの言い方に思わずリンは笑った。何だか久々に笑った気がして、その事にリン自身が驚いた。
何時も無愛想な笑顔を浮べて、日曜日の日暮れを見るような少し物悲しい気持になったりして、テストばっかりの期間にウンザリする様に、きみ、ていう名のメランコリンニストがいて。
手当たり次第に強気を持ってぶつかっていって、それでもなんにも手には残らないって思い込んでる。ちょっとぐらいの勇気にだって塞ぎこんでる。
わたしだから。
良く分かんない、全然つかめないよ、きみのこと。
知らないんだからね、知らないもん!
「ねぇねぇ」って話しかけてこないでよ。
・・・また眠れなくなるじゃない・・・
それじゃぁ、また明日、と言ってリンはネルと校門の所で別れた。リンとネルの家は丁度正反対の所にあるので、帰りは何時も、独りだ。
ハァ、と息を付いて思案する。
明日も、同じ私がいるのかな? 無愛想で、無口で、つっけんどんで、すっごく、すっごく、
「カワいくないヤツ」
思わず口にしてしまってリンは慌ててその口を塞いで周りを見渡すが、幸いな事に誰もいないのでリンは安心してフゥ、と息を付いた。
あの時から、なんだ。あの時から。
まだ新しいクラスに入りたての頃、夢を見た。レンと、自分が夢の中に出てきた。二人は凄く嬉しそうに笑って、笑って。今じゃ考えられない。そして極め付けに、レンとリンは手を繋いでいたのだ。ごく自然に。当たり前の様に。
目が覚めてからもその手にレンの感触が残っている様で、凄く胸がドキドキしてたのをリンは覚えている。
つかめない、全然つかめない、きみのこと、
全然しらないうちに、
こころを奪おうとしてたのは、紛れも無く、
わたしのほうだもん・・・
そういう時期なの。
この感覚におぼれていたいの。
だってまだまだ青春はこれからだから。
思春期、反抗期、なんとでも呼べば良い。
ようこそ、いとしのメランコリー。
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ブクマつながり
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<私的メラ...私的メランコリック Boy's side
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翔破
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姫宮 みゆ
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「え?」...音のない声(私的soundless voice)
翔破
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