「ほへー…ここが街なの…」
隣の少女は活気溢れる朝の街を見て間抜けな顔をしている。それに対して俺は、朝っぱらからビンタされたことに腹を立て不機嫌だった。
今朝、リンはよっぽど街に下りることが楽しみだったのか、まどろみの中の俺に病人とは思えぬ力で一撃をくれたのだった。死神である俺は眠る必要はないのだが、嗜好として眠っているときに起こされれば気分が悪い。その方法がビンタならばなおさらだ。その後は既に真っ白なワンピースに身を包んでいたリンに促され、直ぐにマントのワープを使ってここまで来たのだ。
「ふぁぁ~ぁ」
俺は目をこすりながら欠伸をする。リンはそんな俺の手を引いて既に人混みにダイブしていた。おかしいなぁ、原作だと俺が少女を連れ歩く設定のはずなのに…
街は朝市の真っ最中、俺達は人でごったがえす中屋台を見ながら進んだ。
「安いよ、安いよ!今日は秋刀魚が安いよ~!!」
「りんご、りんごはいらんかね?スモモもお勧めだよ!!」
「キリマンジャロのいい豆が手に入ったんだよ、一杯どうだい?」
「ぐぐぐぅぅぅ~~~………」
「???」
ん?今人ごみの中でもはっきりと聞き取れる、不穏な音が……しかも、すぐ近くで……
俺が隣を見ると、リンが真っ赤な顔をして下を向いていた。俺はそれを見て、何か食べようか?と聞いて見る。するとリンは死神様が食べたいならと言って了承してきた。もちろん俺は腹など空いていない。そもそも死神は嗜好として嗜むだけで、なにも食べる必要が無いのだ。この娘、リンは強情な娘だろうと昨日の会話から推測していた俺は、彼女の願いを叶えるために手助けしたにすぎないのだ。
見ると目の前にクレープ屋がある。
「クレープにでもいたしましょうか?」
「クレープって?」
知らないのか…まあ、食べれば分かるだろう。俺は少女の手を引いてクレープ屋の前に行く。そこで少女の耳にそっと耳打ち、
「クレープ2つ。」
俺の姿は死の迫ったものにしか見えない。少女には昨晩そのことは話したから、状況を理解してくれるだろう。クレープ屋には俺の姿は見えない。少女も事情を察したのだろう。突然もじもじしだして、散々間を取った後蚊の鳴くような声で、
「ク、クレープ2、2つ。」
と言った。恥ずかしがった少女はとても可愛らしい。支払いはそもそもお金の存在を知らないリンに変わって俺のポケットマネーから出したのだからこれぐらいしてもばちは当たるまい。無事クレープを食べ終えた俺達は再び街を行く。リンは先ほど俺が仕掛けた悪戯に少々ご立腹らしく口を利いてくれない。俺自身も多弁な方ではないので無言だ。黙って歩く黒と白の二人…
あまりに静かだったせいだろうか、俺はそれにしばらく気づかなかった。少女がいないのだ、日は既に高くなった頃の話だ。朝市は終わり人通りもまばらになっている。はぐれたと言うより、置いてきてしまったのだろうか?俺は珍しくうろたえた。来た道を慌てて戻る。しかし、少女の姿はない。可笑しな話だ、読者諸君笑ってくれ!死神が、たった一人の少女のために大慌てだ。その娘がターゲットだからか?いや、それだけじゃない何かが…何かがある。俺は能力を使った。死神の心眼!こっちだ!!
俺は大通りから道を一本入った。するとそこにショーウィンドウに張り付くようにして何かを見ているリンがいた。太陽は西に向かい傾きだした。
「リーン!!」
俺は柄にもなく走っていた。リンがこちらを向く。
「死神様!そんなに急いで、そんなに私がいなくて寂しかったのかしら?」
「なっ!?」
確かに、俺は何をそんなに慌てていたんだ。冷静になれば死神ともあろうものがこんな小娘に必死になるなんて…
でも、そうさせる何かをこの娘は持っていた。
「っわ、悪いかよ…」
俺らしくもない感情を表に出すだなんて…
「っ別に…」
あれ?なんでこの娘は顔を染めているんだろう?気まずい沈黙…
「そ、そういえば何を見ていらしていたのですか?」
出来る限り落ち着いて話す。
「その、首飾りよ。」
少女が指差す先には銀製と思える首飾り。おいてあるこの店は…雑貨店だろうか?古びた店なのにその首飾りだけが光って見えた。少女が立ち止まったのにも頷ける。
「欲しいのですか?」
少女はコクンと頷く。俺は少女に銀貨を渡し一人店に入っていくのを見送った。一人で欲しいものを買いたい。それが生涯を箱の中で過ごした少女の最期の願いであった。
「いらっしゃい。」
リンが暗く埃っぽい店の中に入る。店主は70はいっているであろう老人であった。
「お嬢さん、そなた、もうすぐ死ぬのか?」
「そうらしいわね。爺、貴方にも見えるの?」
「ああ、見えるとも。わしも歳かのぅ。」
買い物の間にリンは店主とそんな会話をしていた。もしかしたら近いうちにここにもう一度来る事になるかもな。そんなことを考えていると自分が腐っても死神だと感じ、自分が嫌になる。考え事をしているうちにリンが店から出てきた。
「買えましたか?」
「ええ、私…これw…」
そして…リンが倒れた。
オレンジゴールドのナイト―鎌を持てない死神の話③―
白黒Pさんの鎌を持てない死神の話(http://www.nicovideo.jp/watch/nm6630292)を勝手に小説にさせて頂きました。
今回はほのぼのとしたシーンが多かったですね。(よく考えたら僕の小説で始めてかも)書いてて今までとはまた違った意味で楽しかったです。
さて、問題は次回ですね。がんばります。
続きはこちら(http://piapro.jp/t/phxv)
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