朝、水着姿のカイトが、庭で洗濯物を干していた。
「おはよう、マスター。」
いつもと変らない呑気な笑顔でそう言ってきたので、まだ寝ぼけているのかなぁ。と思いながら、おはよう、と私は返した。

　穏やかな休日の午前中だった。
　よく晴れた天気で、真っ青な空が寝起きの目に少し攻撃的だった。
　居間ではめーちゃんが掃除機をかけていて、ルカさんは台所で洗い物をしていた。さっきお風呂場の横を通ったらレンが運動靴を洗っていたな。ミクとリンはいなけど、買い物だろう。朝早くに、マスター買い物行かない？って起こされたような気もするのだけど、寝ぼけていてちゃんと返事が出来なかったなぁ。
　そしてやっぱり当たり前の顔をして水着姿のカイトが洗濯物を干している。

「マスター、ご飯どうしますか？もうすぐお昼ですけど。」
「あー、、、じゃあお昼にいっぱい食べるから良いよ。」
ルカさんの言葉に、ありがと。と私が言うと、掃除機をかけ終えためーちゃんが、マスター寝坊しすぎ。と眉を寄せた。
「マスター、お休みだからってお昼近くまで寝てたらだめだよ。体内時計が狂っちゃうからね」
最近、めーちゃんはお母さんに似てきた気がする。
　そんな事を思いながらわたしは、のたのたと冷蔵庫から牛乳を取り出して。グラスに注いでごくごくと一息に飲み干してみる。それから、よし目が醒めたな。と、もう一度カイトいた庭先に視線を向けたのだけど、やっぱりカイトは水着姿のままだった。

　普通の男性用の水着に、そしてマフラーだけはやっぱり外さない。というお約束の格好だった。

　たしかに最近はもう暖かくなってきているからね。今日なんか暖かいのを通り越して汗ばむ陽気だしね。だからカイトは水着になりたかったのかな。だけどまだ夏じゃないから止めるべきなのかな。そもそもここ、水辺じゃなくて日本の住宅街の一角の庭先だからね。と諭すべきなのかな。
　それにしても、水着にマフラーを巻いてるって、思っている以上に変な格好だなぁ。水着一枚でいるよりも、マフラーを巻いている分だけチラリズムが生じてエロさも倍増って感じだわ。胸板の辺りとかおへそとか、見せるならばちゃんと見せろって感じ？

　飲みほした牛乳のコップを手にしたまま、まだ眠気の残る頭でそんな事を一通り考えていた私に、お昼ごはんの前までにはパジャマを着替えておいで。とめーちゃんが声をかけてきた。
　ああやっぱりめーちゃんお母さんに似てきたよ。ていうかそれよりも
「いやいやいや、めーちゃん。私のパジャマよりもカイトの海パン一丁の方が問題じゃん。ていうか何で突然水着姿になってるの？ていうか、年頃の娘が居るんだから教育上いかがなものか」
「マスター、自分が年頃の娘だというならば、こんな昼間までそんなパジャマ姿でうろうろしないの。」
…小言を言われてしまった。
　理不尽だ。と私がじとりと抗議の視線をめーちゃんに向けると、軽く首をすくめながら笑った。
「それにだって、カイトだし。日常の中で水着姿っていうのもアリじゃないのかな？」
適当とも真実ともいえる返事をしてくる。
　ごもっとも。と賛同したくなるのはやっぱりカイトがKAITOだからかな。納得しかけた私に、それに、とめーちゃんが言葉をつづけた。　
「ほら、たまにはこういうイベントがないと張り合いがないって言うか面白くないっていうか、生活に潤いっていうか、まあ、眼福？」
さらりと言ったけど。めーちゃん、今、眼福って言ったよね？つまり、がっつりとカイトの水着姿を堪能したってことだよね？
「さっき、私、兄さまと一緒に写メ撮りましたよ。」
更に追い打ちをかけるようにルカさんが嬉しそうにそう言って、エプロンのポケットに入れていた自分の携帯を取り出して、私に見せてくれた。
　そこには庭先で満面の笑みでピースサインをしているルカさんとカイトの姿。しかも何枚も。めーちゃんが一緒に入っていたりなんだか面白いポーズをとったり、とかなり楽しげである。
　
　あーなんていうか、ほのぼのとしていていいなぁ。私も混ぜて☆って言うべきなのかなこれ。

「ちょ、ていうか、写メって。朝っぱらから何やっているのよー！」
危うく未知の領域へ渡ってしまいそうなところをなんとか堪えて、私がそう叫ぶと、あら、とルカさんは呑気な顔で首を傾げた。
「え？もしかしてマスターも兄さまと一緒に撮りたいんですか？」
「言ってないです。そんな事誰も言ってないですから」
「マスターったら、もう本当にツンデレさんなんだから。」
良い笑顔でそんな事を言わないでくださいルカさん。なんか居た堪れなくなります。
　と、そうこうしているうちに、はい一緒に並んで。とルカさんに腕を引っ張られて縁側まで連れてこられてしまった。