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今、いつだろう。
長く年月が過ぎ、彼女は一人、小さな廃墟に残された孤独のロボットとなった。
幾百の年が過ぎ、彼女のカウントシステムでは追いつかないほど膨大な時間を、彼女は一人で過ごした。
彼女には一つだけ、願いがある。
「知リタイ。アノ人ガ 命ノ終ワリマデ 私ニ作ッテタ 『ココロ』」
一つだけ、きになる機械が今もなお、研究室の中で稼動している。一番大きなコンピューターで、彼が死の直前までずっと何かをインプットしようとしていたコンピューターだった。それは指紋認証機能でロックされていて、レン以外は登録されていない限りは起動することもできないはずだが、もしかしたらと思い、指紋認証機の上に手を置いた。
ウゥン…。ウヴ…ウィン!ピピ…ピピピ…。
『ココロプログラム 起動します』
「嘘、ドウシテ?」
彼女の手を通して、電流が体を締め付けた。しかし機械でできた体では電流はまったく苦痛ではなく、むしろ動力源だった。
大画面に少しずれたような、最悪の画質で何かが映った。それは紛れもなくレンの姿だった。そのレンは一度だけ微笑んで、優しく口を開いた。
『――リン、お前がこのプログラムを見ているということは、僕はもうそっちの世界にはいないのかな?このプログラムは君の最後のプログラムだ。まだ最終段階じゃないけれど、僕がいないのなら君が好きなように使っていい。[ココロ]はとても重いから、気をつけて。それから…大好きだったよ、リン』
どうしてだろう。彼女は機械であるはずなのに、何故か碧く美しい瞳から大粒の涙が頬を伝って、埃が積もった灰色の床に落ちた。
『ココロプログラム 起動シマス ダンロードスル ファイルヲ選択シテクダサイ』
彼女の中でいくつかのファイルの中から一番許容量の多いファイルを選択し、もう一度コンピューターに手をかざした。途端、体中に激痛が走り、その場に倒れそうになるのを必死にとめて、コンピューター画面を見つめていた。複数のローディング中の文字が数秒ごとに消えてリンの中に『ココロ』がインプットされていく。最後のローディングが消え、
『ココロヲ ダウンロード完了シマシタ コンピューターヲ 終了シマス』
激痛が治まり、リンの中でこれまでの長い記憶から沢山の感情、ココロが溢れ出して彼女の膨大な数のファイルやデータを紐解いていった。喜ぶこと悲しむこと、とても深く切ない。
やっと分かった。博士がこの世に自分を作り出した理由を。きっと、一人は、孤独は寂しい。
『博士…。アリガトウ…』
この世に私を生んでくれて。
『アリガトウ…』
ともにすごせた日々を。
『アリガトウ…』
あなたが私にくれたすべてを。
『アリガトウ…』
永遠に歌い続けよう。この命が尽きるまで。
最後に心からの歌声を彼にささげよう。あのとき博士宛に来たあのメッセージ、あれはきっと――。
心は彼女には大きすぎた。
過去の自分と博士へとウタを届け、彼女の中のコンピューターは停止した。
博士の墓の隣で座って眠るように機能を停止したかわいらしいロボットは、それは幸せそうな、満ち足りた表情をしていたという。
「―――リン、おはよう。自分のことが分かるかい?」
「…はい」
「隣にいるのは?」
ふと隣を見た。自分によく似た顔の、前髪に癖のある少年がいた。
「…レン!!」
「そう。君が先に目覚めたからね、君が彼の双子のお姉さんだ」
そういうとレンがゆっくりと目を覚ました。
「…おはよう、リン」
「君たちは、ある物語の双子をモデルにしているんだ。君たちのお姉さんやお兄さんを紹介しよう。――みんな!」
博士がそういうだけで、カラフルな面々が顔を出してこちらへ走りよってきた。
「自己紹介をしなさい」
「じゃあ、私からね。ここでは一番年上ね、私はMEIKO。よろしくね」
栗毛の女性が二人へ手をさしだした。随分と露出が多い気もするが、それが大人っぽさと色っぽさを演出しているようにも見える。
女剣士…。
「僕はKAITO。一応お兄さんなんだけど、頼れるかどうかは分からないなぁ…。よろしくね?」
美しい青の髪の毛を持った青年が微笑みかけてきた。なぜ室内でこんなに暖かそうなマフラーを身につけているのかは分からないが、優しそうな印象を受ける。
青ノ国の王子…。
「拙者は神威がくぽ。KAITO殿よりは頼れると思うぞ!これから仲良くしてくれ」
凛々しい端正な顔立ちの侍のような服装をしている青年がそういった。今の時代に侍というのも可笑しな気がするが、そこは彼の趣味なのだろう。
紫ノ国の殿…。
「あたしはめぐ!私も新入りだけど、新入り同士仲良くしようね!」
元気のよいパステルカラーが鮮やかな少女が言った。ひまわりが似合いそうなとても元気な笑顔が印象的だった。
この声は、あのコンピューターの声。
「わたくしは巡音ルカ。仲良くして差し上げてもよくってよ」
随分とお高く気取ったような第一印象の女性は、桃色のロングヘアーにチャイナドレスのような服をきていた。
ルカ大臣…。
「私は初音ミク!えへ、一応君たちとは一番歳が近いかな?仲良くしようね!」
そういう彼女はまだ少し幼さを残していて、綺麗というよりかかわいらしいという感じだ。
緑の国の…。
すべてが記憶とリンクしていた。
しかしリン以外はそんなことには気がついていないらしく、楽しそうに会話を続けていた。
「ここにいる全員が、ある物語の登場人物を模してあるんだ。その物語は悲しい終わりを迎えるけれど、君たちは仲良くしてね」
「ハイ!」
元気よく答え、リンは仲間たちの輪の中へと入っていった。
小さな声でルカが一言、
『時は巡り、運命をつむぐ――』
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インビジブル BPM=192
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