はっきりとその姿が見えるワケじゃなかった。
 ただ、時々。
 人ごみの中でショーウィンドウに自分の姿が映ったのを見た時、とか。
 洗面所で顔を洗っていて、顔を上げた一瞬、とか。
 ガラガラの電車の中で居眠りしてて、起きた瞬間の夕焼けに染まった向かいの窓、とか。
 そういう一瞬に、一瞬だけ、姿が見えた。
 
 あの子は誰だろう?

 あたしと同じ髪の色。あたしと同じ目の色。あたしとよく似た顔。
 それでもあたしと違う。のは。そう、断言できるのは。
 その子が男の子だからで。
 どう違うって言われたら体型とかもそんなに違わないし、ちょっと説明できないんだけど、やっぱり違って。男の子で。あたしとは別人。ムネないし。
 ……あたしは、ちょっと、はあるよ? ちょっとは!
 
 あの子は何者?
 
 どこに存在するの? 何をしてるの? 名前はなんていうの? どんな顔で笑うの?
 興味あるよ? もちろん。
 だってあの子。歌うんだよ?
 時々、時々。
 部屋の中で一人で歌を歌っていると聞こえてくる。一人で歌ってるハズなのに。同じ旋律。同じリズム。なのに別の声。ちょっと鼻にかかってて、でも可愛くて、綺麗な。とても綺麗な声。
 一緒に歌うと、頭の先から何かが突き抜けてく感じがする。あたしの中にある、曖昧だけど絶対あるイメージ、全部そん中にぶちこんで。それが、伸び上がって広がって、空に溶けるように。すぅっとする。夢中になる。
 そのとき、あたしは確信できる。

 あたし、今、世界で一番の歌うたい。

 だから、あたしはあの子の声は知ってる。歌を知ってる。
 それで充分なのかもしれないんだけど、時々むしょうに会ってみたくなる。
 会って、喋って、笑って。
 それで一緒に歌いたい。

 ねえ、キミはそう思わない?

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  • 非営利目的に限ります

あの子はだあれ?

前のバージョンで続きます…。

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投稿日:2008/10/26 12:34:18

文字数:763文字

カテゴリ:小説

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