「す、す、すみません…。だから食べないで…」
「くわねぇよ」
気弱な少女に説教をする不機嫌な少年、その横で少女を弁護しようとしている、もう一人の少女…近くに一頭、銀の狼。
「混乱していたんだから、仕方ないんじゃない。無事だったんだから、許してあげてよ」
「うっさい」
「ごめんなさぁぁいぃ…」
これでは話にならない。
一人は横から口を出すだけだし、一人は相手の言葉を全否定するし、一人はわけも分からず謝っているだけだ。この場を収集できる人間が一人もいないのは非常に大きな問題であることを理解するのには、丁度よい教材になるかもしれないが。
「そういえばさ、さっきの赤黒い人、格好良かったねぇ。感じよくはなかったけど」
「あ、え、はあ…」
曖昧に返事をして、ハクも随分まいっているようだ。
「…もういい、だらだら説教してても無駄だ。帰れ」
「ちょっと、何、その言い方?」
「でも、誰がおばあさんを殺したのか…まだ、わかってないです」
「黒狼に決まってるだろ…!」
決め付けていった。
アリスは何も言わなかった。
『あなたも狼なのね?』
去り際、アリスは少年に言った。
『…』
『デルが言っていたの。この森には銀狼と黒狼がいるって。あなたは黒狼なのね?』
『俺は…そうだな、黒の狼少年、だ』
『黒の狼少年?』
『それも、血塗れの』
狼少年といえば、狼が来たと嘘をついた羊番の少年の話で、実際に狼がやってきたときに少年が皆に知らせに行くと、皆は少年を信用せず、羊は結局食べられてしまったという有名な話である。そして、よく嘘をつく相手を狼少年と言うこともある。
この場合は後者のほうであろう。
『どういうこと?』
『それ位、自分で考えろ。…ほら、デルたちにおいてかれるぞ』
『あ、…じゃあ、また今度、会おう?そのときに、教えて。あなたの名前』
返事も聞かず、走ってきてしまったが、あの表情は誰かを殺したりできるような表情ではない。寧ろ、悲しみに満ちた目をしていた。
血塗れの狼少年は、どんな嘘をついたというのだろう。黒に染まって、血にぬられ、一体何を欺こうと、何を隠し通そうとしたのだろうか…。はしってくるとき、一度振り向いてみると、血塗れの黒い狼少年は静かに姿を消していた。
「――ん、アリスちゃん、いきましょう?大丈夫ですか?」
心配そうな表情でハクが聞く。
どうやら回想に夢中で周りの音をシャットダウンしてしまっていたらしい。しかし、横のデルは迷惑そうな顔をしているだけで、アリスを心配するような風はこれっぽっちも見せない。
アリスが回想をしている間に、ハクは説得に負けてしまったらしい。
「う、うん…。いいの、ハク?」
「はい。とりあえず、私がここにいても、何も解決しませんから…」
やはり、ハクは寂しそうな表情をしている。心残りがあるハクを、出るが半ば強引に納得させたのだ。
立ち上がって足取り重たげに、ハクはその場を去っていく。それを支えながら、アリスも歩いていく。それを見送りながら、デルはため息をついた。
「――って来たのはいいんだけどさ」
木の切り株に座り込んだ。
「何で一本道で迷うかなぁ」
「どうしてでしょう…」
狼が出る森の中、二人の少女がとぼとぼと道なき道を、家に向かって(いるかどうか定かではないが)歩いている。喰ってくれといっているようなものだ。
「兎に角、森を出なきゃ。適当にまっすぐ歩いてれば、どこかに出られるはず」
「でも、がむしゃらに歩いていって、狼に出くわしでもしたら…」
「じゃあ、デルのところに戻る?」
「来た道、分かりませんよ…?」
二人は深くため息をつき、それから泣きそうになって手を握り合う。そうして、少しでも不安を和らげようとしているのだが、暗い森の中ではそれも虚しいだけである。
もう一度、深くため息をついた。先ほどよりも深い、深い、ため息だった。
それでもしばらく考えて、このままでは何も始まらないと思ったのか、ハクが立ち上がって何かを言おうとした――
「危ない、ハク、後ろッ」
「え――?」
視界は暗く。
その影は、その目は間違いなく白い髪の獲物を捕らえていた…。
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kefuca66
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ご意見・ご感想
流華
ご意見・ご感想
2人そろってどこまで方向音痴なんですかっ!?
一本道で迷うってすごいですよね……。
ボカロ曲で洗脳されるってずっときいてたってことですか?
もしそうだとしたら私もです!!
もう曲止めたのに頭の中ながれてるっていう………。
2010/03/07 23:17:15
リオン
多分元凶はアリスのほうですね(汗
「あ、キレイな花があるよー」とか言ってハクを引っ張って行ったんだと思います。
ずっと聞いてたらベッドに入っても脳内でずっと延々リピートですよ。
前に、目覚めた理由が脳内でボカロ曲が流れ始めてからっていうのがあった気が・・・。
そろそろ中毒じゃすまないですね…。
2010/03/08 19:04:10