過去巡り 外伝 『花の祝福』 その6
私達、合唱部みんなが2年生になり、半年たった10月
また文化祭がやって来た。
今年こそはガク君がやってくるだろう。
去年の文化祭はお母さんが病気で倒れたから仕方がないが、今年こそは
文化祭に来て合唱部の、いや流香の歌を聴いてもらいたいと思っていたけど、
一般公開の日曜日に、教室で流香からガク君が来れないと聞いて驚いた。
「はぁ?ガク君が風邪になって来れない?本当?」
驚く私に流香がちょっとしょんぼりしながら
「うん…昨日の夜に電話したらかなりゲホゲホしてて、風邪?って聞いたら
39度の熱が出てるって言うから…じゃあゆっくり休んでって言ったの…」
「39度?そんな…だって…」
だってあんなに頑張って練習したのに…
「うん…でもしかたない…よね………今年こそは来て欲しかったのになぁ…
去年はお母さんのことがあったからしかたないけど…今年も…かぁ…」
そう言って落ち込む流香に同情をしながら、私は違うことを考えていた。
文化祭は3回しかないのに…これで2回もガク君が来れなかった…
せっかく…せっかくみんなで頑張って…みんなが2人のために…くそ…
流香の言う通りしかたないけど……あぁ~もうっ!
どうしようもない現実にイライラしていた。
そして舞台袖で出番を待ってる時にサキに、昨日ガク君が風邪をひいた…
「だから今年も来れないみたい…」
かなり不機嫌になりながら言うと
「そっか…そりゃ残念だね…」
サキは悲しげに瞳を伏せて私に言った。だから私は
「残念って…残念ってそれだけなの?だってみんなは2人を…
2人の為に頑張ってきたのに…2人の為に合唱部を作ったのに…」
落ち着いた態度のサキが信じられなくて、ついあたるように言ってしまった。
サキはそんな私を困った目で見ながら
「なんでハナが怒ってんのよ?悔しいのは分かるけど、いま一番悲しいのは誰?
流香とガク君でしょ?流香とガク君が一番楽しみにしてた…
でも行くことができなくて…来てもらえなくて、とても悲しい…
2人はそう悲しんでるはずでしょ?2人が一番……会いたかったはずだから…」
サキが言ってることは分かる…
言ってることは分かるが…でも…でも私はサキみたいには…
「だから…だから私達は知らない振りしておこう?」
サキの様に考えることは…サキの様に大人の対応をすることは…
サキのような大人になることは…
「だから…いつもと同じようにしとこ?……ね?……だから……」
私には……今の私には……
サキの言葉を受け入れられない…同じように考えたくない、と
ただ黙って聞いている私に、サキが優しく…困った顔をして
「だからハナ……そんな……そんな泣きそうな顔をしないで?……ね?」
子供をあやすようにポンポンと頭を撫でた。
2人が今年も約束を叶えられないことに…2人が悲しんでることに涙が出かけた。
「なんで…なんで…流香……あんなに楽しみにしてたのに……なんでよ……」
私が自分の涙を拭いてる間、サキは黙って頭を撫で続けてくれた。
そして一年の時間が経ち、高校最後の文化祭を一週間後に控えた日。
私は流香と、本屋で私の受験対策の本を探していた。
一緒に選んでくれたらアイスを奢る約束で…
そして参考書を買って隣のアイス屋に行き、約束どおり私の分と流香の分のアイスを買った。
2人でアイスを舐めてる時
「私達ももう大学受験かぁ~早いなぁ~」
今の私達の状況を考えたら、ただ何となく口から言葉が出てしまった。
ついこないだ入学したつもりなのに…もう3年生になってるや…
と、入学したばっかの事を思い出していると
「そうね~。みんなとずっと一緒にいるから変わらないなぁ~って
思ってたけど、私達ももう高3なのよね~早いわね~」
流香も私と同じことを想ってくれた。
そう、流香の言う通り、みんなと中学からずっと一緒にいるから
変わってないように感じてたけど…
もう高校に入ってから3年が過ぎて…それでもう大学受験が目前で…
なんか…あっと言う間に時間が過ぎてったなぁ~
なんでかな?
疑問に思ったことを流香にそのまま聞いてみた
「何でだろ?高校に入ってまたみんなで合唱部やってたからかな?」
「そうね~色々あったけど楽しかったもんね~だからじゃない?」
流香は斜め上を見ながら私にそう言った。
なるほど…
「そっか~~、でも私達も今年の文化祭でお終いか~」
流香の言葉に納得し、ありのまま流香に言った。
2年前の文化祭は…当日にガク君のお母さんが病気で倒れたから、ガク君が
遅れて来て、ちょうど合唱部の歌を聴くことができなかったっけ…
流香もガク君からメールの返事が来ないせいで不安になっちゃって…
そんで出番が終わって電話して、ようやくガク君に会うことができても
20分ぐらいしか話すことができなかった…って流香…しょんぼりしてたな…
2年前の一般公開の日、流香と帰ったときのことを思い出していた。
そして溶けかけたアイスを舐めながら去年の文化祭を思い出した。
去年は前日にガク君が風邪をひいたせいで来れなくて…流香もずっと当日に
元気が無くて…みんながずっと心配してたな…
私以外は心配でも流香を直接はげましたりできないから…みんなで
悲しんじゃって…
せっかく頑張ったのに…今年もガク君来れなかった…ってみんなで帰るときに
優希が落ち込んで…優希がすごく落ち込んだからみんなに伝染っちゃって…
だから残念だね…と言っていたサキも何にも言わなくなって…
そんなふうに一昨年と去年、両方の文化祭で私達は流香が約束を、
ガク君に歌を聴いてもらう…たったそれだけのことを叶えられないことに
悲しくて……流香が心配で……みんなで落ち込んで…
悲しむ流香をどうにかしてあげたかったけど、何にもできなくて…
だから…だから……
ちょっと……悔しかった…
私としては珍しく、深い思考に沈み込んでいると
「そうだね…お終いだね…」
流香は私に沈んだ声で返事をするが、私の耳にはちゃんと届いてなかった。
「うん…だから今年こそはガク君に来てもらわないと…みんなが流香に…」
協力してる意味が…無いじゃない……
最後だけ小声で言うと聞き取れなかったのか、流香が
「うん?私に何?」
と聞いてきたので私は焦ってしまった。
しまった!言っちゃいけないのに私ってば!馬鹿か!?
なので手を振りながら
「あっ!なんでもない!なんでもない!」
誤魔化すが、流香が私に近づきながら
「え~?何よ?教えなさいよ?」
そう追求するので、流香から逃げるようにしながら
何か別の話題で…なにか…なにか…そうだ!
「なんでもないって!それよりもさ文化祭で私達は引退するじゃん!?
そのあとミクに合唱部を任せることになってるけど平気かな~?」
自分でも分かるぐらいの不自然さで強引に話題を変えた。
これでなんとか…いけるか?と内心は焦っていると
「何よ~?教えてくれてもいいじゃない…
う~ん、まぁ私達が辞めてミクに合唱部を任せても駄目だろうね…」
流香は不満な顔をしながらも、私の話に乗ってくれた。
その流香の言葉に私は少し驚いてしまったので
「駄目って?何で駄目なの?ミクに何か問題があるの?」
だって真面目に練習がんばってるし、何で?問題ないじゃん?
ミクには問題が無いと思ってる私に流香が
「違うわよ。問題があるのはミクじゃなくて私達よ。4月に言ったでしょ?」、
全く覚えが無いことを言ってきた
4月…なんのこっちゃ?
「あれ?そうだっけ?言った?」
聞き返す私に流香は少し呆れた顔をして
「忘れたの?ミクと同じ1年の子達が辞めてミクだけ残ったときに
話したじゃない?このままじゃ私達がいなくなってミクだけになったら
合唱部が無くなっちゃうからどうしよう?って。」
「あぁ~、そうだっけ?」
んな話したっけ?う~~ん…
「そうよ、私がどうしようって聞いたんじゃない。そしたらハナが
別にいいんじゃね?って言ったんじゃん。忘れたの?」
疑うような目をした流香に確認されるが
「えぇ?それ私が言ったの?ヒロとかじゃないの?」
まったく覚えてない…
「違うわよハナよ。それでみんな私達がいる間だけあればそれでいい。
って言って、私も辞めた2年の子達の噂とか知ってたから、私達が
いなくなった後に合唱部を復活させるのは無理だな~って…
みんながそう言うならじゃあいいやって言ったじゃん?」
みんながしたらしい発言にもちょっと驚いたけど、流香が知ってる噂とやらが
気になった。
「そうだっけ?え?つーか噂って何?」
私がまだ思い出さないせいか、それとも噂のことを聞いたせいか、呆れ顔して
「まだ思い出さないの?練習がキツ過ぎるからみんな辞めたんでしょ?
それを1年と今の2年の子達が色々言ってるのよ…
肉体改造するおかしい連中って…それのことよ」
流香が丁寧に教えてくれた。
「そうだったのか…」
今まで辞めてった部員の子達や、ミクが1人になった時、どんなに頑張っても
合唱部が復活しない理由を知って納得した。
そんな噂が流れてるなら確かに流香の言う通り、ミクが1人になっても
合唱部に入る子なんていないか…
納得してアイスを舐めてると話の続きを話してくれた
「それで、私達がいる間だけ合唱部があればいいってミクに言おっか?って
サキが言ったから…私が、言うとミクも多分辞めちゃう、それは寂しい、
ミクには合唱部にいてもらいたいって言ったら、みんなも…そうだねって」
言うとミクは多分辞めちゃう…ミクには合唱部にいてもらいたい…
その流香の言葉でようやく4月のことを思い出した。
「そうだったね…思い出した…ミクには内緒ねって…」
「そうよ。だから…」
だから…と言って流香はうつむいて黙り込んでしまった。
そんな流香を見ながら
だから…だから悪い気がしてるんだよね?
内緒にしていること…合唱部が私達の代で終わってもいいと思っているけど、
それをミクには言わないで、ミクを辞めさせないこと…
寂しいから…そんな理由でミクを辞めさせないようにしてること…
分かるよ流香…
もしかしたらミクは、合唱部を辞めたいと思ってるのかもしれない…
真面目に見えるけど、私達が厳しいから辞めたいと言えないだけかもしれない…
もしかしたら本当は違う部に行きたいのかもしれない…
私達のワガママで、そんな思いを台無しにしているのかも…
だから…だから流香が思ってるとおり
「うん…ミクには悪いことしたね…」
無理やり合唱部に入れて…ワガママでずっと残させて…
「ハナ?どうしたの?珍しいね?」
少し驚いた流香が私に聞いていたので
「ん?だって……いや、いいや…」
私が途中で言葉を飲み込んで、流香から目を逸すと
「何よ?さっきから変よ?」
「何でもないよ…それよりも今年はガク君来てくれるといいね?」
流香に追求されたが、笑顔で誤魔化すと
「あぁ…うん…」
何か言いたげな流香
「じゃあもう帰ろっか?」
立ち上がり、何か言いたげな流香にそう提案すると
「そうだね…帰ろっか」
流香も立ち上がった
だって…合唱部は流香とガク君の為にあるから…
だからミクには私達の勝手なワガママで残ってもらっているんだな…
それが私が飲み込んだ言葉だった。
初恋メロディー 過去巡り 外伝 花の祝福その6
過去巡りの花の祝福のその6です。
冬にアイス食べたくなりません?
こう…暖かい部屋で冷たいアイスを食べるのが幸せ…みたいな。
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