「は、はじめまして」
失礼とは思ったが、テトさんは初めて彼女を見たとき、ぼんやりと見つめてしまった。
「どうもぉ、はじめましてー」
とてものんびりとした調子で、彼女は会釈した。

駅前の、ドーナルコーヒーで、お昼過ぎのひととき。

テトさんの友人のマコさんが、「会わせたい人がいる」と連れてきた女性。
玩具やパズルのデザイナーだという彼女は、不思議な雰囲気だった。

「湯栗はいり(ゆくり・はいり)でぇす。どぞ、よろしくー」
ちょっとぶっきらぼうに、自己紹介する。
「テトです。こちらこそ、よろしく」
テトさんも笑顔で挨拶する。

●パズル作家の、つわ者登場

「私の入ってるニコビレで、隣の部屋に入居しているの」
マコさんは説明した。
ニコビレとは、新進デザイナーを支援する施設だ。マコさんなど、いろんなクリエイターが事務所を構えている。

「ゆくりさんは、ニコビレに入る前には、スタジオ・ザブリに勤めてたの」
マコさんが説明する。
「あぁ、アニメで有名なスタジオ・ザブリに?」
テトさんは目を見開いた。

「じゃ、キャラクターとかアニメ作品に、お詳しいんでしょう」
「ふふ、そうですねー。詳しいのかなー、うん、詳しいかもですねー」
ゆくりさんは、にこやかに答えた。

「ほら、テトさんがこの前、“キャラクター商品の仕事にも興味がある”って言ってたでしょ」
マコさんの言葉に、テトさんはうなずく。

ゆくりさんは言う。
「私も、雑貨の商品のこと、いろいろ知りたいなあと思ってます」
「まあ、じゃ、もし一緒にお仕事ができたら、楽しいですね!」
彼女さんとテトさんは、顔を見合わせてにっこりと笑った。


●私なんて、まだまだですよ!

ドーナルコーヒーでマコさんと別れ、テトさんはゆくりさんとともに、自分の店「つんでれ」に来た。

(ウン、ちょっと変わった人だな...)
テトさんの横に立った彼女を見て、お店のルコ坊は思った。

ちょうど店のスタジオでは、モモちゃんの写真の作品の展示会を開いている。

「まーあ、素敵な作品ね。みとれちゃうわ」
ゆくりさんは、ゆっくりした声で、のんびりと言う。

「パズル作家でいらっしゃるの?この方」
モモちゃんがテトさんに聞く。
「ええ、キャラクターやアニメに、詳しいそうよ」
テトさんが答える。
「へえ、そうなんだ。」
ルコ坊が言った。ルコ坊もアニメが好きだからだ。

「あらー、詳しいだなんてー。私なんてー、まだまだですよー。アッ。そういえば!」
無表情でしゃべっていたゆくりさんが、とつぜん大きな声をあげたので、みんなびっくりした。

「“アルプスの少女ハイジ”のエンディングの曲、やっと思い出したわー」
彼女は、満面に笑みをたたえて言う。
「このヤギの写真を見てたら、思い出したわ。この数日、ずっと気になってたんです。
♪もしも、ちいさな、小屋の戸が、あいた~ら」

とつぜん、歌い出したゆくりさん。
唖然としてみんなは見つめた。
テトさんとルコ坊は、偶然、同じ言葉をつぶやいた。

「どうぞ、ゆっくりなさっていってね...」「(´へ`;

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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玩具屋カイくんの販売日誌 (91) ゆっくりしていってね!

手作り雑貨の仕事と、キャラクタービジネス。本来、違う雰囲気ですが、不思議と「合う」組み合わせもあるようですよ。

閲覧数:91

投稿日:2011/02/12 13:44:39

文字数:1,293文字

カテゴリ:小説

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