近未来的な装飾の成された薄暗い部屋の中に、円卓を囲む十数人の人影があった。
ケータイをいじったり、隣と話し込んだりと、皆一見思い思いに過ごしているように見えるが、その中には確かに緊張した空気が漂っていた。

「……さて」

俺の右隣の黒髪ツインテールの少女、雑音ミクが発した一声に敏感に反応し、皆が静まり返る。注目が集まったのを確認し、雑音はゆっくりとその口を開いた。

「今日は忙しい中、みんな集まってくれてありがとう……なんて、長ったらしい前口上は面倒だし飛ばすわね。ではこれから、我らが悪の組織《BINZOKO》の第1回作戦会議を行うわ。シグ宜しく」

「ああ」

雑音の指示を受け、俺は手元のスイッチを押す。すると、円卓の中心に、白衣を纏い分厚いメガネをかけた男の姿が映し出された。びんぞこだ。奴は手元のマンガに夢中になっているようで、映されている事に気づいていない。

『うおっ、ここでその展開持ってくるか……流石は東野さんだな……』

「総帥?」

『待って今いいとこ……ってあれ?何?もう始まってんの?』

雑音の呼びかけで漸くこちらに気づく総帥。慌てて体勢を整え偉そうに咳払いをするが、若干の手遅れ感が否めない。

『えー、私がこの秘密結社の首領にして科学者、Dr.Mだ。総帥と呼びたまえ。さて、今回諸君らに集まって貰った理由は他でもない、初音ミク量産化祭3日前である今日から行う大規模作戦、その第一段階についてだ。まずはこれを見てくれ』

びんぞこの発言に合わせ俺がボタンを押すと、びんぞこの姿が消え、新たにピアプロのセントラルビルが映し出される。

『今回の目的は、ここからとある物品を盗み出して貰う事だ』

それを聞き、円卓が急にざわめく。その中の一人が発言をすべく立ち上がった。赤髪青眼で、服装は、白い全部袖にジーパン、両耳の所に半球状の何かが付いている。検索……凱瑠クロアか。

『どうしたのかね?凱瑠クロア君』

「これってさ、結構ヤバい事なんじゃねーの?」

どこか真剣味に欠ける声で聞くクロアの一言に、びんぞこは当然だとばかりに頷く。

「ヤバいも何も、正真正銘の犯罪に決まっているだろう。悪の組織がなぜ法律などに従わねばならん」

「うお、マジか……」

びんぞこがはっきりと言い切ったのに呼応し、より一層ざわめきが大きさを増す。それはそうだろう、殆どの奴はここがガチもんの悪の組織などと真に受けてはいなかっただろうから。
ここに来て漸く真実に気づいたクロアは、暫し呆気にとられた後、表情をニヤリと笑みの形に変えた。

「面白くなってきたじゃんか……!」

「はあ!?」

思わずズッコケる俺。周りを見渡してみても「すごい!本物の悪の組織って本当にあったんだ!で、あたしその団員?すごい!!」とかそんなような事を言ってるような奴らばかりだ。
なんだこいつらは……ここは普通クロアが「ふざけんな!そんなのやってられっか!!」とか叫んでそれに呼応した皆さんが暴動とか起こすシチュエーションの筈だろう……?
歓迎会の時といい、亜種ボカロ達の思考回路はおかしいんじゃないかとしか思えない。え?なにこれ?むしろ俺が異常なの?

「だ、大丈夫?」

真剣に自分の思考の正誤を確かめ始めかけた俺に、左隣に座っていた白髪赤眼ポニーテールのボカロ、我が女神弱音ハクさんが心配そうに声をかけた。

「い、いえ、気にしないでください……ところでハクさんは何か思わないんですか?」

「え?、ああ、本物の悪の組織が実在するなんて思わなかったよ。……となると、あの時シグ君は本当の事を言ってたんだよね……あの時、嘘ついてるみたいな言い方しちゃってごめんね」

俺にすまなそうに頭を下げるハクさん。これから犯罪の片棒を担がされる事になるのをさして問題視していないあたり、明らかに心理操作がされていそうだが……もうハクさんの仕草があまりに可愛かったからもうどうでもいいや。

『……という形になる。では手元に配ったリスト通りにそれぞれの班に分かれ、各テーブルで待機していてくれ。詳しい説明は後で雑音君の方から伝える。では……おーい、シグ君?』

「ん?ああ、はいはい」

びんぞこの言葉で我に帰り、俺はまた手元のスイッチを押す。すると今度は円卓が引っ込み、3~4人くらいで囲む感じのテーブルがいくつか出てきた。相変わらず無駄に技術力が高い。丸椅子の方はもって移動しなきゃ行けないっぽいのがなんだかむなしいが。

『では、諸君の健闘を祈る。さらばだ』

言い残しびんぞこの立体映像が消えると、皆一斉に移動を始める。俺も移動しようとすると、ハクさんがおずおずと話しかけて来た。

「シグ君、一緒の班みたいだね」

「あ、本当ですね……」

「実行A班か……私大丈夫かなぁ……」

リストを確認すれば、確かに俺とハクさんの名は同じ所に書かれていた。もう一人名前があったがそんな奴のことはどうでもいい。びんぞこもニクい事をしてくれるぜ……!

「大丈夫です!何かあっても俺が全身全霊をもって守るんで!!ハクさんには指一本触れさせません!!」

「なに言ってやがんだテメエは」

俺が最高に爽やかな笑顔で親指を立てた所に、いきなり横槍が入った。俺が「ああ?このクソヤロウ何やってくれとんじゃゴラァ!?」という表情で振り返ると、そこには白髪赤眼の、ハクさんによく似た見た目のボカロが立っていた。

「デル……」

本音デル。ハクさんと同じ出身のボカロだが、性格は天と地程の差がある。勿論圧倒的にハクさんの方が性格はいい。俺は、室内なのにタバコをくわえているそいつのいけ好かない顔を睨みつけた。

「何言ってるかだと?例え我が身を犠牲にしようとハクさんを守るって言ってるに決まってるだろうが。そんな事も理解できないのか?」

「は、何が守るだ?そもそもこんな怪しげなカルト集団にコイツを巻き込んだ張本人が何言ってやがる」

「デル!私は自分から……」

「お前は黙ってろ!」

弁護に入ろうとしたハクさんは、デルの怒鳴り声に「うう……」と縮こまってしまった。ハクさんにあんな物言いをしやがって……

「最初から怪しいとは思ってたが、やっぱりろくでもない集まりだったじゃねえか!来い!!」

「デ、デル……止めてよ……!」

デルはがしりとハクの腕を掴み、強引に出口へと連れて行こうとする。当然俺は止めに入った。

「おい!ハクさん嫌がってるだろうが!!」

「うるせえ!こんなバカ共の巣窟なんざさっさとおさらばだ!!」

「あら?残念だけどそれはできないわよ?」

俺やハクさんの制止も聞かずに進む彼の前に、笑みを浮かべた雑音が立ちはだかった。
そのあまりに不敵な物言いに、思わずデルも足を止める。

「どういう意味だ!?」

「だから、一度入団した以上は、如何なる理由をもってしてもこの組織を辞める事はできないって言ってるのよ。何せここは悪の組織なんだからね?」

「知るか!そこをどけ!!」

すると雑音はあっさりと身を引いた。デルはその先のドアにつかみかかったが、開かない。

「ちくしょう!開きやがれこの野郎!!」

「無理よ。構造上、ここからは絶対に出られない。これがない限りね」

そう言って雑音はポケットから取り出した黒色のカードを見せびらかした。

「よこせ!」

「嫌よ」

デルが雑音からカードを奪おうとした瞬間、雑音が指をパチンと鳴らす。すると、デルの動きが突然止まった。まるでテレビを一時停止しているかのような不自然さだ。

「ど、どうなってやがる……?」

「簡単な話、君の情報伝達システムの一部にジャミングをかけたのよ」

困惑の色を浮かべるデルに、雑音は事も無げに種明かしを始めた。

「実はね、ここに入った段階で、この場にいる全てのボカロのシステムにはジャミングがかけられる状態になっているのよ。イレギュラーな動きを強制的に制止出来るようにね」

「ふざけんな!そんなの犯罪じゃねえか!!」

「当然よ。ここを何処だと思っているの?」

少しでも体を動かそうと無駄な努力を続けるデルを見て、雑音は黒い笑みを浮かべた。

「本当、お前悪役似合うよな……」

「あら、褒めてくれるの?うれしー☆」

「……」

もはや俺ですら黙るしかない。

「あの、雑音ちゃん、そろそろデルを自由にしてあげたら……」

「優しいわねーハクは。いいわよーん」

ハクさんの申し出をあっさり聞き入れ、雑音は再び指を鳴らす。
すると、デルの体は糸が切れたようにがくんと落ちた。

「どう?これで理解出来たかしら?私達には逆らえないって」

「……ああ!よーく分かったよちくしょうめ!!」

自由を取り戻したデルは吐き捨てるように言った。もうさっきのように暴走する様子はない。

「理解が早くて宜しい♪」

「だが!どうしても一つ、気に入らない事がある……!」

「何かしら?」

そう言うと、奴は俺に指を突きつけ、言った。

「ハクをコイツには任せられねえ」

「ああ?まだ俺が信用出来ねえってのか!」

「当然だ!それどころか余計不安になったわこの口先八丁野郎!!女みてえな三つ編みしやがって!切れ!!」

「んだとお!?お前こそその汚らしい白髪頭剃り上げて来いやこのニコチン中毒患者が!!」

「あーもう、落ち着きなさい二人がハク大好きなのはよく分かったから」

掴み合いになりかけたのを見た雑音が指をならす。今度は俺の体も動かなくなった。う……こりゃ確かに気持ち悪い。
再び動きを止められたデルは、何故か雑音に喰ってかかった。

「ああ!?誰がいつこんなウジウジ女のこと好きなんて言った!?こんな奴大嫌いに決まってんだろうが!!」

「うう……ウジウジしててごめんなさい……」

デルの抗議の声にしゅんとするハクさん。俺がそれを見過ごせる訳もない。

「なに言ってんだ、それはハクさんの魅力の一つだろうが!?なんで理解できねえんだ!!」

「わからねえよ!!わかりたくもねえよ!!」

「ああああ!!!!もういい加減にしなさあああああああい!!!!!!」

すぱーん!
キレた雑音が、どこからともなく取り出した黒色のネギで俺とデルの頭を思いっきりすっぱ抜いた。

「ぐおおおおう……!」

うめく俺とデル。なんだこれ、超いてえ……ネギのくせに……

「そんなに嫌ならデルとハクのポジション交換してやるわよ!!これで文句ないでしょ!!!!」

「最悪じゃねえかああああああ!!」

「うるさい!もう一回ぶったたくわよ!!」

「ぐ、ぐう……」

(なんで、こいつなんかと……!)

キレた雑音のあまりの迫力に逆らえず、俺とデルはしぶしぶ実行A班のテーブルに向かったのだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説【とある科学者の陰謀】第八話~悪の組織、始動~その一

お待たせしました、第八話前半です!

この度、数人の方々から自作亜種の使用許可が出た為、次第に出して行きたいと思います!
でも前半はデルとの絡みを書きたかったので此花ヴァンニーさんの凱瑠クロア君(http://piapro.jp/t/CU-k)のみのご登場になります!ヴァンニーさんありがとうございます、他の方々すみません!ってかヴァンニーさんもすみません殆ど活躍してません!!
後半ではもっと出します!!

遂に動き始めた悪の組織……そして現れたシグのライバル。
さあ、後半はピアプロセントラルビル突入だ!

閲覧数:563

投稿日:2011/06/06 23:35:15

文字数:4,438文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 絢那@受験ですのであんまいない

    くんかくんか…デルハクの香りあり!?
    うじうじ女だと! そこがまた可愛いんじゃないか、分からないのかこの!

    身体を制御できるっていいですね。厨二な私は憧れます←

    ていうか私の『BINZOKO』採用されちゃった感じですか!? うわあ恐縮です…
    このネーミングセンスのない名前でこの組織がやっていけるのか! 次号どうなる!

    2011/06/07 20:49:56

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      周りから見れば明らかにそれっぽいですがデル本人に聞いても全否定されます←
      彼曰く「わかりたくもない」そうで←

      びんぞこが厨二なので、そういう類の仕掛けは色々あるっぽいですよ?←

      採用されました!おめでとう!!←
      ネーミングセンスがなくとも組織は動く!!←

      2011/06/07 23:35:11

  • オレアリア

    オレアリア

    ご意見・ご感想

    瓶底眼鏡さん今日は!初メッセージ失礼します!


    陰謀シリーズ、第一話から第八話まで全て読まさせて頂きました!
    やばい…僕もツボりましたww
    シグと黒ミク、そしてガチムチ店長好きだぁぁぁ!!


    ついにびんぞこの野望が本格的に胎動していくのですね…!
    デルの登場でこれは激闘の予感!wkwk…

    2011/06/07 13:58:41

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      こんにちは!メッセージありがとうございます!

      わざわざありがとうございます!
      それはよかったです!
      まさかの店長コールwww彼はちゃんと再登場しますので楽しみにしていて下さい!!

      はい、ついに彼の本当の目的があきらかになったりならなかったり!←
      デルはこれから物語に絡んでゆく予定ですよ!!

      2011/06/07 16:26:15

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