――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――#9

 だが、どこから、誰が来る?

 グレートコードの影響で思考が鈍くなったテトは、苛立ち紛れに雑に頭を掻く。

 Fool ON NowHere、ルーラーが『愚者』のグレートコード。攻撃力は高めで白兵戦に向くがテトとの相性はよくない。使う前の自分がなんとなく決闘の流れだとか、そんな理由で使ったのは覚えているが、なぜ「VOCALOID」が4人いる場所で自分がそう考えたのか、思い出せはしても理解できない。なんというか、ものすごいストレスだ。

 HATUNEMIKU――――――――――じゃあ、私が市の警備しに行こうか。皆忙しそうだし。
 AKITANERU――――――――――あ。忘れてた。
 YOWANEHAKU――――――――――お願いします。重音テトはこちらで対応します。

 それきり"声"は途絶える。そう、思い出した。かかってくるのは弱音ハクだ。なんとなく難しい理屈でテトがそう考えた記憶がある。初音ミクよりはマシで、厄介な奴だ。

 別に誰でもいい気がしてきた。倒せばいいのだから。

 「手を上げろ!そのままうごくな!」

 めんどくさいので、つい。

 ――――――――――おとようててきを

 「うぉっ!?」

 ――――――――――かぜよながれこめ

 「しまった、逃げろ!」

 ――――――――――ほのおよたすけろ

 テトを火柱が飲み込む。

 ――――――――――たたかいをかさねて しょうりをかさねて とりはとびたつ かぜにかさねて

 そのショートエコーが響いた瞬間、エルメルト基地のいくつかある事務棟の一つが、窓から火を噴いた。炎は爆音を伴ってエルメルト全域に轟いた。

 鏡音レンは驚いたが、コクピットに無理やり乗っかってきた亞北ネルも驚いた。

 「すげえ!重音テトともなるとやる事すげえ!」
 「え、何がですか?」
 「グレートコードだよ!あいつが使ったコード、やべえんだ!」
 「はあ」
 「Fool ON NowHere、ルーラーは『愚者』!これで意味分かんなかったらちょっとお前向いてないな!」
 「ルーラーとかって言葉も教えてもらってませんよ」
 「そっか!あいつ頭の良さで勝負すんの諦めてバトルする気だ!」
 「はあ」
 「もういい!ハクが出る!通信機貸せ!」
 「あ、これ」
 「亞北ネルから全体へ!攻響戦になる!第一種厳戒態勢を発令!市にも通知だ!急げ以上!」

 ネルは通信機のマイクをレンに放り投げながら、睨み付けて早口に言った。

 「グレートコードを使うと、ルーラーで行動パターンが決まってくる。『愚者』を使うと後先考えずに本気出して、『女帝』だと対応が後手になる。『星』だと戦闘能力が全般的に下がって、『戦車』はブレーキが利かない。そして『魔術師』は器用貧乏で何の個性も無い」

 レンは相槌を付かずに、少し考えて返事した。

 「じゃあ、『戦車』と『魔術師』ですね」
 「まあまあだな。だが、バカ相手に乗り物ぶつけてもバカが核兵器を持ってたらおしまいだ。その核兵器が重音テトだ」
 「えっと、グレートコードって」
 「使う本人よりグレートでやばいからグレートコードだ。良く覚えとけ」

 つまり。って、どういう事だ?

 「本気の攻響兵戦闘だ。素人が操る『戦車』は役に立たないから、今日の所は私のタクシーになってもらう。そして『魔術師』さんが戦う様子は気にしておけ。戦訓として検討するから、何が起こったか良く頭に叩き込んどけよお前」

 つまり。重音テト対弱音ハクという事だ。えっと。

 「とりあえずお前は私の指示する方向に動かせ。私がオペレーターでお前はパイロットだ。こんなに頼もしいオペレーターはそういないから、訓練の積もりで気楽にやれよ鏡音大佐」
 「了解」
 「じゃあ、あの気配駄々漏れのバカの居場所を常に銃口向けながら陽攻だ。流石に意味は分かるな?」
 「はい。流石に」
 「マイク貸して。ミクとハクが出たら私が指揮しないとダメだわ」
 「ですよね」

 ――――――――――よるのおとにきけ そらはいつかしらむけど たそかれととうて こたえぬかぜの さみしさよ にがよもぎいて かわをやけ しろくかがやけ ぎんをちりばめ よるのとばりに

 「あ。この訳わかんなさ本気だ」
 「眠いんですかね」
 「そういう事だレンきゅん大佐。あいつやけに偏ってるなって思った」

 ネルは、ハクがアルコール切れに最大で24時間は耐えられない事を知っていた。元がかなり神経質な完璧主義者なので、宿命的にストレス耐性が低いのだと思ってる。忘れていたが、あいつは本当はかなり質が悪いのだ。

 「私らちょっと忙しいぞ。覚悟しとけ」
 「イエッサー亞北准将」

 その時、指令所が入ってた建物の近くから、光の柱が輝いた。

 「大佐、7時方向の高所に移動。あと、直感で思うほうに常に正面を維持しろ」
 「了解」

 レンがLat式を動かす間に、ネルは通信機から色々と指示を出す。モニターに再度爆炎が上がるのを見た。

 「激突だな。場所はここで良い。私が指示するまで動かすなよ」
 「了解」

 ――――――――――このこぶし にぎってけりを つけようか
 ――――――――――にぎったじゅうで かえりうちです

 すごく頭の悪い啖呵の切り合いが聞こえた気がした。長い夜になりそうだった。

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  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」 3章#9

敵軍の重音テトが下した決断とは!?戦場にて何を思う……

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投稿日:2013/01/17 23:55:42

文字数:2,267文字

カテゴリ:小説

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