☆*゜・。
桁外れのスピードを出して、海翔が走る。屋根から屋根へ、屋根から電柱へ、電柱から今度は木々の枝へと飛び移り、学園へと急いだ。学園の校舎が見え始めるとさらに足を速め、行儀などお構いなしに部室の窓を見つけると開きっぱなしの窓から中へと飛び込んだ。しかし、その場にあったのは部員で作った学園祭の装飾品と、怜のリュックが椅子の背もたれにかけられていただけだった。装飾品が風で飛んでいたが、荒らされたというわけではなさそうだ。怜の姿は見当たらない。携帯のメールを確認してみたが、家にいる二人からの報告がない辺りを見ると、怜は家にも帰っていないらしい。それにリュックを置いて帰るということもないだろうし、片付けておくといったものをそのままにして帰ってしまうほど怜は無責任な奴ではないことくらい、海翔には分かっていた。
「…まさか…ね…」
背中に嫌な汗がつうと流れていった。
と、そこに見覚えのある女性が扉を開けて入ってきた。
「あら、海翔。まだ帰っていなかったの?…どうしたの、怖い顔して」
「めーちゃん!」
薄暗い廊下を、芽衣斗は素早く進む。
廊下の天井に吊り下げられたシャンデリアはとても淡い光を発するのみで、高原としての役割を果たしてはいない。ぼうっとした暗い廊下を灰色の小さなネズミが走っていったが、芽衣斗はお構いなしに廊下の先へと急ぐ。廊下の先には薄汚れて元々の美しかったのであろう装飾も分からなくなった、大きな扉があった。
深呼吸をして扉を開く。
中にいた三人が扉のほうへと眼をやり、飛びぬけて長身の女性が眉間にしわを寄せて椅子に座ったままの少女へ耳打ちをした。しかし少女はそれを鼻で笑って芽衣斗へ左手で指を刺して、また笑った。少女は黒いツインテールと赤い眼、すこし露出の多い服に赤で縁取られたミニスカート、赤いネクタイという不思議な服装だった。
無言で芽衣斗は跪(ひざまず)いて左手のこぶしを埃だらけの床へとつけた。
「あら、何かしら?別に呼んだ覚えはないけれど」
「…約束と違う」
「ああ、計画が早まったの。ごめんなさいね。知らせるのを忘れていたわ!」
その言葉に床につけていた拳に強い力がはいった。一昨日切ったばかりのはずの爪が、手のひらに食い込んで、それから何となく生暖かいものが手のひらを伝っていった。
「こっちにだって都合があるのに、勝手に――」
するとそばで話を聞いていた長身の女性が、口を出してきた。
「そんなことを言っていられる立場なのか?お前は」
「…しかし…」
どう反論したものかと少し口ごもった芽衣斗に、椅子の後ろから顔を出した童顔の少女とも女性ともつかぬような美しい光沢のある赤毛の女が、言った。
「僕はどうでもいいけど。…代わりに、“あいつ等”は消えると思ったほうがいい」
「…卑怯者…」
「クス…何か言った?聞こえないわ。用がないなら下がって頂戴」
そういわれ、仕方なく扉を後ろ手に閉めた芽衣斗は左手のひらを見た。そこからはドクドクと血が流れ出し、シルバーの指輪が赤黒く染まりかけ、指輪の宝石部分を避けるように赤黒い血が床に滴り落ちていた。
「…クソアマ共が…」
今までのことを海翔から聞いた芽衣子は絶句した。自分がいない間にそんなことになっていたとは、思いもしないだろう。
「それで、怜の携帯は?」
「バッグから見つかったから、怜自身がこっちに連絡を取るのは無理…」
「どうしよう…どうしよう…どうしよう…ねえ!どうしよう!怜が!いや…いや…いやいやいやいやぁぁぁぁ!!!」
狂ったように頭を抱えて鈴は叫ぶ。仲間たちが落ち着かせようとして近づくと、何かにおびえて逃げ出して部屋の隅で小さくなっていた。
皆が無言になっている中で口を開いたのは、部長である流香だった。
「ここでこうしていても仕方ないですわ。地図の場所までいってやろうじゃありませんか。こんな場合は行動あるのみですわ」
「…そうね、確かに。けれど、罠かもしれないわ。特に鈴なんかは力のコントロールもできないし、混乱しているから何かあったらひとたまりもない」
「けど、流香の言うとおりだよ。行ってみよう」
流石はこの世界に来て長いだけあってか、三人とも落ち着いていたがまだ生まれて間もない鈴と未来は落ち着かず、怯えたように震えていた。
「鈴、未来、行くわよ。それとも、二人はここに残る?」
「――いやっ!私、いく!怜は、私が助けるの」
「…私も、いく。私も仲間だもの」
五人は小さく微笑みあって頷くと、家のドアを開いて颯爽と走り出した。
「…分かった?」
「イマイチ」
「だから…」
豪華な寝室でイタチごっこを繰り返すのは、怜と流騎の二人だった。身振り手振りで説明しようとする流騎を、不思議そうに怜が何度も何度も聞いては質問し、聞いては質問していた。
「つーまーりー…僕は、貴方たちに協力しなくてはいけないんですか?」
「…ま、そういうこと。強制はしないけど、お前が協力してくれると俺やお前の仲間が助かる」
「…脅迫、ですか?」
「…いや…」
思いのほか鋭い怜の質問に、流騎がどう答えたものかと少し考えていると、後ろの扉が開き、来緒がはいってきた。
「どうだ?流騎」
「…無理。思いのほか手強い…」
「ふぅん…。おい、お前は俺たちに協力するというよりは、双子の姉を助けるんだ。こういったら、どうだよ?」
「…どういうこと…ですか?」
食いついてきた怜にしてやったりといった表情で、来緒がしゃがみこんで密かに進んでいた計画の一部を話し出した。
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ご意見・ご感想
リオン
その他
みずたまりさん
怜が協力しないと何かが起きます!?(←え
鈴は心配で発狂し始めます。仲良しですよ。一応同じ星座から生まれましたしね!
ごめんなさい、投稿はお休みになるかと思うんですが、今までにも増してよい物語作りに励みますので><
楽しみが減るだなんて、私のだけでそんな…ありがたやありがたや…(拝んでおけ)
アリガトウございます!!がんばりますよ!!
2009/07/27 22:36:03