-謎-
「嘘…だよな…?」
もう一度、そう繰り返した。けれど、カイトは頷かなかった。
その場にいた全員の視線を浴び、どうしたらいいのかわからず呆然とするレンから、カイトはそっと目をそらした。その行動は、嘘ではないことを表していた。
その空気に耐えかねたようにルカがその場を離れ、携帯電話を取り出した。発信した先は、勿論館で連絡を待つメイコへと報告をするために固定電話に電話をかけた。と、いうのも、メイコは携帯電話を持ち合わせていない。面倒だからとか時間がないからとか、何かと理由をこじつけては携帯を買おうとしないのだ。
「――もしもし、主?」
そういってルカは自分の主が出たはずの電話に向かって話しかけた。
館の中、リンの部屋でリンを見ていたメイコの耳に、固定電話の楽しげな着信音が聞こえ、メイコは部屋を出た。その音に、リンもうっすらと目をあけた。
メイコが話している声が、部屋の中までもれて聞こえてきて、何を話しているか、大体は把握できる。
「――ええ、ええ。ルカ、それで、レンはどうしてこっちに来られないのかしら?リンが心配して大変なのよ」
流石に離している相手の声は聞こえないが、メイコが話しているだけで何となくわかるくらいだ。
しばらく間があって、メイコが驚いたように声を上げたのを、リンは聞き逃さなかった。
「病気?どんな。…移植が必要?…大変ね。明日にでもこっちに来るといいわ。そのときにリンにも説明して…そう。カイトたちも連れてきて」
今、メイコは何といったのだろうか。
病気?レンがか。移植が必要、どこを移植するのか、移植させてくれるドナーがあるのか、あとどれくらいもつのだろうか。そんなこと、わからないのではないか。ならば、自分で確かめるしかないのだろう。
意を決し、リンは窓を開け放つとそこから下の草薮に飛び込んだ。
「レオン、どこ…っ」
火が消えても尚見つからないレオンを、ミリアムはまだ探し続けていた。
そのとき、頭上の木ががさがさと揺れて声が振ってきた。
「ミリアム、こっち」
「レオン。何をしているの?」
「ちょっと。…上ってこれる?」
そういうとミリアムの手をつかんで上に引き上げ、青々と茂る葉の中へとミリアムを引き込んだ。その中はまるで自然な傘のようで、いくつかの傷が幹に刻まれていた。
「これ、自然にできた傷じゃないよね」
「そうね。でも、この館にはこんな木に登れるような人はいないと思ったけれど」
「そうだよね。…誰かがなんかかんかの仕掛けで火をつけたんだ」
「レオン…貴方がつけたんじゃないの?」
「濡れ衣!!俺はただ…監視?」
「精神科行きましょ。しばらく入院してきましょ」
館の前に、メイコとリンを覗く、ほぼ全員がそろった。
とりあえずミリアムがレオンの言い分を話し、信用をしてもらえないながらもどうにか濡れ衣だということだけは納得させた。仕方なく、皆は一晩、館に止まることになった。
「あ、まだ、あっちにローラが一人だわ。ローラを呼んできます。えーと…レオンを一人にしないでください。危険ですから」
「それはどういう…」
「やあ、レン♪」
「よお。早速だが近づくな」
黒いレンの靴が、レオンの顔にめり込んだ。
その光景を見て、全員がミリアムの言葉の真意を理解し、呆れたため息と少しの笑い声を上げた。やっとレンも対処法を覚えたようだ。
そうして安全であることを見届けると、ミリアムは自分たちの家へと急いだ。
なれない魔法を使い、リンはレンたちのすむ館へと向かっていた。
しばらくして、館が見え始めるとリンは急降下し、館の前へと降り立った。勿論その場にいた全員が驚いてリンを見て、ルカはどうしたのかと母親のように聞いてきて、レンはなんでリンがいるのか分からず、呆然としているだけだった。
「り、リン?どうしたんだよ?こんな時間だぞ?」
「母さんが電話しているのを聞いて…っ!レンが、病気だっていうから」
「あ…」
「そのことについてだけど」
困ってしまったレンにかわるように、カイトが話を続けた。
「昔にも一度レンは発症しているんだけど、そのときは肺、今回は腎。再発というか、転移、といったほうがいいかな」
「じゃあ、腎を移植するの?」
「そうだね。けど、誰かが犠牲にならなければいけないわけじゃない。腎は人の体の中に二つあって、一つだけでも生きていける。だから、誰かが腎を一つ提供するだけで、死者を出さずにすむ」
そういったカイトの目に映っていたのは、リン、レン、ランの三人の顔だった。
しばらくしてルカからもう一度電話がかかってきた。
こちらにリンがいるので心配しないように、ということだ。
胸をなでおろし、メイコは明日こちらに来るように言っておいてから、自分の部屋へと戻っていった。既に睡魔は何度も何度も襲ってきていた。
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