涙声で飛びついて来た友達、桜華しふぉんとは同じ家庭科部の友達だ。おっとりしてて可愛くて…でも大人しいもんだから直ぐナンパとか痴漢とか、一度誘拐されそうになった事もある。
「しふぉんにまで何したんですか?!」
「人聞き悪いな、君と同じだよ。佐藤女史から何も聞いてない?新作ゲームのデータモデルだって。」
正直あのキラキラ目のパンフレットを見せられてからこの女性の話は殆ど右から左に流していた。少し迷ったけど、話を聞いてなかったのは私の落ち度よね…。
「…すみません。話あまり聞いてませんでした…。」
そう言って私が頭を下げると、目の前にふっと影が落ちて大きな手がくしゃくしゃ私の頭を撫でた。顔を上げると銀の様な緑の様な、不思議な色の髪が目に飛び込んで来た。その色に思わず一歩後ずさると同時にエレベーターの扉が開いた。乗り込んだエレベーターは外が見える形の物で、すっかり暗くなった外には夜景が光っていた。
「綺麗~、ね、ひお、見て見て。」
「本当だ…綺麗…。」
横を見るとその人はもう手にしたファイルか何かをパラパラと眺めていた。私は何が書いてるのか解らず頭の中に『?』が一杯浮かんでいた。さっきはびっくりしたけど改めて見直すと凄い髪の色。緑っぽい銀色と言うか宝石みたいな色。…ウィッグかな?
「痛っ…?!えっ…?!」
「あ…す、すいません!」
ついつい好奇心で引っ張ってみたけどヅラじゃなかったみたい…染めてるのかぁ…。と、エレベータが音と共に止まってゆっくり扉が開いた。皆に続いて出ようとすると髪にツンと引っ張られる感覚があった。何かに引っかかったのかな?
「え…?」
振り向いた時
「無防備だね。」
今にも触れそうな距離で
「それと無自覚。」
獲物を見付けた獣みたいな目で
「…楽しみ…。」
彼は絡み取った私の髪に口付けた。
「ひーおー?」
「い…今行く!」
私は大声で返事をして、大袈裟に振り払って、混乱した頭をリセットするみたいに走った。
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「あ、うん!明日ね!おやすみ。」
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