散々な一日だった。叔父である志揮兄が事故に遭うし、初対面の女には殴られるし、おまけに訳の解らないゲームのテストに半年間も巻き込まれるし、厄日としか思えなかった。まぁ報酬くれるって言ってたし、せいぜい志揮兄のお見舞いにでも使わせて貰えば良いか。
「帰るか…。」
立ち寄ったコンビ二でもいまいちスッキリせず、適当な飲み物だけ買って家路に付いていた。そして少し暗い路地に差し掛かった時だった。
「…い!おいっ…?!待て!」
二人分の足音と、少し怒鳴る様な男の声。痴話喧嘩って解釈するには少々穏やかじゃない。見失わない様に、見付からない様に後を追うと、公園の手前でその影が止まった。
「おい!待てって!急にどうした?!」
「や…!嫌!嫌っ!…侑俐さん!」
「侑俐…?」
俺は声の主達に少し驚いていた。さっきまで見ていた金色の髪とシルバーグリーンの髪。あんな目立つ奴等早々忘れないし見間違えもしない。けど、明らかに女の様子がおかしかった。俺を殴ったり説明する女に突っ掛かってた時の気の強さなんて微塵も感じなくて、子犬みたいにブルブル震えて泣きながら電話をしていた。
「侑俐さん…侑俐さん…!」
怯え切って泣きじゃくる姿を見ていられなくて、もう少しで飛び出して行きそうになった。と、落ち着き払った声が聞こえた。
「響侑俐さん…ですね?『∞』企画でお伺いした輝詞です。」
「え…?」
泣き止んだ女は淡々とした会話をボーッとした顔で聞いていた。何を話しているのかはよく聞こえなかったが、少しすると男が電話を返すのが見えた。少し落ち着いたのか、呼び掛けに頷いてる。やがて促される様に公園のベンチに頼りなさ気に座った。出て行く訳にもいかず、かと言って立ち去るには少し気が引けて、物音を立てない様に様子を伺っていた。10分位経っただろうか、公園にそぐわない車が一台止まったかと思うと、長身の男が下りて来た。
「…緋織…?緋織!」
少し控えた声に吸い寄せられるみたいにふらふらと金色の髪が揺れた。
「侑俐さん…。」
街灯に照らされ薄っすら光る髪と、まだ少し涙が滲む顔と、やっとで掴んだであろう手は未だ微かに震えていた。
「ごめんなさい…。」
その姿に言い知れない想いが騒いだ。あの女があの顔で俺を見たら一体どれだけ良い気分だろう…って。
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