「……この初音ミクって、ミク先輩のことか……?」
初音ミクはゲキド中学校の卒業生だ。卒業とほぼ同時にデビューし、今は高校に通いながら歌手として活動している。学年はリンとレンの二つ上なので、ピコは彼女の在学中のことを知らない。リンとレンにしろ、特別ミクと親しかったわけではなく、ただ当時から声楽部のホープと称されていた彼女を一方的に知っていただけである。
「まだ詳しい情報は入ってないみたいだけど、こんなに堂々と『怪死』って書かれるような死に方よ? ミステリーの匂いがぷんぷんするじゃない!」
「まさか、現場に行ってみるとか言いだすんじゃないだろうな」
腕をパタパタさせながらまくし立てるリンを制し、レンは読みかけの推理小説にしおりをはさんだ。
「そんなの、素人中学生が現場に入れてもらえるわけないだろ。推理小説じゃあるまいし、というか、推理小説でも最近じゃそんな展開ご都合主義だって」
「ハァ? 誰がわざわざ現場まで行くって言ったのよ。現場に行かなかったって、ミク先輩から情報貰って推理できるでしょ。第一発見者はミク先輩なんだから」
「いくらうちの卒業生って言っても、芸能人にそう簡単に連絡つくかなぁ……」
実際の殺人事件となれば、確かに華麗に解決してみたいという淡い期待はあるが、下手に動いて問題を起こすのだけは気が引けた。
「それにねっ! 現場に残されたメッセージのことがこの号外にばっちり載ってるの!」
「は? そういうのって普通報道規制されるんじゃ」
「規制される前に刷っちゃったんですよ。第二発見者のカメラマンが新聞社とつながりがあったらしくて、その場で情報送っちゃったんです」
ピコが割って入り説明する。なるほど、情報の海、インターネットの上ならではの情報の早さというわけか。現実世界なら印刷するまでに時間がかかるが、ネット上なら情報の複製は一瞬で済む。
「それで、現場に残されたメッセージっていうのは?」
「ここに小さく写真が載ってます」
ピコが指示した写真を見た瞬間、レンはなぜリンとピコがこの事件を持ってきたのか理解した。
確かにここはミステリー研究会だが、一口にミステリーと言ってもジャンルはさまざま。レンは推理小説を好むが、その一方でリンは古代の魔術や宇宙人などのオカルト系、ピコは秘密結社などの都市伝説系に興味を持っている。ほとんどミステリー研究部が雑談部と化しているのはそれぞれのベクトルが違うのが原因だ。
しかし、この写真は。
あまりにもオカルト的で、あまりにも都市伝説的なイメージじゃないか。
青い蛍光ペンキで描かれた8の字は。
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