奏でているよ… 終わらないセカイの夢
―――夢桜―――
「なぁ」
上から掛けられたその声に、蓮はゆっくりと顔を上げた。時代の境目に起きた戦争の名残、辺りは未だ焦げ臭い匂いと赤黒い世界が広がっている。
連は目の前に立つ男に視線を移した。
男も、訝しげに自分を見る蓮の姿を瞳に映す。
10代前半の背格好に、整った顔立ち。しかし、その瞳は暗く沈み、目に見える全てに殺意を持っているようだった。
「ああ、そんなに怖い顔をするな。・・・大丈夫だ。私は敵ではないよ。」
そう言うと、男は優しい微笑みを向けた。
「・・・誰だ。」
連は掠れた声で男に問いかけた。男は瓦礫にもたれて座る連の手首を掴むと、ぐいっと立ち上がらせた。
「私は初音戒斗。一応官僚、だと言っておこう。」
「ハッ・・・なんだよ、そんなお偉い方が俺に何の用だ?見窄らしい俺達孤児を嘲笑いにでも来たのか?」
自嘲的に笑う蓮に、戒斗は宥めるように、優しく言った。
「なぁ、一つ、話を聞いてくれないか?」
蓮の返答を待たずに、戒斗は話し始めた。
「私の娘は、調度君と同い年か・・・、少し年上くらいか。娘は病気がちな子でね。昔から友達という友達がいなかった。最近はやっと、知り合いの娘さんと仲良くはなったのだけど・・・。年に数回しか会う機械が無くてね。」
蓮は話が一段落すると、不機嫌そうに低い声で言う。
「・・・それが俺に何の関係があるんだ。」
「君、娘の友達になってくれないかい?」
「・・・は?」
当然と言えば当然の蓮の答えに、戒斗は頷き、蓮の手を取って歩き始めた。
「ちょ・・・ちょっと待てよ!なんで俺がッ・・・。」
「どうせ、行く当てもないんだろう?」
必死に手を振りほどこうとする蓮を尻目に、戒斗は初音家の屋敷へと向かった。
「貴方が・・・蓮、さん?」
屋敷に着くと同時に、蓮は身なりを整わされ、戒斗の娘の部屋に通された。
娘は布団から体を起こすと、端正な顔に可憐な笑顔を浮かべた。
「・・・えーと・・・、まぁ、はい。」
照れ隠しのように、頻りに頭をかく蓮に、娘はくすっと微笑みを零した。
「ふふ、楽しい方。私は初音未来。宜しくお願いします。」
「あ、はい、よろしく。」
蓮は慌てて頭を下げた。
「あの、父上から聞いております。ご両親を、亡くされたと・・・。蓮さんは、これからどうなさるの?」
「えー・・・と、一応、貴女の書生として、此処に置いていただくことになりました。」
「そうなのですか!嬉しいわ、貴方のように楽しい方が私の書生になっていただけるだなんて。」
本当に嬉しそうに喜ぶ未来の後ろから、戒斗が顔を覗かす。
「ああ、良かった。大分うち解けられたようだね。」
「父上!」
戒斗は未来に微笑み返すと、蓮を部屋の外へと連れ出した。
「どうだい?会ってみて?」
「・・・別に。」
そっけない返事に戒斗は思わず苦笑し、未来の部屋を見つめる。
「まぁいいよ。未来は喜んでくれているみたいだし。君にとっても良い話だと思うんだけど。どうだい?」
「・・・いいよ。あの子の書生になっても。つーかあんた、無理にでもやらせそうだしな。」
まぁね、と戒斗は笑った。
それから年月は経ち、初音家は鏡音家の令嬢、鏡音凜の婚約式に出席する為、遠き鏡音家へと出向いた。
社交界の真っ最中、蓮はバイオリンを片手に、庭に咲く桜の下に1人で立っていた。
バイオリンは、書生になってから趣味として始めたものだが、今では蓮にとってはかけがえのない大切なものになっていた。
キィ、と高い音が庭に響く。
時間を忘れてバイオリンに没頭する蓮は、背後に近づく人影に気付かなかった。
「綺麗・・・。」
それから数日、蓮は夜が来る度凜と会うようになっていた。
しかしある日、凜が鏡音家の令嬢であることを知った蓮は、自分の中に生まれ始めていた凜への感情を押し殺した。
自分はただの書生。本物の令嬢の凜には決して釣り合うことはない。と。
偽りだらけの作られたセカイで傷つけあって往く運命だというのならば
つないだ手を、自分からそっと離して終わらせるよ
報われることのない切なる想い…
婚約式の真っ最中。
連は桜の木の下で、バイオリンを片手にぼんやりとしていた。
「蓮・・・。」
消えかかった声に呼ばれ、蓮は振り向いた。
「・・・っ凜様!?」
綺麗な白無垢に化粧を施した凜を、今すぐ抱きしめたい。そんな気持ちを抑え、蓮は苦い顔で言う。
「婚約式はどうなさったのですか?・・・神居様がお待ちです。お戻り下さい。」
「っ連!」
唐突に自分の胸に飛び込んでくる凜に、蓮はとまどいを隠せなかった。
「凜様・・・っ。」
「私はっ、・・・貴方が好き・・・!」
涙声で呟く凜の肩に、思わず手を掛けようとするが、蓮はぐっと拳に力を入れた。
「っ駄目です、凜様!」
ばっと、連は凜の肩を掴んで引き離す。
「あ・・・。」
凜の目から零れる幾筋の涙を見て、連の動きが止まった。
気持ちを無理矢理抑えつけ、蓮は絞り出すように言った。
「お戻り・・・下さい・・・凜、様・・・。」
口ではそう言うのに、体は言葉に反し、そっと、凜を抱きしめた。
その様子を、未来は庭の木の陰で眺めているとも知らずに。
「・・・っ」
ぎゅっと、未来は眉間にしわを寄せると、屋敷の方へと走っていった。
「婚約・・・ですか。」
蓮は、未来と戒斗と向き合って座っていた。
「ああ。未来もそれを臨んでいる。お前さえよければ、の話なのだが。」
未来は机の向こうで頬を赤らめている。
蓮の心には、凜の姿がはっきりと浮かび、そして凜の瞳から溢れた涙でにじみ、消える。
振り切るようにそれを掻き消し、蓮は未来と戒斗に向き直る。
「・・・分かりました。」
その後、蓮と凜が密会していたことが何者かによってばれ、激怒した戒斗は鏡音家との縁を切り、初音家は屋敷へと戻ることとなった。
話によると、凜は部屋の奥に幽閉されているという。
蓮は、出発の日、凜と出逢った桜の下に着ていた。
「・・・あ」
桜は既に散りはじめ、其処に新しく芽生えていたのは、青々しい若葉だった。
何故だか、きゅっと胸が締め付けられ、蓮の心は苦しくなった。
もうあの時間は帰ってこないのだと、思い知らされたような気がして。
ぶわっと強い風が吹き、思わず目を閉じ、再び目を開けた時。
舞い散る桜の中、蓮の瞳には、確かに見えた。
あの日見た、凜の姿が。
桜よ、
今だけはどうか、どうか散らないでいてくれ。
十六夜の中見た儚い恋物語は刹那の夢の中で消えてゆくけれど
今だけは、貴方だけを想って生きていきたい。
明日も、きっと同じ。貴女と出会えたこの場所で。
決して叶うことのない恋だと知っていても。
今は、今だけは。
此処で、全てを終わらせるために。
奏でていたい、 夢見ていたい。
終わらないセカイの夢
嘗て絶望の底に
幾多の命が消えていった
光 芽吹いた今も
残る傷はまだ癒えない
君と出会ってから
たくさんの ことばを並べたよ
希望に満ちたセカイを
もう一度 思い出させてくれたんだ…
偽りだらけの 作られたセカイで
傷つけあって往く 運命だというなら
つないだ手を そっと離し 終わらせるよ
報われることのない 切なる想い…
あなただけ想って 生きていくために
なにもかも捨てることは 許サレナイ…
明日も きっとまた 同じこの場所で
奏でているよ…
終わらないセカイの夢
夢桜
どうか散らないでいて…
十六夜の儚い恋物語は
刹那の夢の中 消えてゆくけれど
今だけは…今だけは…
想っていたい…
あなただけ想って 生きてゆきたい
叶うことのない 恋の物語を
今此処で 全てを終ワラセルタメニ…
夢見ていたい
終わらないセカイの夢
【自己解釈】 夢桜 ver,蓮 【ひとしずくP】
蓮視点です。
ちょっと某猫さんの生放送を見つつgdgd書いていたのでもう内容も本当ぐっちゃかめっちゃか支離滅裂です。すみません。
でも確かに愛だけは溢れんばかりに詰まってます(`・ω・´)キリッ←
本家様→http://www.nicovideo.jp/watch/sm6835178
歌い手様→http://www.nicovideo.jp/watch/sm8071130
凜視点→http://piapro.jp/t/MsnW
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