注意書き
これは、拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
カイト視点で、外伝その十八【映画を一緒に】の後の話になります。
したがって、それまでの話を読んでから、読んでください。
【上手くいかない】
めーちゃんと一緒に映画館に行ってからしばらくして、めーちゃんは言ったとおり、映画のDVDを貸してくれた。コメディ映画で、ちゃんと面白かった。
貸してもらったDVDを見た後、僕はめーちゃんに早速感想をメールした。めーちゃんから返ってきたメールには「これ、続編もあって、そっちもお薦めなの。今度見てみない?」と書かれていた。僕の返事? 「うん、ぜひ貸してほしい」に決まっている。
今のところ映画の話ばかりだけど、そのうち、もっと色んな話ができたらいい。
「俺の愛しのあの子が冷たいんだ」
「…………」
「あの子だけじゃない、マイコ姉まで最近なんか冷たいんだ」
「…………」
「おい、カイト、何か言えよっ!」
今日は五月の連休。僕の家にやってきたアカイは、僕の前でそんな話を始めた。
「えーっと……アカイ、五月病とは縁がなさそうだね」
僕がそう言うと、アカイは僕に問答無用でチョークスリーパーをかけた。……く、苦しい。僕はあわてて床を叩いた。
「……二度とふざけたこと言うんじゃねえぞ」
アカイが腕を離してくれたので、僕は深呼吸をしながら頷いた。一瞬、三途の川で死んだおばあちゃんが手招きしたのが見えたような気がしたけど、忘れることにしよう。
「えーとアカイ、冷たいって、その……」
「だから、マイコ姉のところで働いてるあの子だよ。あの、美人ですごくスタイルがいい子!」
アカイ、「あの子」呼ばわりはないんじゃない? めーちゃん、君より一つ上だよ? そりゃ、あってないがごときの年の差だけど。
それにしても、めーちゃんが冷たい? めーちゃんて、大体いつも愛想いいはずなんだけどなあ。実はこの前、勇気を出して映画に誘ってみたら来てくれたんだけど、ずっとにこにこしていた。あ、お昼に入ったお店が微妙に不味くて、その時だけは文句を言ってたけど。その後で入ったカフェのケーキはすごく美味しかったので、機嫌はすぐ直った。
だから、めーちゃんの対応が冷たいってのは、僕にはピンと来ない。ついでに言うと、マイト兄さんまで冷たいって?
アカイ、気づいてないうちに何か失礼なことでもやらかしたんじゃ……。
「というかアカイ、就職したんだよね? 会いに行く暇なんてあるの?」
名前もわかってないんじゃあ、自宅の住所なんてもっとわかってないだろう。そうなると職場しかないんだろうけど……。
「俺、営業なんだよ。今は新人だから先輩にくっついて歩いてる状態だけど。で、俺がくっついてる先輩、仕事を早めに切り上げちゃう時があるんだ。そんな時の空いた時間利用してるんだよ」
え……アカイ、そんな時間の余裕あったんだ。それは……僕にとってはよろしくない。社会人になったから、会いに行く暇なんてなくなって、恋心もそのうち冷めてくれるだろうって思ってたのに。
めーちゃんのことに関しては、今のところ僕の方がリードしている……と言ってもいいと思う。一緒に映画を見に行ったし、映画のDVDも貸してもらったし、メールのやりとりもしている。……もちろん、まだただの友達だ。映画友達って、言うのかな。一方、アカイはめーちゃんの名前すら聞きだせずにいるみたいだし。
「で、冷たいって、どんなふうに冷たいの?」
「俺が必死になって話をしようとしているのに『忙しいんです』って言って、奥に入って行っちゃうんだよ。マイコ姉まで『仕事の邪魔! これから仮縫いするんだから、男は帰って!』なんだぜ。マイコ姉だって、ちょっと前まで男だったのに」
マイト兄さんは、今でも生物学的には男だよ……手術とかしてないし。手術しても、生物学的な女になれるわけじゃないけど。あれは……なんて言ったらいいんだろう。
「それ……本当に仕事が忙しいんじゃないの? あそこは仕事場なんだし、仕方ないんじゃない?」
実際、僕が行った時も「ごめんなさい、今ばたばたしてて」と言って、奥にさっさと引っ込んじゃうことって、結構あったりする。
「ファッションショーでも控えてるのかもよ、マイト兄さん」
「……いつになったら暇になるんだ?」
「さあ? マイト兄さんの仕事のスケジュールまでは知らないし」
アカイはため息をつくと、こめかみを揉み始めた。
「カイト、お前も協力しろ、俺の幸せに」
「え~っ、やだよ!」
反射的にそう言ってしまい、僕ははっとなった。今まで、アカイにこんなことを言ったことは、なかった。アカイがむっとした表情になる。
「何だよそれ! 俺たち従兄弟同士だろ。俺の幸せに協力してくれたっていいじゃないか!」
じゃあアカイも、僕の幸せに協力してよ。そう思ったけど、口にはできなかった。……僕の意気地なし。
「だって……協力しろって、何をするわけ?」
僕がそう言うと、アカイは腕を組んで考え込んだ。……何も考えてなかったの?
「そうだな……マイコ姉のスケジュール、聞き出してくれ。いつ暇になるのか知りたい」
「どういう理由で訊くんだよ……今まで一度も、そんなこと訊いたことなかったのに」
「何か考えろ」
「……無茶なこと言わないで」
アカイ、どうしちゃったのかなあ。
「というか、アカイはその人のどこがいいの? 単に外見が好みってだけ?」
僕が訊くと、アカイはまた考え込んでしまった。えーっと……考え込まないとわからないの? それって、どうかと思うんだけど……。
「上手く説明できないけど……一目見た時、思ったんだよ。『この人だ!』って」
「……何それ」
アカイ、こんなこと言うような人間だったんだ。少女漫画じゃあるまいし。
「おい、何だその、俺のことをバカにするような目は」
「バカになんかしてないよ。ただ、アカイがそういうことを言い出すとは思ってなかったから、なんというか、すごく意外で」
僕がそう言うと、アカイはふーっとため息をついて、天井を見上げた。
「恋ってのは、人を変えるもんだ」
……似合ってないよ。
「何だよその疑うような目は」
「いや……だって……その……」
「神威先輩だってな、あの許婚とつきあうようになってから大分変わったんだぞ。それまでは遊んだりもしてたのに、そういの全部やめたんだ」
ああ、年末に一緒になった人か。あの、高そうなスーツ着た、見るからにいいとこの出身ですって人。そんな一度しか会ってないような人を、例えに出されても困るんだけどなあ。
「いや……でも、その人って入り婿に入るんでしょ? だったら女遊びはまずいんじゃない?」
「神威先輩、以前は言ってたんだ。親の持ち込んできた結婚なんか絶対嫌だって」
「へ、へえ……そうなんだ」
「そうだよ。でも、見合いの席で相手の人を見た瞬間、思ったんだと。『この人だ!』って」
その神威先輩とやらの目、ちゃんとしてるのかなあ……? さっきも書いたけど、僕はあの時会っただけだし、しかもろくに話してないから、どういう人なのかよく知らないんだよね。実は、単にいい加減なだけだったりして。
「第一印象なんかで相手決めるのって、僕からするとやっぱりピンと来ないけど。向こうがどういう人なのかわからないわけだし」
「ん~先輩が言うには、お相手はすっごく淑やかで控えめで、大和撫子の鑑みたいな人だって。俺、結構惚気話聞かされたぜ」
「深窓のご令嬢って奴? ……僕の好みじゃない」
僕はやっぱり、明るくて生命力があって、こっちを元気にしてくれるような人がいいな。
「お前の趣味なんて訊いてないよ。……俺の趣味でもないけど。というか、なんで神威先輩の話になんかになったんだ」
アカイが持ち出したんじゃないか。もう忘れたの?
「とにかく、俺は絶対に諦めないぞ!」
そう宣言されて、僕はまた、暗い気分になってしまった。アカイがさっさと諦めてくれれば、僕だってもっと気楽になれるのに。
でも……こんなことを考えるの、よくないんだろうな……。アカイだって真剣なんだろうし。僕は、どうしたらいいんだろう。
アカイが帰って行った後、めーちゃんからメールが入った。来週末、映画を見に行かないかと書いてある。めーちゃん、本当に映画好きだな。
罪悪感を感じながらも、僕は「喜んで」と返事した。
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ご意見・ご感想
初花
ご意見・ご感想
こんにちは。rukiaです。
アカイは、まだめーちゃんの名前知らなかったんですね。
それより、めーちゃんとマイコ先生は、なぜ冷たいのか…?アカイが、神威さんを知っているからですか?
それなら、なんかちょっとかわいそう・・・。
2012/04/01 12:01:17