[第2話] ~かんざしや
ああ・・・私はどうして此処に居るんだろう…。
呉服鏡屋へ来て現代の時間では、1週間が経った。
一向にどうして此処へ来たのかを思い出せていない。
「空が綺麗だなあ・・・。」
ひとりで、縁側にちょこんと座って、空を眺めていた。
都会ではまず見ることのできない綺麗な澄み切った空。
「空になにかあるのかい?」
そう話しかけてきたのは、此処、呉服鏡屋の若旦那、連だ。
どっかに倒れていた私を、拾ってくれた。驚くほど私と顔がよく似ている。
「連、私はどうして此処に来たんだろう…?」
そう言うと、彼は少し微笑んで、
「りんは、未来から来たと言っていたね。ここに来たのには、きっと理由があるんだろうけれど、りんにわからないことを、私にきかれてもねえ。」
私は、連が持ってきたお茶菓子をつまんだ。
ていうか、私、馴染み過ぎてないか?
此処に来た時も、すんなり<江戸時代>なんて受け入れちゃったし。
きっと現代でなにかあったんだろうな…。
「そうだ、少しこの町を案内しようか。」
突然、連が提案してきた。
「もう1週間になるのに、店表までしか出てないじゃないか。めい子も連れて、
さんぽへいかないか。」
そういえば外に出てないなー、と思い返した私は3人で散歩へ出かけた。
江戸の世には、いろいろなものがあった。
めい子さんが丁寧にその一つ一つを私に教えてくれた。
そうやって歩くうち、一軒の小さな店に着いた。
”巡屋”
そこへ入っていこと、簪がたくさんおいてあった。
「あ、鏡屋さん。こんにちは。」
と、青い着物をさらりと着こなした男の人が愛想よく挨拶してきた。
めい子さんが3人の中の誰よりもはやく、
「かいとさん、こんにちは。」
と、嬉しそうに返した。
女将さんを呼んでくると、店裏へいく”かいと”と呼ばれた人。
「連・・・ここは・・・。」
私が尋ねると、連は、
「簪屋の巡屋さんだよ。かいとさんが戻ってきたら、りんも紹介するね。」
私は店に置いてある、緋色の簪に目がとまった。
「綺麗…。」
「まあ、綺麗な色ね。この飾りも素敵。」
めい子も一緒にその簪を眺めていた。
「鏡屋さん、お久し振りで。」
声のしたほうに目をやると、綺麗な女の人が立っていた。
その人は、私のほうを見て、
「その方が、今噂の…?」
と、連に訊いた。
私を噂している輩がいるだと…?
出てこい!絞め殺してやる…!
そう思った瞬間、頭が割れそうに痛んだ。
何かが、頭の中へ流れ込む。
すぐになおったけど、いまのは…
「りんというんだ。仲よくしてやってくれ。りん、るかさんだ。ここの女将さん。」
ぺこりと、頭を下げる。るかさんはそれを見て、微笑む。
「その簪綺麗でしょう…。上方から入ってきたもので、家にしかないの。3つあったのだけれど、1つは買われていったのよ。」
「へえ…。」
私は感嘆の声をあげる。
「何だりん。それがほしいのかい?」
「え、いや、き、綺麗だなと…。」
どもる私を、少し愛でるような瞳で連が見た。
瞬間、飛び跳ねる心臓…だんだん熱くなる…。
「若旦那、それりんさんに買ってあげたらどうですか?」
めい子が言うと、黙って会計を済ませる連。
会計を済ませた簪を持って連が私のほうへ歩み寄る。
そ…と、私の髪に簪を挿す。
「山吹色の着物に、黄色の髪の中でとても目立ってる。」
連が私を、とても愛しいような表情で見つめる。
暗い過去を必死で隠そうとしているように、手が震えている。
思い出を消そうと、何かの思い出を躊躇っているような…。
そんな彼の顔を見ていたら、胸がひどく痛んだ。
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頭の中が、ざわつく。私は、その場から1歩も動けずにいた。
早く、此処から離れないと、連とめい子さんに気付かれてしまうのに…。
私のほうへとだんだん近づいてくる、2人の足音。
「…りん…。」
連が、私の名前を呟く。
瞬間大きく波打った私の心臓。
「りん…、今の…聞い…」...緋色花簪
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[第10話]~笑顔
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そして、連の腕をぐいと持ち上げ、みくさんから引き剥がした。
「お届物の反物は、若旦那がお渡ししましたね?...緋色花簪
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緋色の簪をくれた時の連のあの複雑な表情。
あの顔を向けられてからは、まともに連の顔が見れていない。
「はあぁ…。」
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#80「急転」
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「う、うるさい、わよ。はぁ…はぁ…、それより、リンは?リンはどこ!?」
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「リンちゃんですか……そ、それが……昨日の朝から行方不明で……」
...妖精の毒#80
しるる
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