「・・・・・」
僕は窓から秋空を眺める。そして、ため息。
今日はマスターは学校に行ってしまい、夕方まで1人。朝、家を出て行くときになにやらとても楽しそうで、理由を聞いても笑ってはぐらかすばかりで結局教えてくれなかった。・・・そんなに学校へ行くのが楽しいのかな?それとも、何か別の理由があって、そんなに楽しそうにしてたのかな・・・。とにかく、考えることと悩みはどんどん増えていく。マスターがいないのだからなおさらだ。時計を見れば午前11時10分を少し過ぎた頃。今頃、何をしているのだろうかと気になって仕方ない僕。そういえばこの時間帯って、ときたまおもしろい番組が放送されているんだっけ・・・・僕はテレビに意識を集中する。・・・えーと、んーと・・・。テレビって、どうやって見るんだっけ?
確かマスターはリモコン使っていたような気がするけど・・・リモコンって何?どこにあるの?結局分からなかったので僕はテレビを見ることを諦めた。・・・うーん、テレビ見てると時間を忘れる事ができるから今の僕にはちょうどいいと思ったんだけどな・・・。なんだか、がっかりしてしまい僕は再び空を見上げる。
「・・・今日も、晴れてますね・・・・」
呟く僕の声に返事してくれる人も物もないけど、気にしないことにした。・・・だって、空が大好きなマスターに少しだけ近づけれたようで嬉しかったから。離れている今、これが一番ちょうどいいと1人納得し、僕はいつもマスターがしているように青がいっぱい広がった空をいつまでも眺めていたのだった。
時刻は午後5時ぐらい。その時になってようやくマスターは帰ってきた。
「ただいまーっ」
いつも通りの声と言葉が玄関から聞こえて、僕は思わず玄関に駆け寄り制服姿のマスターに抱きついていた。そうしようとかそんな計画的ではなく突発的というか衝動的というかそんなのに近い感じだった。すぐ近くでマスターの匂いがして、僕は嬉しくなった。
「・・・・あ、おかえり、マスター」
そして、今更のようにそう言うとマスターはちょっと驚きと呆れが入り混じった表情で、
「・・・・ただいま。・・・そんなに寂しかったの?」
と、優しい言葉を言ってくれるマスター。・・・うう、今すぐマスターを僕のものにしてしまいたい・・・・。・・・でも、僕にはそんな権利はない。だって、マスターには・・・僕の他に、もう好きな人が、いるから。もう・・・いるから。それが分かっているからこそ、切なくなって、こんな風にマスターに抱きつける事を幸せに思ってでもこんなことしちゃだめだって分かってるけどでも僕はマスターが大好きだしでもこんなの終わりにしなきゃだめだし、・・・・でも、「どうしたの?カイト。そんなに切なそうな顔して」僕の思考はマスターの声で見事に遮られた。そして、気付けばいつの間にか僕とマスターは離れて、マスターが僕の顔をのぞきこんでいる。
「・・・いえ、今日の昼に見たドラマが切ない恋愛ものでしたから、それ思い出してつい・・・」
僕は全くの嘘をついた。・・・こうでもしないと、なんというか・・・自分でも思いもよらないことをしそうで怖いから。この気持ちは気付かないふりをした方が一番いいから、僕はそうする。この気持ちを誰にも告げずに誰にも悟られずに誰にも、気付かれずに。
「・・・そっか」
マスターは何も言わずに、ただそれだけ言った。・・・もしかしたらバレたかもしれないけど何も言わずにそっとしておいてくれるマスターに僕は、少しだけ大人になったと嬉しくなったけど、少し悲しくもなって。一緒にいると苦しいっていう言葉の意味が分かったような気がして。ああ、だから別れるのか、だなんて。・・・そんなこと分かりたくもなかったし、知りたくもなくて。僕は少しふらつくのを感じて、
「・・・あの」
頭のどこかも痛いのを感じながら、
「・・・貴女と一緒にいると、幸せ、なんですけど・・・・なんか苦しいっていうか息苦しくて・・・・えっと」
心の中ではどこかで分かっていたのかもしれない。でも、そのことを上手に言葉にできなくて、言葉に詰まる。
「・・・切ない、でしょ?」
「え・・・?」
僕が顔を上げるとそこには微笑んだマスターがいた。
「そうね・・・、彼氏は1人しかだめだし、私もそんな浮気するつもりもないし・・・。っていうか、彼氏、じゃなくて、えーとね、気になる人っていうか両思いっていうか、まあ一度も話したこともないけど、でも目が合う時もあるし、そういう時、すっごく嬉しいし・・・とにかく、そういう人が私にはいるからね・・・」
少しというかだいぶ歯切れが悪いマスター。
「・・・分かってますよ。これでも僕、ちゃんとした大人ですから、分かってます」
僕は、なんだか・・・・・・。
すっごく大人になったような気がする。
・・・まぁ、マスターよりかは年上だし。
こういうのも、ありっていうものかな?
僕は急におかしくなって笑ってしまった。
「・・・え、カイト、なにがおかしいの?」
マスターがぎょっとした様子で僕に聞く。
「いえ、なんか・・・すいません、思い出し笑いなので気にしないで下さい」
そう言って、僕は自室へ行くことにした。マスターを置いて。
明日も、その人に会うだろう。そして、明後日も。
僕にはその人に勝てないけど、でも。
僕は世界で一番、マスターが大好きです。
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ゆるりー
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