たたん、たたん たたん、たたん・・・・・
予備校の帰り。9時15分発の電車に僕はのった。今日は割とすいていて、席に座ることができた。予備校ではずっと微分積分や無機物質の化学反応の予習復習だった。
(あー、ちくしょう・・・・あんなもん覚えられないよ・・・)
今日もそんな事ばかり心に巡らせていた。
(・・・・改めて、落ちたって辛いなぁ)
おもえば、ここずっと勉強づけである。予備校生の宿命とはいえやはり辛い。勉強のために僕はいろんなことを自粛している。僕はいろいろ置いてきた。ああ、早くこの勉強地獄から逃れたいなぁ
たたん、たたん たたん、たたん・・・・・
目の前でおじさんが新聞を読んでいる。社会面の記事が見える。その端の方に、最近僕が暮らす街で起こっている事件のことが掲載されていた。窃盗事件が異常な件数で増え、そして、最近・・・・まるで、下手くそな小説みたいだが・・・・・殺人事件が頻繁に起こっているのだ。
見出しには「月音街でまたしても犠牲者が 同一犯か?」と書いてある。このニュースのおかげで親から頻繁に電話がかかってくる。そのたびに「大丈夫」と言っているけど、ホントは不安でしょうがないんだ・・・・
たたん、たたん たたん、たたん・・・・・
一定のリズムで僕を揺らす。椅子もいい具合の柔らかさだ。何より、いろいろと学んで頭の中がへろへろになっている。「休みたい」という指令を体全体に出しているのだ。
僕は体を椅子に沈ませて、かばんを布団みたいに前に抱いて、眠ることにした。
・・・・・・誰かが僕を呼んだ気がした。辺りはバニラアイスみたいに白っぽく、足元は水面のように僕の周りに波紋を作っている。
(夢の中か・・・・)
しかし、その割には不気味にリアルな感じがした。ひやりとした空気感が伝わってくる。まるで現実みたいじゃないか。
「・・・・やあ、ここは現実の場所だよ?」
誰かがまた呼んだ。僕がそちらに振り替えると、そこには
「月音~、月音です・・・お降りの方はお忘れ物の無いようにご注意を・・・・」
まの抜けたアナウンスを聞いて僕は飛び起きた。
「わわわ、やばいやばい・・・・」
急いでかばんを担いで電車をおりた。
帰路を歩いていた。いつもよりもだるい感じがする。それほどたくさん勉強したのだろうか。いや、むしろ・・・なんというか、空っぽな感じだった。少し見上げると、満月が輝いてまぶしいぐらいだった・・・・
「・・・・あれ?」
僕は周りを見渡した。確かに家に向かって歩いていた。しかし、そこは・・・・確かに見たことあるけど・・・・妙な違和感を感じた。
「・・・・こっちで、いいよな」
僕は早足になった。しかし・・・やっぱりおかしい。何か変だ・・・・
「君は帰れない・・・」
どこからか声がした。
「・・・!?」
「もう帰れない・・・」
「なくしたからね・・・」
「忘れものには気をつけなさいといってたでしょ・・・」
「ほらほら取りに戻らないと・・・」
くすくすと声が聞こえてくる。
僕はすぐに振り向いた。そこには小さな花壇があり、パンジーが植えられていた。そこから、光が出ていた。
「・・・・?」
そっと近寄ると、きゃっ、という声を上げて、その光が飛び去った。
「????」
ギギギギギギギギギ
すると突然、耳障りな笑い声が聞こえてきた。
「あいつ、まだ気づいてないぜ」
「教えてやったらどうだい?」
「やるかっつーの、そんな冷めること」
ギギギギギギギギギ
異様な笑い声だ。その方向に向くと、道路沿いの電灯たちだった。皆、僕の方を向いて、耳が壊れそうないやな音を立てている
ギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギ
この笑い声から逃れようと僕は耳をふさぎながら走って行った。
(いったい・・・いったい・・・なんなんだよ・・・・・)
周りの風景はいよいよ全く見たことのないものとなった。目玉みたいなものがめの前に横切った。トカゲ人間としか言いようがない奴がこっちをにらんできた。ばかでかいいも虫が横断歩道を渡っていた。家具の寄せ集め見たいな奴がのっしのっしと僕の頭上をまたいでいった・・・・
そして・・・
「きゅーーーーーーーーーーーーーー!!」
甲高い音が頭上から聞こえた。僕は見上げた。そこには、満月の光を反射して優雅に泳ぐ、巨大なクジラだった。
「・・・・・・なんなんだよ・・・・なんなんだよ・・・・一体どうしちまったんだよ!!」
僕はまるでアリスにでもなった気分・・・・このまま、あのしましまの猫でも出てくるのだろうか・・・・
「や、どうしてそんなに狼狽してるの?」
「うわああああああ!!」
いきなり僕の前にしましまの猫・・・ではなく長身の女性が立っていた。長い髪をしていて、その色がちょうどあの猫みたいな色だった。まるでチャイナ服見たいだったけど、どこか西洋風の気品あふれる雰囲気だった。
「そんな驚かなくたって・・・・・」
「だだだだって、だってだって・・・・・」
「はいはい、落ち着いて、カイトくん!」
え・・・・・なんで僕の名前を・・・・
「結構楽しい世界になってるんじゃない?」
クスッとその女性は笑った。顔はとても美人だった。凛としていて、なんとなく、かっこよく感じられた。
「あなたは・・・・だれですか・・・・」
「わたし?・・・・そうねぇ・・・魔女、とでもしておきましょうかね。」
「魔女?・・・・」
確かにそう言ってもしっくりくる雰囲気を彼女は持っていた。
「あの・・・なんで僕の名を・・・」
「それは私が何でも身通せるからよ。」
・・・・もしかしたら何か知っているかもしれない
「あの、今ここはどうなってる・・・で・・・す・・・か?」
「う~ん、簡単に言ってしまえば、この世とあの世がつながった・・・とでも言えばいいかしらね」
「あの世・・・?」
「いや、それよりもね、私はあなたに伝えたいことがあるのよ」
「?」
「言いにくいけど・・・・あなたは死んだのよ。」
「・・・・・・・はい?」
一瞬耳を疑った。
「もう一回言うわ。あなたは死んだのよ」
・・・・・・・どういうことだ、そんなこと認められるはずがない。だって今ここにいる。思わず笑ってしまった。
「僕が死んだ?なんだよ、それ、どんな冗談だよ。見ず知らずの人にそんなこと言うのかよ!!魔女とか言いやがって・・・・たちの悪い奴だな!!」
すると、彼女は僕の手首をつかんだ。
「あなたは魂だけになっているのよ。鼓動を・・・確かめなさい」
そういうと、彼女は僕の手を僕の胸に押しあてた・・・
「・・・・・・!?」
ない。動きが無い。あの一定のリズムで振幅する動きが無い。僕は一瞬で血の気が引いた。背筋に異様な悪寒がはしった。
そして、彼女はその手をはなした。
「その手首に触りなさい・・・」
僕は脈がわかる場所を触ってみた。
・・・・・・やっぱりない。脈が無い。しかも体温が感じられない。まるで棒きれだ。
「やっと・・・気づいたのね」
僕はその場で崩れ去った。
「・・・魔女さん」
「何?」
「僕は・・・・どうすればいいんですか・・・・・」
「そうねぇ、あなたは失ったものを探すだけよ」
なくしたからね・・・
あの時、光が言っていたことを思い出す。そして、気づいた。僕は今、空っぽだということに。僕は落とし物をした。どこかに。それはどこなのだろう?そして、いつ落としたのだろう?
そう、反芻すると、ある事を思い出しかけた・・・・それはたしか・・・・いや、駄目だ、思いだせない。
「あせらなくてもいいのよ」
魔女が話しかけた。
「永遠の夜は始まったばかり。だから、急がなくてもいいよ。ゆっくりと探そう。それが近道よ。大丈夫、きっと見つかるよ。」
満月に光る、彼女の頬笑みはとても美しかった。
「あ、それと・・・」
いきなり魔女さんはどこからか妙なものを取り出し僕に手渡した。
みると・・・・
「う・・・うわあああああああああ」
「おっとと、そんな声あげちゃあ、こわがっちゃうよ。」
それは、まるでデフォルメ化した女の子の首だけみたいな、得体のしれない生物だった。髪の毛の部分をたこみたいに動かして動いてる。
「ちょ、なんですか、こいつ!!」
「あ、この子はわたしの代わりに君を案内する使い魔みたいなものよ。かわいいでしょ?」
・・・確かにかわいらしい。笑顔で僕に挨拶してる(ように見える)。
「あ・・・ごめん」
「・・・ふふ、それじゃ、夜を楽しみなさい。きっと、君の探しているものは見つかるよ。」
「え、あ、ちょっとまって」
「じゃあ、またね。」
そう言うと、彼女はどこへともなく消えてしまった。僕はクジラの真下で少しばかり途方に暮れた。
「・・・・・って、あれ」
となりにいたあの生物がいない。ふと、横を見ると、ずんずん進んでいる。
「だあ、ちょっとまって!!!」
僕は彼女を追いかけて行った。僕は少し不安になった・・・この夜に、終わりは来るのだろうか・・・・本当に「永遠」なのだろうか・・・・僕は無くしたものを・・・・見つけられるのだろうか・・・・
遠くの方で、何やらお祭りみたいな音が聞こえていた。
さて、私、早速少しばかり補助させていただきました。そうしないとか彼、カイトは狼狽して先に進めなかったでしょうから。
ふふ、どうなるでしょうかね・・・・
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