僕らの生まれた世界には哀しいルールがありました。
他人の不幸をポイントに、命が1年増えるのです。
最初の寿命20年、それだけあれば十分と、僕らは普通に生きていた。
ずっと傍で、支え合い、ほんとにささやか、微笑んで。
そして、ついに来たのです。
僕ら、ふたりの死ぬ日です。
教会で愛を誓い合い、僕らはKISSをしたのです。
時は過ぎていきました。
呼吸が止まってしまうほど。
命の終わりは来なくって、
代わりに彼女は泣きました。
「私が他人(ひと)を不幸にしてる!!」
僕らは気づいてしまいます。
僕らの幸せは、誰かを不幸にして手に入れたものだ。
笑う事の出来ない人もいる。
哀しい時に泣けない人もいる。
きっと、僕らを恨んでいる人がいる。
ささやかな幸せってなんだ。幸せは幸せだろう!?
そんな事に今更気づいた!!!!
僕らは幸せなんだ。
幸せだったんだ!
僕らは別れました。
そして、ひとりで生き始めました。
ひとりってこんなに辛いんだ!
最初のそんな気持ちは序の口でした。
離れて2年、僕は耐えられず彼女に逢いに行きました。
ふたりの思い出の場所、そこに彼女がいる気がしたのです。
滑り台のてっぺんで、彼女は夜空を見上げておりました。
声を掛けようとした、その時です。
彼女は滑り台を降り、僕に気づき手を振りました。
僕は……生まれて初めて彼女を憎みました。
なぜなら僕の隣を通り過ぎ、僕の後ろにいた見知らぬ青年に笑いかけたからです。
(え……?)
僕らはけして憎み合って別れたんじゃない!!
(僕以外の人と結ばれるなんて許せない!)
そう思った刹那、胸にズクンと痛みが走りました。
僕の体は透けていきます。
その時、思ったのです。
僕の死を知らないままに、僕の不幸で彼女が生きる。
(大嫌いだ!)
■林檎視点
(大嫌いだ!)
そんなココロの声を聞いた気がしました。
私は、ふと思い出の滑り台を振り返りました。
そして、哀しくなって苦笑しました。
なぜ、ひとりで見上げてたかって、
もう一緒に見上げる彼がいないからです。
彼は2年前の今日、誓いのKISSの際、私をひとり置き去りに亡くなってしまったから……。
「どうしたの?」
そんな問いを投げてくれる傍らの青年に私は微笑みます。
(ごめんね)
(君を幸せにしたら、彼のあとを追うから……)
彼のいない間、出会った人、
何度断っても、支えると言ってくれた人、
だけど、だけど駄目なんだ。
私は彼を愛してる……。
公園を先に出てゆく私を青年が見つめている。
そんな事気づいてる。
だから、泣くのをぐっと我慢して、目一杯笑ったよ。
「ありがとう☆ 好きよ」
残された私を青年が抱きしめる。
そして、驚く私にKISSをした。
青年は震えていた。
「どうして我慢するんだよ……っ」
そしたら、いっぱい切なくて、いっぱいいっぱい泣いちゃった。
彼への愛と、誰かに助けてほしくって。
「助けて……」
「当たり前だよ!!」
「ごめんね」
「何が!!」
「私、これ以上は無理みたい……」
ハッと青年は身をひきました。
私の体は透けてゆきます。
「待!!」
「ごめんね。大切にしてくれてありがとう……!」
私を待っている人のいるところに帰ります。
どうか、幸せに生きて。
end
僕らの世界の哀しいルール(完成☆)
■僕:聖也(せいや)
林檎とは幼い頃からずっと一緒にいる。
20になった日、林檎とのKISSの最中に亡くなる。
実は、その日まで彼は誰も不幸にしていなかった。
その証に、20で死んだ。
■彼女:林檎(りんご)
聖也の恋人。
実は昔、幼い頃、聖也の告白を、知らず知らず断った事がある。
そのカウントにより、20を過ぎても生きていた。
□青年:一成(かずなり)
聖也が亡くなり半年が過ぎた日に、夜の公園で林檎が出会った一成。
夜空を見上げながら泣いている林檎に、一成は一目惚れした。
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