-悪魔-
 ずるずると遅いながらもゆっくりでも、少しずつその場から離れようと、ランはレンを引きずりながら移動していた。ある程度離れた場所に用具箱を見つけると、その陰に隠れて少しだけ魔法を使ってみた。と、いっても、眠っている相手を起こす魔法など無いから、そこは、対象物の重量を軽くする魔法を使った。これで、いくらか楽になるはずだ。
 ひょいとレンの体を持ち上げ、おんぶすると、また出口まで歩き出した。
 その途端、また酷い頭痛がして、ランはその場に崩れた。酷い頭痛に伴って、めまいとあの声がまたランに呼びかけて、まるで洗脳するかのように、操ろうとしているかのように何度も続けた。
『お前の弟は人殺し――』
 ふと、レンガ目を覚ましたらしく、頭を押さえながら起き上がって倒れて頭の痛みにうめき声を上げるランに近づいて、心配そうにしている。
「ラン、大丈夫か…?」
「…」
「ラン?」
 返事は無く、うつむいたまま動こうとしないランに、レンは嫌な感覚を覚え、悪寒がした。
「…シ」
 また、だ。ぞっとするような感情の無い声に、レンは体中の全ての神経が張り詰めて敏感になるような、そんな感覚を覚えた。あの時と同じ声で、機械のような声で自分を責めるように言うのだ。
『ヒトゴロシ』
 記憶とランの言葉がシンクロした。

 ガタン!!という、物音に気がついたカイトは、廊下へと飛び出て自分の妹弟(きょうだい)達を探し始めた。
 しばらく辺りを見回していると、見覚えのある鮮やかな金髪が螺旋階段の手前に見え、ほっとしたようにカイトが駆け寄ろうとしたときだった。
 ――レンは?

 予想通り、ランは狂ったようにヒトゴロシ、と繰り返しながらレンに襲い掛かってきた。今は武器を持っていない、と油断をしていたのだ。ランも自分の双子の姉、悪魔とヴァンパイアのハーフということを忘れてしまったのが、間違いだった。
「…っ」
 迫るランをよけるため、後ろへと下がっていった。
 五歩ほど下がったところで左足の下に床が無いことに気がついた。そこから先は、高く段の多い、螺旋階段になっていたのだ。左足を踏み外し、そのまままっさかさま――。やはり、体の状態も万全でなかったからだろうか、それともただの油断か、あるいはもとより力が及ばなかったのだろうか?
 そんなことを考える余裕があるくらい、落ちていく時間は長く感じられた。
 階段の角や手すりに体中を叩きつけられ、続けざまに痛みを感じてしまったからか、もはや痛いとも思わず、ただ落ちていく感覚がするだけだった。それから階段の下に落ちて、やっと痛みが来て、頭から生暖かい液体が流れ出す感覚や、切れたのであろう頬のしみるような痛みや、内出血にでもなったらしい力の抜ける痛みが、体中のいたるところからレンの神経を蝕んでいった。

 その場に倒れたリンにルカが近づいて、何度か呼びかけたが、リンは苦しそうに顔をゆがめるだけで、声を出すことができないらしい。
「――リン様!!」
「…っ」
 意識はあるらしく、ヒュウヒュウと息をしているリンは口からも血を吐き、床が赤黒い血色に染まっていった。
「今、回復を――!?これは…」
 傷口から、腐食のように異様な状態が見て取れた。
「毒、だよ。俺の魔法で、毒を打ち込んだんだ。自分ではどうにもできない。回復魔法なんかじゃあ、どうにもできない」
「どうしたら直るのです?」
「さあ?俺を倒したら、教えてあげても良いけど…。無理だと思うよ。俺も一応悪魔と人間のハーフだからね、理性を保ったままで悪魔と同じ力を引き出すことができる」
 そういって、レオンは愉快そうに笑った。
 それは、ルカにとって何かに囚われた人形のように見えてしまった。
「どうする?」
 挑発するように言うレオンに、ルカはリンを気にしながらも向き直って、すっと臨戦態勢に入った。
 それを見たレオンはまた楽しそうに笑って、真顔に戻ると、口元をゆがめた。

 どうか、どうか、どうか、間に合ってくれますように!!
 そう考えながら、ミリアムはカイトに教えられたとおりに二階の部屋を見て回っていた。その手には、シルバーのネックレスが握られていた。

 間合いをつめすぎては危険だ。
 かといって間合いを取りすぎるとこちらの攻撃が相手にいたるまでの時間に逃げられてしまうかもしれないと考えると、もう少し間をつめたほうがいいのかもしれない。思い切って少し間をつめた。
 相手からの攻撃は無い。ほぼ無防備な状態にあるレオンに、ルカは手を出すことができずにいた。
 そのときだった。ドアのほうから、
「ルカ!このネックレスを、レオンにつけて!!」
「えっ?」
「早く!!」
 声の主は、ミリアムだった。酷くあせっているように見えた。
(何故、ルカの名を…?)
 そうおもっても、息をすることで精一杯のリンには声を出す余裕など無い。
 ミリアムに言われたとおり、レオンにネックレスを付けてみるしかない、それで何かが変わるかもしれないのだから、やってみる価値が無いわけではないだろう。ネックレスを握り締め、ルカはレオンに向かって動き出した。
 フェンシング用の剣を作り変えたような、見た目軟弱なその剣はかすってすらいないレオンの髪を少しだけ切ってカーペットに落とした。
「どうしたの?早くしないと、その子、死んじゃうよ?」
「…ッ」
 いわれなくても、というようにルカは動き出す。
 刀が桃色の髪とともに美しく舞い、それをレオンが素早くかわしては挑発するようにまた、無防備な格好になる。そうして、またルカが飛び掛る。
 その力は、ルカよりもレオンのほうがずっとずっと上回っているように見えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔Ⅲ 16

こんばんは、最近、名前をリオンにカタカナ変換するのが面倒で面倒で仕方がないリオンです。
今日の要約いってみよう!!
「レン落ちたね。」
です。思いつかなかったんだ。あえてもう一つあげるなら、
「カイトはちょっと不憫な子。メイコはもっと不憫な子(出番的な意味で)」
だって長いじゃないですか。
それで…だれか、考えてくれません?(←他力本願の塊)
そ、それじゃ…逃げるように逃げます(?)
また明日!

閲覧数:535

投稿日:2009/08/21 22:38:23

文字数:2,363文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    みずたまりさん、こんにちは!!
    あ、ちゃんとレン、届けてきましたか?行き先教えずにやったんでどうなったのか心配だったんですが。
    あ、レンはイラストとか美術とか得意そうですもんね。
    強く見えるよう…て、あれですか?レンが敵をなぎ倒して進む的な?
    弱く見えるよりか、レオンに追い回されているようにでもしてやってください。

    ありゃ~…。レン、死亡フラグですかね?
    あ、もういいや。ラン、ばこーんと一発、ブチかましてきて良し!!
    ラ「ぃやったぁ!!レン、こっち来て!!」
    レ「お前ら、本当に味方か!?敵だろ!!」
    ラ「そんなわけ無いでしょ?クスクスクスクスクスクス…」

    なべの中身はカレーだから、かぶった後に服にしみがついて、メイコに凄く怒られるんですよ(汗)
    もう一度かぶったら、レンは引きこもりになるかもしれないので、もうやめてあげてください。可哀想過ぎます。
    レ「リオン…お前、見た目に似合わずいいやつだな…(感涙)」
    見た目に似合わずって言うのはいらないかな★ ここはメイコさんに殺ってもらおうかな♪
    レ「やっぱり、俺には味方っていないよね」
    レオ「アハハ、僕たちの仲間にな…」
    レオンの顔面に、レンの蹴りが命中しました。
    しかもその靴の裏をとても熱心に洗剤で洗っているみたいです。

    レ「ちょ、ちが…っ!!あれはやられたわけじゃねぇ!!!」
    レン君が全否定を始めたので、その言い分を聞いてやりますか?まあ、面倒なので、聞かなくても良いですかね。そういうことで、レン、あっちいっていなさい。
    レ「…俺、弱くないもん」
    ヘタレスイッチがONになって、しゅんとし始めたようです。どうしますか?
     放っておく 慰める お持ち帰り 襲う
    あ、一番最後のは、レオン向けに設置されましたんで、あしからず。
    レ「別に祈ってくれなくたって良いもん。ふんだ」

    あれ、ネックレスはうろたんだーの証ですが?
    毒で卑怯なんて言ってられないくらい卑怯になるんじゃないですか?(←書いたのお前だろ)
    まあ、面白いですけどね。…でも、流石にそろそろ私も自重と言うものを覚えましたので(汗)
    次の投稿も見てやってください。

    2009/08/22 15:38:14

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