「あ!マスター!猫がいるよ!!」



道端に座り込み、鏡音リンは数歩歩いた先にいるマスターに話しかける。

「ん?ああ、ホントだな。でもな、リン。猫なら家にもいるだろ?」
リンに呼ばれると、マスターは彼女の隣に立ち、屈んでリンの頭を撫でる。

「だって、みんなにいっぱい抱っこされて、リンには抱っこされてくれないんだもん。」
拗ねた様子でリンは答える。この会話も、今年で30回目だ。

「何回も言ってるけど、そうそう飼えないんだよ。俺の給金的にも。分かってくれよ。」
リンの為にももう一匹増やしたい所だが、今以上猫を飼うと縄張り争いが絶えない気がする。

「分かってるけど、みんなが…。」
今にも涙を見せそうな表情をし、リンは呟く。


(うーん、どうすっかな。今の状態じゃあ、3匹が限界…。あいつらに言っとくか。レンならリンの気持ち、分かってやれるよな。)


「いつまでもしゃがんでる訳にもいかないし、リン、行くぞ。」
もう一度リンの頭を撫で、マスターは立ち上がり歩き出す。

「ま、マスター、待って!」
マスターの後を、リンはとことこと早歩きでついて行った。





「ただいまー。」
自宅マンションの部屋を開けると、部屋は静まっていた。



みゃあ。



お帰り。と言わんばかりに二人の足元に猫達が擦り寄る。

「あー、腹減ったんだな。ったく、あいつら5人もいるクセにどこ行ったんだ?」
なぁ?と猫達に声を掛ける。


「たまちゃん…。」
白猫の白玉を抱き上げ、リンははにかむ。


みゃあ。


真っ直ぐにリンを見つめ、白玉は鳴いた。

「ただいまー。あいつも居るのにどこにいんだお前ら…って、寝てたのか。」
リビングに入ると、ソファにはKAITOとレンが、奥の畳の部屋にはMEIKOがミクを守るようにして寝ていた。

「随分タイミングがいいな…。」

「私が寝かしつけたのよ、雅人。」
雅人が呟くと奥から女性が現れた。

「…優理子か。」
雅人は、女性、優理子を見つめて呟く。彼女は雅人の彼女で、雅人と同棲中だ。

「だって、リンがずっと猫を抱っこしたいって言ってたから。そろそろ帰る時間かと思って寝かしつけといたの。丁度お昼寝の時間だしね。」
足元に寄ってきた猫を抱き上げ、優理子は三毛猫を姫子と呼んだ。

「まぁ、いいけどな。リンも嬉しそうだし。
座る所ないから、KAITOかレン、起こすか。」

「ひどいわねぇ、このマスター。」
と二人が話した時、リンがレンの傍に動き、白玉の髭をレンの頬に寄せる。

「リン…、恐ろしい子。」

「ああ。」
優理子の真面目ぶった呟きに、雅人は笑いを堪えて答えた。

「ん…、なんだよ、くすぐったいだろ、リン…。」
恐らく無意識であろうレンが呟いたのはリンの名だった。

「………。」
徐に白玉を手放すと、リンはレンの脇に手を置き、こちょこちょとくすぐり始めた。

「んぁ…?ちょ、リン、くすぐったいってば!止めて!」
と、起きたレンが叫ぶ。あんな事を呟なければ、まだマシな起き方だったろうに…と、雅人と優理子は遠い目をしていた。

「謝る!?レン!」
レンをくすぐりながら、リンはレンに訊ねる。

「謝る!謝るから止めて!」
目尻に涙を浮かべ、レンは叫ぶ。

「ならよし。」
そうつぶやくと、リンはレンから手を放し、再び白玉を抱き上げる。

「人がせっかく気持ちよく寝てたのに…、なんだよ?リン。」
くぁ…と欠伸をしながら、レンはリンに訊ねる。

「何だっていいでしょ。マスターが座るとこないって言ってたから、ついでに。」
ねー、と白玉に微笑む。

「なんて迷惑な…。
マスターたちもそれなら普通に起こしてくれれば良いのに…」
リンのやつ…と恨めし気にリンを睨む。



「マスター、リン、帰ってたんだ。お帰りなさい。」
いつの間に起きたのか、三毛猫の姫子と黒猫の黒玉と戯れていた雅人と優理子は声のほうに振り返る。

「やっぱりね。ゆりちゃん、リンの為に昼寝なんて言い出したのね。」
MEIKOはむくりと起き上がると、雅人に抱かれている黒玉を受け取り、言った。

「めいちゃん、知ってたの?」
不思議そうな顔をして、優理子はMEIKOに尋ねる。

「うすうすね。知らなかったの、レンくらいじゃない?」

「ちぇっ…俺だって、知ってたもん。MEIKO姉、俺だって猫抱きたい!」
いそいそとMEIKOに近寄ると、レンは黒玉をMEIKOの腕から半ば強奪する。

「ん…?マスター、リンちゃん、帰ってたの?お帰り…」
レンが黒玉を強奪したので起きたのか、ミクがむくりと起き上がると、眠そうに目をこすりながら訊ねる。

「ただいま、ミク。ごめんな、起こしちまったか?」

「ううん、大丈夫。」
まだ眠そうに、ミクは答えた。

「ミク姉、玉ちゃんだよ!やっと抱っこできたの!」
先ほどまでリンとレンは睨めっこしていたが、ミクの声がすると二人は一目散にミクの元へ寄る。

「あ、ほんとだぁ。レンも抱っこできたんだね、よかったじゃない。」
二人の手に抱かれた猫を見て、ミクはうれしそうに微笑む。

「うん!でも俺、リンにこちょこちょされたんだけど!」
リンの起こされ方をまだ根に持っているのか、レンは黒玉を抱き、ミクに訴える。

「はいはい、レンはあの馬鹿を起こしてくれない?黒玉は私が抱くから。」
MEIKOも先ほど黒玉を強奪されたのを根に持っているのだろうか、レンの腕の中の黒玉を受け取ると、レンにはKAITOを起こすようにと命じる。

「ちぇっ。」
口を尖らせレンはしぶしぶとKAITOを起こしにかかった。



「じゃあ、ちょっと早いけど、影の薄い俺らは夕飯の準備でもするか。」

「そうね、そうしましょ。」
仲良く猫を構いあうボーカロイドたちを横目に、マスターたちは料理を開始するべくキッチンへ向かった。

ボーカロイドたちはKAITOを起こして、また壮大な猫の取り合いを開始した。


しばらくして、リンとレンがKAITOの猫占有によりマスター二人に訴えてくるのは、別のお話。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

道端、猫、争奪。

ショートストーリーで、ほんわかじゃないかなと思います。起承転結はあまりないかも知れません・・・。

猫を中心に生活している人たちのお話。

散歩中、マスターと歩きながらリンは猫を見つける。その愛くるしい姿に、自宅に居る猫たちの姿と重ね合わせ、自分の願望が叶わないと嘆く。
そんなリンのため、マスターはどうしようかなと案を模索する。

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投稿日:2009/04/02 03:10:55

文字数:2,517文字

カテゴリ:小説

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