「Turndogじゃない……珍しいわね、こんなとこで会うなんて」





そう言ってルカさんは近づいてくる。とうとう4回目だ。創造者が想像した世界を散歩して回るのがそんなに珍しいかおまいら。


いつもの出勤用バッグに、鼠色のピーコートを羽織って、桃色の手袋をつけている。それでもやっぱり寒いのか、顔が少しばかり赤い。耳なんか真っ赤だ。



……綺麗。そして可愛い。



「……な~~~~~にじっと見てんの……よっと!!」
(すぱーん)
「いだっ!!?」


鮮やかな鞭の一撃が俺の脳天に直撃。戦闘用の鉄鞭じゃなくて罪人制圧用の普通の皮鞭だったからいいものの、流石ルカさんというべきか、かなりの衝撃が来た。

足が崩れて思わずへたり込んでしまう俺に、流石のルカさんも慌てはじめたらしい。


「え、ちょ、大丈夫!? ごめん、ちょっと手加減しなさ過ぎた……」

「そこフツー手加減するとこだよね!?」


死なれたら困る相手に手加減なしで鞭奮うとか何してんですかあんた。

それにしてもくらくらする。脳が揺らされたせいか、うまく立ち上がれない。

どっぐちゃんも心配そうに見る中、立ち上がるのに四苦八苦していると……



「……ほら」

「……………!」



急にぐっと体が持ち上げられる。ルカさんが首根っこを掴んで持ち上げてくれたのだ。

ルカさん(正確にいえばVOCALOID全般だが)にしてみれば、人間など仔猫みたいな軽さなのだろう。


「ありがとな、ルカさん」

「……ま、非はこっちにあるし」


少し顔を背けて答えるルカさん。横顔いいよ横顔……じゃなくて。


「それにしても何しに来たのよ?」

「何、ちょっとした年収めの挨拶さね」

「ああ、なるほどね。あんたもそう言うこと気にするんだ?」

「ひでえ言い草だな」


俺はそんな最近のバカ者(バカな若者の略)みたいに気にしないタイプじゃないんだぜ。


一瞬会話が途切れて……そのあとルカさんが口を開いた。



「……今年1年、あなたのおかげでほんとにいろんなことがあったね」

「……」

「カイトさんが潜在音波を手に入れたり、皆で旅行に出かけたり、私やミクも潜在音波を手に入れたりして……本当に楽しい1年だったわ」

「……そうか」

「……来年はどんな年になるかしらね?」

「そうだな……少なくとも、また面倒事の尽きない1年にはなりそうだな」

「えええええええ……またぁ?」

「ああ、まただ」

「もう……」


膨れっ面で俺を睨みつけてくる。だがその顔は次第に緩んで、小さなほほえみへと変わった。

その心に沁み込む笑顔には、俺もいいものを返さなきゃな。



「だがまぁとりあえずは……1月の終わり、お前のために最高の夜をプレゼントしてやるよ」



「!」


今度は驚きが満ち溢れ、そしてすぐにその頬にまた赤みが差した。


『……馬鹿』


いつも凛々しく町を守るルカさん。ヴォカロ町最強の刑事、『巡音流歌統括警部補』。

だけど俺の前では、ただの一人の女性で……『ルカさん』でいてくれる。



来年も、この笑顔を見ていたいから。



貴女のために、この腕をふるいたい。



『……良いお年を、ルカさん』

『うん、よいお年を、Turndog』



ルカさんは小さく笑って、バーの中に入っていった。



《あれ、ルカちゃん、Turndogに逢わなかった?》

《外で会ったわよー、眠いからもう帰るって》

《あらあら、大学生にしては早いですね》

《何やってるんだかなぁ……》

《まぁまぁ、責めないであげましょ。それよりハクさん、スクリュードライバーを……》



「……帰るか、どっぐちゃん」

「そーね」


どっぐちゃんが虚空に手をかざすと、そこに正方形の光が現れた。

かなりあ荘の俺の部屋につながる、時空転移のワームホール。

今年もこの道のおかげで、いろんなドラマが生まれた。

来年もきっと、ヴォカロ町とかなりあ荘のハーモニーを奏でる『楽器』となることだろう。


俺たちの体は、その『楽器』へと吸い込まれていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町!Part11-4~年収め:ルカ~

ルカさん綺麗だよルカさん。
こんにちはTurndogです。

ルカさんはめっちゃ気合い入れました。
ルカさんだけは本気で年収めの挨拶を(他は本気じゃなかったんか
ま、まぁともかく……
これでヴォカロ町勢は一応全部終了。
再び舞台はかなりあ荘へ―――――

閲覧数:116

投稿日:2013/12/31 21:38:55

文字数:1,722文字

カテゴリ:小説

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