それは、とある夏の日のこと。



「うわ、外 あっっっついね~」
「あつい……ですー……」
 いつものように、お昼御飯を持ってきてくれたカイトとサイト。ふたりを迎えに外に出て、あまりの暑さに一瞬でウンザリしてしまった。館内は冷房が入ってるから、外がこんな灼熱地獄化してるとは知らなかったわ。
「また猛暑日だそうですよ……最高気温38℃とか言ってました……」
「38℃……やめてー溶けるー」
「……ですー……」
 聞くだけで目眩がしそうだ。そんな中を歩いてきたのだから、カイトもサイトもぐったりしていた。とにかく、涼しいところへ場所を移そう。

「はー、涼しい……」
 ほっとした声でカイトが呟く。そりゃそうだよね、あんな暑さじゃ……。
「暑い中、来てくれてありがとう。サイトも大丈夫?」
「……っぃ、です……」
「サイト?」
 何気なく訊いた言葉に、苦しげに掠れた声が返った。えっ、とカイトが肩を見る。
 その僅かな動作に、バランスを崩したのだろうか。サイトがふらりと倒れてしまった。
「サイトっ」
 慌ててカイトが受け止める。白い手の上で、小さな身体が力なく横たわった。
「っ熱い?! マスター、」
「こっち降ろしてカイト、そっとね」
 テーブルの上に薄手のガーゼハンカチを広げ、そこにサイトを寝かせてもらう。指先で額に触れてみると、確かに熱い。
「呼吸も浅いし速いです。相当の熱が出てるんじゃ」
「朝は普通だったよね。午前中、何か変わった様子は?」
「いつも通り、元気でしたよ。お昼のアイスだって吟味してましたし」
 困惑と心配のないまぜになった顔でカイトが言う。サイトは熱の為だろう、肌が赤みを帯びてきた。
「いきなり高熱……待って、心当たりあるかも。ちょっと確認してくるわ。カイト、サイトを見てて。コート脱がせて、もし食べられそうならアイス食べさせて」
 不安げなカイトの頬を一撫でして、私は閲覧室に向かった。利用者用のパソコンが空いてるといいんだけど。



「お待たせ。サイト、どう?」
 ついでに濡らしてきたハンカチで身体を覆うと、冷たさが心地良かったのか、サイトが軽く息を吐いた。
「ま、すた……」
「今、少しアイスを」
 幾分落ち着いた様子のサイトを撫でて、看ていてくれたカイトの報告に頷く。
「そっか、ありがと。調べてきたわ――『SKTI』ってヤツみたい」
「『SKTI』?」
「『種KAITO性体温調節障害』。体温調節が上手くできなくて、突発的に高熱を出す病気なんだって」
 謎だらけな種KAITOだが、判っている事も幾つかはある。この病気もそんな中のひとつで、とあるWebページに詳しく載っていた。『KAITOの種』の存在を知った時にそこも目にしていて、流し読みした内容が頭に残っていたようだ。良かった、何でも見ておくものだ。情報を載せてくれたマスターさん、ありがとうございます。

「ま、す、たー……あつ、い……です……」
「うん、苦しいね……。カイト、アイス持ってくるのに保冷剤とかあるよね。まだ使えそう?」
「あっ、はい!」
「サイト、ちょっとごめんね」
 声をかけ、そっとハンカチごとサイトを浮かせて、保冷剤を置く。安定感に気をつけてその上に降ろせば、下から伝わる冷気で身体も冷えるはずだ。
「冷たすぎたら言ってね。できればアイス食べた方がいいんだけど、どう?」
「も、ちょっと……たべる……です」
「ん、良い子だね。無理はしないでいいからね」
 荒い息をしながらも頷くサイトに、ほんの少しずつアイスをすくって差し出した。見ていたカイトが、不審げに潜めた声で訊く。
「アイス、が、薬になるんですか?」
「体温を下げるのに有効なんだって。あとは外からも身体冷やして」
「あぁ、それで保冷剤を」
 説明すると、一応は納得したようだ。カイトは手を差し出して、アイスとスプーンを引き受けた。
「マスター、お昼食べてください。休憩時間終わっちゃいます。アイスは俺が食べさせますから」
「あ、ありがとう。じゃあお願いします」

「もぅ、いい、です……」
 アイスカップの中身が3分の2ほどになったところで、サイトは食べるのを止めた。まるごと食べ切る普段を思えば少なすぎるが、あれだけ辛そうな状態を思えばよく食べた方だろう。心配そうに何か言いかけるカイトを抑えて、サイトの髪を撫で付ける。
「あぁ、結構食べられたね。頑張ったねサイト、良い子。少し眠ろうか?」
「はい、ですー……」
 それでも最初に比べれば顔色も良くなったし、呼吸も落ち着いてきたようだ。撫でられる感触に目を細め、弱々しくはあったがほんのりと笑って、サイトは目を閉じた。

「ありがと、カイト。カイトもご飯食べてね」
 微かな寝息が聞こえ出して、私はカイトに向き直った。良かったらそれもね、とアイスを指差して笑いかける。
「あ、はい。マスター、サイトは……」
「今のアイスでだいぶ楽になったみたいだし、大丈夫だよ。熱射病みたいなものらしいから、とにかく涼しいところで安静にして、身体冷やして……冷やしすぎには注意ね。しばらく休ませて様子見て、このまま落ち着いてるようなら連れて帰ってあげて。帰り道も暑いだろうから、クーラーバッグに入れてってあげてくれる?」
「わかりました。……ごめんなさい、来る時もっと気をつけてれば」
「私もね。サイト用に涼しい服と帽子作らなきゃ」
 責任を感じているのか、しゅんとしてしまったカイトの手を軽く叩いて、私も反省した。夏の炎天下を歩かせるのに、麦藁帽子ひとつ用意していなかったとは……不覚だわ。
「ごめんね、サイト」
 起こさないようそっと詫びると、カイトも視線を落としていた。ごめん、と小さく口の中で呟いて。



 いつの間にか、随分『お兄ちゃん』になってるなぁ。
 サイトを見守るカイトを見つめて、密かにそんな事を思う。こんな時に不謹慎かもしれないけど、ちょっと嬉しい。
 不甲斐無いマスターでごめんね、サイト。もうこんな事がないように、もっと気をつけるから。ゆっくり休んで、元気になってね。

 今日は帰りにショップに寄って、サイトの種を植えたあのアイスを買って帰ろう。たくさん心配してくれる『お兄ちゃん』にも、何か甘くて美味しそうなのを。
 休憩を終えて仕事に戻りながら、そう決めた。あとは、夏場の移動用にサイトの暑さ対策を考えなくちゃ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

KAITOful☆days #12【KAITOの種】

猛暑日続きで最高気温38℃は実話です…昨日ニュースで言ってました。メルトするわもう、と思ってたら今日も朝から暑くて、ふとこの話が降りてきました。
『KAos~』が一段落するまでは種っ子をUPする気はなかったんですが、時期的なネタだし今やるしか!と即書き。朝 発案→執筆→夜 UP、と、1日でやっちゃってます。

突発ネタなのでナンバリングは「EX」で。そんなにカイマス描写ないなーとタイトルから注意文を外してみましたが、あった方がいいのかなぁ。冒頭の注意文もどうなんだろう。タグには入れておいていいかな…?
※(9/18)ナンバリングを「#12」に変更しました。

最後が何か上手く纏まらなくて、ブツ切りっぽい気もするけど、これ以上書いてもグダグダになりそうなので止めておきます(-_-;)

※『種KAITO性体温調節障害(SKTI)』については、種っ子小説の先達様からお借りしました。
 → SKTI設定(霜降り五葉様):http://piapro.jp/content/kvmdv9jh3msqt1kf(前のバージョン)

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【KAITOの種 本家様:http://piapro.jp/content/aa6z5yee9omge6m2

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 ↓ブログで各話やキャラ、設定なんかについて語り散らしてます
『kaitoful-bubble』 http://kaitoful-bubble.blog.so-net.ne.jp/

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2010/08/02 UP
2010/08/30 編集(冒頭から注意文を削除)
2010/09/18 改題(#-EX→#12に変更)

閲覧数:222

投稿日:2010/09/18 20:59:01

文字数:2,635文字

カテゴリ:小説

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