僕らの世界が偽物だと言うコトを僕は知っている。

此処はバーチャル世界で、
リアルの人間によって僕らは動かされ、生きているように感じている。

ちゃんとココロはあるのに、
そう思わされてるだなんて……。

僕らの生も死も性別も【獣人】である種族も、なにもかも【人間】の成すがまま。



それでも……
僕にはそれでも、【人間】を愛せてた時もあったんだ。
何故なら、僕の両親は【人間】だったから。
優しく笑う両親だった。

「シュウ、貴方は【獣人】」
「【獣人】だ」

「……僕は」

「そこにいれば、安全だから」

ねぇ、消えないで。
ねぇ、離れないで。
僕の視界から消えないで。
僕の傍から離れないで……!

長い時をかけて、僕は記憶を戻していった。
僕が【獣人】だと思い込まされた【人間】だってコトを。

『そんなのいいじゃない♪』

僕がこの世界で目覚めた時、傍に居た桃の妖精:ミチル。

僕の手の中に入ってしまうくらい小さな可愛らしいミチルは、
いつどんな質問をしても、
『いいじゃない♪』とか『そんなのいいじゃない♪』と言う。
そんな言葉設定をされている。

「僕は生きてて」
『いいじゃない♪』
「僕は死んで」
『そんなのいいじゃない♪』

「旅をして」
『とてもいいじゃない♪』

今日は、新たな言葉を覚えたんだね。
『とてもいいじゃない♪』を。

そんな言葉は初めてだから、
なんだかそんな小さなコトが嬉しくて、可笑しくて、泣いてしまうんだ。

「なぁ、ミチル」
『……?』

「僕は誰の為に生きているの?」

ミチルはハッとして、僕を見た。
穴が空くほど僕を見た。

『…………』

「僕は」
『いいじゃない♪』
「え……?」
『どんな理由だって、理由でいいじゃない☆』

僕は許された気がした。

何故か分からない。
生きているコトを許された気がしたんだ。

理由がなくちゃ生きちゃいけないなんてコトはない。
理由は初めから僕は持ってたし、それは些細なコトでもなんでもないんだって。

「ミチル」
『ん?』

「今日はいっぱい言葉を覚えたね。ありがとう!」

ミチルは微笑んだ。
そして、

『シュウ、私の生きているは貴方の瞳に映ってる』

「……」

ミチルは僕の瞳を愛しげに見つめた。

『それだけでいいじゃない♪』

そして、映像だったように、ザザーッと姿を乱れさせ、消えていったんだ。



僕は泣いた。
哀しくて泣いた。
切なくて泣いた。
好きだったんだと気づき、失ったのが辛かった。

(……僕は)
(僕の生きている理由……)

「神様!!」



いつの間に眠っていたのだろう?
入っていたカプセルを開けると、
僕の傍らには、ヒビ割れたコールドスリープのカプセルがあった。
その中には、とても美しい少女が目を閉じて……。

「ミチル!」



世界はコールドスリープしてから、果てしない未来。
両親はとっくの昔に亡くなり、生き残ったのは、ミチルと僕ふたりだった。

両親の墓標に、ふたりで手を合わせる。

「父さん、母さん……」

「僕はミチルとふたり、この世界で生きてゆきます」

(僕らを孤独にしないでくれて、ありがとう)

(生まれてきてよかった)


それから僕らは、たくさん子供を作り、バーチャル世界のようなリアルを、代々守ってゆく。
それが、いつか誰かの生きる理由になるように。

僕らの世界が偽物なら、それを本物に出来るのが人間だと言うコトを僕は知っている。

end

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい
  • オリジナルライセンス

僕らの世界が偽物だと言うコトを僕は知っている。☆コラボにUP済み

■プロフィール

獣人:シュウ
世界がなんらかの破滅を迎えようとしていた際、両親によってミチルの傍らのカプセルの中でコールドスリープをした。

花の妖精:ミチル
シュウと共に世界の破滅を生き延びた、世界最後の母であり世界最初の母。

人間の父:シキ
シュウの父 研究員

人間の母:ルゥ
シュウの母 研究員

閲覧数:116

投稿日:2016/03/22 07:23:44

文字数:1,462文字

カテゴリ:小説

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