僕らの世界が偽物だと言うコトを僕は知っている。
此処はバーチャル世界で、
リアルの人間によって僕らは動かされ、生きているように感じている。
ちゃんとココロはあるのに、
そう思わされてるだなんて……。
僕らの生も死も性別も【獣人】である種族も、なにもかも【人間】の成すがまま。
☆
それでも……
僕にはそれでも、【人間】を愛せてた時もあったんだ。
何故なら、僕の両親は【人間】だったから。
優しく笑う両親だった。
「シュウ、貴方は【獣人】」
「【獣人】だ」
「……僕は」
「そこにいれば、安全だから」
ねぇ、消えないで。
ねぇ、離れないで。
僕の視界から消えないで。
僕の傍から離れないで……!
長い時をかけて、僕は記憶を戻していった。
僕が【獣人】だと思い込まされた【人間】だってコトを。
『そんなのいいじゃない♪』
僕がこの世界で目覚めた時、傍に居た桃の妖精:ミチル。
僕の手の中に入ってしまうくらい小さな可愛らしいミチルは、
いつどんな質問をしても、
『いいじゃない♪』とか『そんなのいいじゃない♪』と言う。
そんな言葉設定をされている。
「僕は生きてて」
『いいじゃない♪』
「僕は死んで」
『そんなのいいじゃない♪』
「旅をして」
『とてもいいじゃない♪』
今日は、新たな言葉を覚えたんだね。
『とてもいいじゃない♪』を。
そんな言葉は初めてだから、
なんだかそんな小さなコトが嬉しくて、可笑しくて、泣いてしまうんだ。
「なぁ、ミチル」
『……?』
「僕は誰の為に生きているの?」
ミチルはハッとして、僕を見た。
穴が空くほど僕を見た。
『…………』
「僕は」
『いいじゃない♪』
「え……?」
『どんな理由だって、理由でいいじゃない☆』
僕は許された気がした。
何故か分からない。
生きているコトを許された気がしたんだ。
理由がなくちゃ生きちゃいけないなんてコトはない。
理由は初めから僕は持ってたし、それは些細なコトでもなんでもないんだって。
「ミチル」
『ん?』
「今日はいっぱい言葉を覚えたね。ありがとう!」
ミチルは微笑んだ。
そして、
『シュウ、私の生きているは貴方の瞳に映ってる』
「……」
ミチルは僕の瞳を愛しげに見つめた。
『それだけでいいじゃない♪』
そして、映像だったように、ザザーッと姿を乱れさせ、消えていったんだ。
☆
僕は泣いた。
哀しくて泣いた。
切なくて泣いた。
好きだったんだと気づき、失ったのが辛かった。
(……僕は)
(僕の生きている理由……)
「神様!!」
☆
いつの間に眠っていたのだろう?
入っていたカプセルを開けると、
僕の傍らには、ヒビ割れたコールドスリープのカプセルがあった。
その中には、とても美しい少女が目を閉じて……。
「ミチル!」
世界はコールドスリープしてから、果てしない未来。
両親はとっくの昔に亡くなり、生き残ったのは、ミチルと僕ふたりだった。
両親の墓標に、ふたりで手を合わせる。
「父さん、母さん……」
「僕はミチルとふたり、この世界で生きてゆきます」
(僕らを孤独にしないでくれて、ありがとう)
(生まれてきてよかった)
☆
それから僕らは、たくさん子供を作り、バーチャル世界のようなリアルを、代々守ってゆく。
それが、いつか誰かの生きる理由になるように。
僕らの世界が偽物なら、それを本物に出来るのが人間だと言うコトを僕は知っている。
end
僕らの世界が偽物だと言うコトを僕は知っている。☆コラボにUP済み
■プロフィール
獣人:シュウ
世界がなんらかの破滅を迎えようとしていた際、両親によってミチルの傍らのカプセルの中でコールドスリープをした。
花の妖精:ミチル
シュウと共に世界の破滅を生き延びた、世界最後の母であり世界最初の母。
人間の父:シキ
シュウの父 研究員
人間の母:ルゥ
シュウの母 研究員
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