「ロシアンちゃん、ありがとう!まさかあなたが助けてくれるだなんて、思ってもなかったわ…。」
マンションに戻ったルカたちは、ロシアンに深々と頭を下げた。
ロシアンは小さく笑いながら応える。
『久々に寄ってみたら、やたらと騒がしい馬鹿がいるから吹っ飛ばしてやっただけさ。まぁ、見知った顔が襲われていたから助けたというのも半分ぐらいはあるがな。』
もちろんこの言葉はロシアンが自分の口でしゃべっているのではない。しかし以前のようにルカが通訳しているのでもない。ルカたちの頭に、直接響いてくるのである。
そのことがどうしても気になって仕方ないという顔をしているミクが、ロシアンに訪ねた。
「ロシアンちゃん、テレパシーなんてできたの?」
『ん?ああ、これか。この1年の間に、必死で練習したのだよ。再びお主らに会う時に、ルカを媒介してだとどうしても手間がかかるからな…。直接話せたほうが、ルカに面倒をかけなくて済むしな。』
「そんな!私は気にしないわよ、そんなの!」
ルカが必死に否定するが、ロシアンは眉一つ動かさず切り返す。
『吾輩が気にするのだ。そんなことより、あのみょうちくりんな武士について教えぬか。』
「あ…そ、そうね。あいつはね…。」
はたと気づいたルカは、がくぽについてのことをロシアンに手早く事細かに説明した。
説明を聞き終わったロシアンは、ため息をついた。
『まったく…作り手が違うとはいえ、かつての仲間でもある同族を殺そうなどとは、見下げたやつよ…。それで、お主らはこれからどうするつもりだ?』
ルカは少し考え込んでから答える。
「そうね…今夜一晩しっかり休息を取って、明日に備えr」
『お主ら死にたいのか。』
言葉を遮られ、ぴしゃりと言い返され、ルカは思わず口をつぐんだ。
ロシアンは静かに立ち上がって話し出す。
『いいか?奴は本気でお主らを殺しにかかってきているのだろう?だとすれば間違いなく、町民を脅迫してでもこのボカロマンションのことを聞き出し、夜のうちに襲撃をかけてくるはずだ。しかも奴はお主らに二度も逃げられ、怒り心頭のはずだ。今夜必ず、奴はここを襲撃に来る。お主らから聞いたやつの性格ならば、ボカロマンションごとお主らを斬り捨てるつもりであろうな。』
「そんな!この建物には一般の人たちもいるのに!」
ミクが悲痛な声を上げた。
リンとレンがずいと詰め寄って、ロシアンに問いかける。
「それじゃあ何!?あたしたち寝れないわけ!?」
「それだけはたまったもんじゃないぜ!何とかしろよねこ助!!」
ねこ助とは無論ロシアンのことである。ロシアンは多少呆れ顔をしながら答えた。
『…ねこ助はやめぬか。…だから、吾輩が外で番をしておいてやる。』
「はあっ!?あんた…正気!?」
「がくぽに一人で立ち向かうつもりなのか!?」
それまで黙って話を聞いていたメイコとカイトが口を挟んできた。
ロシアンはさも当然というかのように鼻を鳴らした。
『吾輩を誰だと思っている?齢300年の猫又ぞ。この世に生まれてたかだか数年の若造に殺されるとでも思っているのか。』
「だ…だけど!あいつの強さはそんな生半可なもんじゃ…!」
必死に訴えるルカを、ロシアンは鋭い目つきで睨みつけた。
恐ろしく静かな、しかしその場の空気を一変させるほどの迫力に、ルカのみならず一同はたじろいだ。その迫力は、がくぽだの世界有数の軍隊だの、そんな猛者が発しているわけではない。一介の猫から発されているのだ。
『…300年。かつて想った猫又を見つけるために、300年旅をしながら鍛え上げてきた。その想いが、ねじ曲がった忠義からくる想いに負けてたまるものか。…何、いざとなったら、奴を全力でどこか遠くに吹き飛ばせばよいだけのこと。お主らは何一つ心配することなく、寝こけていればよい。』
ロシアンの迫力と、覚悟に根負けしたのか。ルカが小さくため息をついて、答えた。
「わかったわ。お願いするわね、ロシアンちゃん。」
ルカの言葉に、満足そうにうなずくロシアン。
『決まりだな。…お主らはもう寝ろ。疲れを取っておらねば、勝てる戦いも勝てぬぞ。』
ロシアンの言葉に促され、いそいそと自分たちの部屋に戻っていくルカたち。その様子を見ながら、ロシアンは尻尾を揺らしながら外に出た。
その尻尾には、碧い焔が渦巻いていた。
その夜。ボカロマンションに近づく人影があった。
紫の長髪。腰に差した楽刀。がくぽである。
静まりかえったボカロマンションを前に、がくぽは不敵に笑った。
「ふん…!どうやら寝静まったようだな。やはり奴ら、戦いに慣れておらぬ。その甘さこそが、貴様らの命取りだ!!」
とん…と空中に飛び上がるがくぽ。そして抜刀術の構えから、楽刀を振りぬいた。
生み出された空気の刃は、まっすぐにボカロマンションめがけて飛んでいく。そのままボカロマンションごと、『C’sボーカロイド』を両断する―――はずだった。
次の瞬間、虚空に突如碧い焔が巻き上がり、空気の刃を包み込んで消えた。
「!?」
がくぽは驚きを隠せない。
すると、ボカロマンションの5階の真ん中あたりで、ゆらり、ゆらり…と焔が揺らめき、そしてその焔に照らされて2本の尻尾を持つ猫の姿が浮かび上がった。ロシアンである。
がくぽは鋭い眼差しでロシアンをにらみつけた。
「貴様か…昼間拙者の邪魔をしたのは!」
『その通りだ。吾輩の名はロシアン。ルカたちは吾輩の友人なのでな。貴様ごときに殺させるわけにはいかん。』
ロシアンの言葉が癪にさわったのか、より一層殺気を漲らせたがくぽが楽刀を握る手に力を入れた。
「今なら見逃してやる。そこをどけ!!」
『それはこちらの台詞だ。齢300年の猫又たる吾輩に、そう簡単に勝てると思うな!!』
挑発で返され、がくぽは怒り心頭だ。
「…いいだろう!!建物ごと切り刻んでくれる!!」
そう言ってがくぽは飛び上がり、ロシアンに向かって唐竹割を仕掛けた。
ロシアンはそれを一瞥すると、尻尾を一回だけ揺らした。
その瞬間、碧い焔ががくぽと楽刀を包み込み、受け止めた。そしてそのまま、焔は地上に向かって押し出され、がくぽは咄嗟に地上に降りて距離を取った。
ロシアンは微笑をたたえてがくぽに言う。
『なんだ?大見得きっておいてその程度か?ならば今度はこちらからいくぞ。』
すっくと立ち上がったロシアン。その2本の尻尾の周りに、焔の玉が4つほど浮かび上がった。
『『焔槍(ほむらそう)』!!』
ロシアンが叫んだ瞬間、4つの焔の玉は4本の鋭い焔の槍となり、がくぽに向かって撃ち出された。
飛び退ってかわすがくぽ。その今までがくぽがいた場所に猛スピードで突き刺さった焔の槍は、直後、爆発して地面を吹き飛ばした。
(攻撃にも、防御にも使える焔か…厄介だな。)
「だがしかし!攻略できないほどではないっ!!」
叫んだがくぽは、瞬時に楽刀を鞘に収め、ほぼ同時に抜刀して振りぬいた。
鋭い空気の刃が飛んでいくが、ロシアンは難なく焔で包み込んで防ぐ。
がくぽは再び楽刀を鞘に収め、収めきると同時に抜刀。そう、超高速の抜刀術の連撃だ!
次々繰り出される空気の刃を、ことごとく防ぐロシアン。しかしさしものロシアンも、冷や汗を垂らす。
(超高速の抜刀による、“鎌鼬(カマイタチ)”を飛ばしているのか…!あのスピードで刀を鞘に収める腕前も、抜刀術を連撃で繰り出す全身の筋力も、それに耐えうる刀の強度もさることながら、高速で鎌鼬を飛ばす技術も大したものよ…!)
すると突然、鎌鼬の嵐が止んだ。見れば、がくぽが楽刀を中段に構えて佇んでいる。
「…やはり『鎌鼬ノ乱』では通用せぬか…。ならば我が最強剣で葬り去ってくれる!!」
叫ぶなりがくぽは空中に飛び上がった。
「楽舞剣術漆の太刀!!極意…『楽舞十字斬(がくぶじゅうじざん)』!!」
刹那―――――がくぽの身体が流水の如く舞い、蒼く輝く楽刀が十字の太刀筋を描き出す。そして十字の太刀筋は、蒼い光の刃となり、ロシアンに襲い掛かった。
ロシアンはこれまでのように碧い焔で受け止める。その瞬間、ロシアンは目を見開いた。
(!?これは…今までと同じ鎌鼬ではない!!気功か…波導のようなもの…!!機械人間である奴が、なぜこのような技を使えるのだ!?)
ロシアンの驚愕に答えるかのように、地上に降り立ったがくぽが勝ち誇る。
「楽舞十字斬とは!!楽刀に伝わらせた音波振動を最大限に高め、楽刀に内蔵された生体エネルギーを作り出すプログラムで音波を実体化させて放つ斬撃!!貴様も建物も、まとめて切り裂いてくれる!!」
徐々にロシアンの焔が押されていく。がくぽの楽舞十字斬の威力に、競り負けているのだ。ロシアンは激しい焦りに見舞われていた。
(くっ…マズイな…このままでは突破される…!!…あれを使うしかない…か!!)
突如、ロシアンの周りから、莫大な量の碧い焔が噴出した。今までとは比べ物にならない量だ。焔はボカロマンションの前面を全て覆い尽くした。
「はっ!!その程度で防御できるとでも思っているのか!?貴様の負けだ、猫又ロシアン!!」
がくぽのその言葉に呼応するかのように、蒼い刃は焔を突き抜け、ロシアンの体に食い込んだ!!
『ぐううううおおおおおおおおあああああああああああああああああ…!!!!!』
ロシアンの絶叫と、ロシアンの体が切り裂かれる音とともに、ボカロマンションにも蒼い刃が食い込み、切り裂いていく。
蒼い刃が貫通した直後、ボカロマンションは形を支えられなくなり、ガラガラと崩落していく。
その崩落の音に混じって、がくぽの高らかな笑い声が鳴り響いていた。
「はは!ははははは!!はーっはっはっはっはっは!!!!どうだ!!この神威がくぽの力を見たか!!猫風情が手こずらせおって!!はーっはっはっは…!!」
がくぽはそのまま、高笑いを続けながら去っていった…。
がくぽが去った後、ボカロマンションの『亡骸』は異様な変貌を遂げていた。
突如、瓦礫と化したボカロマンションから碧い焔が吹き上がった。
いや、ボカロマンションだけではない。周りのおれた木々や傷ついたマンション前の広場、更にはボカロマンションが有った『空間』からも碧い焔が噴出していた。
その碧い焔が空中に飛び去ると、そこにはなんと傷一つないボカロマンションが、元通りの姿で建っていた。
空中に飛び去った碧い焔が、ボカロマンションの五階中央付近に降り注ぎ、消えていく。
焔が完全に消えたそこには、これまた怪我一つしていないロシアンが佇んでいた。
その時、部屋の一つのドアが開いた。中から表れたのは、寝間着姿のルカだ。
「ロ…ロシアンちゃん…?」
心配そうに見つめるルカをちらりと見たロシアン。そのまま、ふらりと倒れこんだ。
「!?ロシアンちゃん!?」
咄嗟に駆け寄って、抱き留めるルカ。全身から力が抜けているロシアンに、必死に呼びかける。
「ロシアンちゃん!?…ロシアンちゃん!!」
ルカの呼びかけに、ロシアンはけだるそうに目を開けた。
『…心配するな。少し…疲れただけだ。』
ロシアンの言葉にホッと胸をなでおろすルカ。そして、ふと誰もいない広場を見つめた。
「がくぽを…倒したの!?」
『…いや…退けるだけにとどめた。奴め…想像以上の強さだった。全力を結集して倒しにかかれば可能だったかもしれんが、吾輩もただでは済まぬと判断したからな。しかしやはり…100年近く力を使っておらなんだ、そのブランクは大きかったな…。』
「一体…何をしたの?」
ルカの問いに、ロシアンは抱かれたまま上体を起こしつつ、尻尾を揺らしながら話し出した。
『…吾輩の体を包むこの碧い焔…吾輩はこれを『碧命焔(へきめいえん)』と呼んでいるのだが、この碧命焔は攻撃・防御にも使えるのだが、最大の真価は…幻術に用いたときに発揮される。吾輩はこの焔で奴の前面に、幻を作り出してやったのだ。思った通り、奴はこのボカロマンションを崩落させたものと思い込み、去っていった。』
「ロシアンちゃん…あなた、こんなに強かったんだ…。」
『吾輩を見くびるな。齢300年の猫又ぞ。…だがしかし、いささか疲れた。今宵はこれで休むとしよう。』
ルカがロシアンを下ろそうとしたが、ロシアンはそのルカの腕を尻尾で引きとめた。
「…?」
ルカが疑問に思うと、ロシアンは少しそっぽを向いてつぶやいた。
『…お主のところで寝てよいだろうか?お主がそばにいると…安心する。』
「…!…いいわよ…ロシアンちゃん。」
ルカはロシアンを抱きかかえたまま、部屋の中へと戻っていった。
紫色の騎士と鏡の音 Ⅳ~深夜の決闘!!ロシアンVSがくぽ~
猫又と武士の決闘。これほど"和"なSFがあろうか。こんにちはTurndogです。
初期のロシアンを知っている方はびっくりでしょう。ロシアンは恐ろしく強いのです。
この碧命焔、使い方によってはめちゃくちゃ万能なので、なるべく強くしないようにしてはいるんですが、なかなか難しいものですなぁ…www
そうそう、難しいと言えば漢字!やっぱり今回も難しいのが多いです!わからなかったら聞いてくださいね。ちなみに楽舞剣術の極意「楽舞十字斬」は「しち(7)の」太刀ですよ。
次回は作戦会議。その最中にやってきたある少女。その正体とは…?乞うご期待!!
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Re:sui
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ご意見・ご感想
june
ご意見・ご感想
和なSF。斬新ですね!
ロシアンちゃんの強さがこの一話でよく分かりました。
最初は大正なイメージしかありませんでしたがw
本日も一気読みを始めることとしよう……。
2012/08/07 20:57:33
Turndog~ターンドッグ~
ゲ○ゲの鬼太郎でありそうでなさそうな展開ですな!www
大正wwwwwいや確かに最初はそれに近いイメージではあったけど。
2012/08/08 19:37:47
しるる
ご意見・ご感想
ロシアン、かっこいい!っと思っていたのに…
ルカさんのお部屋にはいりこむなんて!
ずるい!!!←え
がくぽ強すぎるなw
これはフリーザ様クラスだね!ww
2012/03/28 14:23:22