それは、今から少し――十年ほど前のクリスマス。

「…レンはぁ？」
　ぷぅっと頬を膨らませて、小さなリンは不満を全面に押し出して言った。
「レン君はマスターとお仕事。レン君がんばってるから、リンちゃんもがんばって我慢して、ね」
　どうにか妹をなだめようとするミクだったが、そんな理屈でハイそうですかと納得するリンではなく、
「ヤダ！　レンと遊びたい！」
「リンちゃん、後ちょっとだから我慢してよぅ」
「やだもん！　レンと遊ぶんだもん！！」
「そんなこといわれても…」
　ほとほと困り果てて、ミクは後ろにいる兄へと目をやった。いまにも泣き出しそうに目が潤んでいる妹を見て、カイトはさっとすばやく、更に後ろにいるメイコに目をやった。
　姉に助けを求めることしかできないカイトにあきれながら、メイコはクリスマスケーキを出してきた。途端、リンの表情が一変して、リンはケーキに飛びついた。
　メイコはケーキをきって、１ピースを別の皿に乗せると、子供用の柄が太くて鋭利でないフォークを出して、リンにそれらを渡した。
「はい、リン。これがリンの分ね」
「ほんと！？　これ、いつもよりおっきいよ？」
「ほんとだぁ」
　隣でミクが羨ましそうにケーキを見ている。
「ミクのぶんはこっち」
　別の皿にフォークとケーキを載せて、メイコはリンに渡した。
「めーちゃん、俺のぶんは？」
「ない」
「あるよね！　大いにあるよね？　見る限りじゃガッツリあるようだけど！？」
「ないわ」
「ですよねー！」
　二人がぎゃあぎゃあ言っていると、リンがメイコの足を引っ張った。
「何でリンの多いの？　いつもよりイチゴ沢山あるよ」
　気付いたメイコは、しゃがんで、
「レンは今日遅いからね。レンの分も食べちゃいなさい」
「…」

　しばらくして、ミクがリンを見て言った。
「リンちゃん、ケーキ食べないの？」
「うん、レンと食べるの」
　言って、リンはケーキをイチゴの乗った側と、そうでない側に、フォークで二つに分けた。
　そのとき、玄関で音がした。
「ただいまー」
　マスターの声。
　リンは玄関へと駆け出していた。



そして現在。

「今日はレン君お仕事で遅いから」
「ふぅん」
　手にはケーキがある。
「…食べないの？」
「レンと食べるから！」
　そういいながら、リンはケーキをきった。イチゴが乗ったほうと、乗っていないほうの二つに分かれる。
　ちょうど玄関で音がした。
　ぱっとリンは立ち上がって、駆け出した。

「お帰りなさい！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　End And Merry Xmas!!