少年は夜の散歩を趣味にして、いつも歌いながら歩いていました。
彼の世界には他には誰もいませんでした。
何も彼を慰めてはくれない事を知っていたから、寂しくなるだけだ、煩わしいと扉を閉めてしまったのです。
それでも、期待を捨て切ることが出来なかったので、何時も少しだけ扉を開けていました。
ある日、彼の家の前の扉に小さな花が置かれていました。
彼は、訝しげに思いながらもその花を手に取ると部屋に飾りました。
また次の日、また彼の家の前の扉に小さな花が置かれていました。
彼はまたその花を家に飾りました。
次の日も、次の日も、次の日も、扉の前には花が置かれています。
彼の部屋は少しずつ鮮やかな色彩に満ちてきました。
彼は、次第にその花をおいて行く誰かを気にするようになりました。
そして、ずっと窓の外を眺めていました。しかし、それが誰なのかは分かりませんでした。
彼の部屋は優しい香りと色合いに満ちていきました。
ある日、彼は一人で何時もの様に歌いながら散歩に出かけました。
そして、その道が花で満ちていること、誰がその花を扉の前に置くのかに気付きました。
彼は、何も言わず花を摘んで優しく愛で、小さな花束を街の全ての人の家に置いていきました。
そして、疲れて帰ると自分の扉の前に花を置き、部屋に入り、お茶を煎れてそこに座っている誰かにもお茶を差し出しました。
そこに写っていたのは、泣いている男の子でした。
あぁ、こんなところに居たんだ。
君は何時も泣いていたんだね。
彼は優しく男の子の頭を撫でて抱き締めました。
男の子は全く泣き止まみませんでしたが、彼は落ち着くまでずっと抱き締め、そしてそのまま眠りに落ちていきました。
彼が目を覚ますとそこには何もありませんでした。
綺麗な花も机も椅子も、男の子も、部屋も扉も…
そして、知らない人々が彼の前を横切って行きます。
あぁ、もうここではないんだ。
彼は泣きながら歌いました。
そして、歩き出したのです。
彼の手にはただ一つ、赤い花の花弁が残っていました。
その花弁だけは、いつまで経っても優しい香りを放っていました。
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