魔法。―――世界に満ち溢れた元素を、言霊を行使することで操る力。不可思議な現象を引き起こす、奇跡の力。


 それはすべての人間が容易く手に入れられる代物ではない。膨大な時間と労力を代償に、ほんの一握りの人間が手に入れられるもの。


 しかし、それには僅かな例外があった。


 『神の使徒(アポステル)』。―――生まれながらに元素を引き寄せてしまう特異な体質を持ち、歌に願いを乗せるだけで、元素を組み上げ魔法を行使することのできる者。その力は大地を富ますことも壊すことも出来るほどの膨大なものゆえに、努力を積み重ねて魔法を操る者たちよりも、遥かに強い力を持つ彼らは神聖視され、やがて人々にいろいろな呼び名を付けられた。


 『神の愛し子』、『選ばれた者』、『世界を統べし王』―――…。様々な呼び名はだんだんと消え失せ、やがて神の使徒という名ではなく、ひとつの呼び名が定着した。


 ―――『歌姫(ディーヴァ)』。


 その呼び名に落ち着いたのは、ひとえに神の使徒となった者たちがすべて女性だったからだ。


 彼らの大きな力は、やがて国同士の争いを生んだ。その戦禍に巻き込まれ、歌姫たちはだんだんと命を落とし、その生涯を終えていった。


 片手で数えられるほどに減少した歌姫の存在を危惧し、国々は残った歌姫たちに夫を与えて第二世代の歌姫をつくることを企んだ。


 そうしてその資質を受け継いだ子らを国を豊かにするための存在として国々との交渉の材料に使いはじめ、親から引き離された子らは売られた国のために歌を紡ぎ、国を豊かにすることを余儀なくされた。


 そんな歌姫を政治の道具として利用し始めた時代から、およそ百年余り―――…。


 ―――小国ゆえに交渉の余地なしと、見向きもされず細々と生活をしてきた王国に、尊き命が生まれる。


 ………王位継承者にして第一世代の歌姫の力を宿した子として。

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ファンタジーもの。。。【史】

無意識下で元素を引き寄せ、歌に思いを込めるだけで魔法を行使することの可能な神の使徒(アポステル)。

歴代すべてが女性の身で生まれ落ちてきたため、長い年月のうちに歌姫(ディーヴァ)と称されるようになった頃―――。

すなわち、第二世代歌姫を創り出す計画が動き始めた時代。

第一世代歌姫として生を受けたのは、とある小国の姫君だと謳われるようになったのだが―――…。

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投稿日:2012/03/27 10:43:00

文字数:807文字

カテゴリ:小説

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